04 *2日目
目が覚めたのは、まだ夜も明け切らない時間だった。
ずっと蟠っていた思いを昨日全て吐き出したせいか、とてもすっきりとした気分だ。
「あ?起きたのか」
「おはよ」
灯も起きて、ベットサイドに置かれた時計で時間を確認する。
「まだ4時か」
「うん」
灯は腕の中に柊を抱き込んで、額を合わせる。
「この事知ってるのは?」
「杏路と燕と奏」
「才達には話さないのか?」
「うん。聞かれない限りは良いかなって……それに、パパは気付いてると思う」
「ありえそうだな。まぁ、これからは俺も仲間に入れてくれ。能力関係は俺が一番力になれそうだしな」
「ありがとう」
その後は、燕が2人を朝ご飯だと呼びに来るまでの間、お互い能力を全開にして飾らず素の状態で過去の出来事や日常生活などの取り留めのない事をぽつぽつと話していた。
*
食堂で朝ご飯を済ませた後は、昨日の午後と同じ様に図書塔にこもって本を読む。
少し早めに昼食を取って、また図書塔に行く。
少しして、灯に約束の南雲屋本店へ連れて行ってもらう時間になったので玄関に向かう。
玄関先には車が着けてあって、既に夏目と茜は乗り込んでいる様だ。
今日は杏路が休みを取っているので、燕の運転で向かう。
「そんじゃあ、行くか」
その一言を合図に、車が走り出した。
*
着いた先にあったのは、静かな雰囲気の漂う和菓子屋さんだった。
「南雲屋本店」は、創業260年を誇る老舗の和菓子屋で、材料や品質にこだわり、昔ながらの伝統的な和菓子の販売を主とする事で、多くの人から支持されるお店だ。
甘味屋の方は、息子さんの1人が始めたものらしい。
伝統的な商品だけでなく、今の若い人達にも気軽に和菓子を手に取って欲しいとの思いから、現代風に手を加えたり、本格的だが堅苦しくない和風スイーツなどを多く手がけ、オンラインショップでの販売に力を入れた結果、瞬く間に大人気になった。
どうせなら出来立ての和菓子やスイーツも食べてもらいたいと、本店の隣が空き家になったのをきっかけに、4年前に建てられたんだそうだ。
最初は反対していた父親も、最終的には息子の熱意と功績に首を縦に振ったらしい。
甘味屋は「翠緑庵」と言う。
隣にある南雲屋本店とは中で繋がっており、和菓子のついでにデザートを食べに行ったり、帰りにお土産を買いに和菓子屋の方に寄ったり出来る様になっている様だ。
大人気の割に店内に人が少ないのは、ゆっくりじっくり味わて欲しいとのオーナーの思いから、完全予約制の上1日40組限定なのと、一番人気の宇治抹茶アイスが1日20食の限定販売だからだろう。ちなみに、アイスの予約は残念ながら現在2年半待ちだそうだ。
店内に入ると、背の高い着物姿の男性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「おう、久しぶりだな。親父さんは元気か?」
「おかげさまで。兄に店を譲ってからは、あちこち顔を出しているみたいです」
「そうか。会うのは全員初めてだよな?俺の孫達だ」
「初めまして、この店の店主で南雲 巴と言います」
「初めまして、僕は朽木 夏目と言います。隣にいるのが茜、お爺様の腕の中にいるのが柊と言います」
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
「今日はいきなり2人も追加してくれなんて無理言って悪かったな」
「いえ、灯さんには親子共々、大変お世話になりましたから。この程度の事でしたら何時でも大歓迎ですよ」
そう言って笑いながら、半個室のスペースに案内してくれる。
「では、注文がお決まりになりましたら机の上のベルで知らせて下さい」
巴から渡されたメニューを皆で見ながら、どれにしようか悩む。
メニューには和風テイストのデザートが豊富に取り揃えられていて、どれも美味しそうだ。
「で、何食べんだ?」
「俺は宇治抹茶アイスと黒ごまあんみつ!」
「僕は宇治抹茶アイスの甘さ控えめのものでお願いします」
「おう、柊はどうすんだ?」
「う~ん……桜のシフォンケーキと抹茶のホットチョコレートにする」
「そうか、燕は何にすんだ?」
「俺も良いんすか?」
「元々守役の分も予約してあったからな。気にしねぇでいいぜ」
「では、俺も抹茶アイスでお願いします」
「柊は、アイスは良いのか?」
「うん」
「ひぃ様は俺のやつ味見したら良いっすよ〜」
「ありがとう」
「んじゃ、俺は抹茶バームと黒糖まんじゅうにでもするかな」
注文が決まったのでベルを鳴らすと、すぐに巴がやって来て手早く注文をまとめる。
「全員同じタイミングでお出ししますか?」
「悪いな、頼めるか」
「構いませんよ」
それほど待たずに頼んだ物がテーブルに届いた。
ガラスの器に美しく盛られた宇治抹茶アイス。こしあんの隣に黒ごまのクリームが乗せてあるあんみつ。生クリームとカスタードアイスの添えられた薄桃色のシフォンケーキには桜のソースが掛かている。作りたてなのでほんのり暖かい黒糖まんじゅう。味の濃さの違う抹茶風味のバームクーヘンは小さめのものが4切れ乗っている。飲み物は、茜と夏目が抹茶オレ、燕と柊が抹茶のホットチョコレート、灯がカフェオレを頼んだ。
「お待たせしました、ごゆっくりお召し上がり下さい」
「ありがとな」
「いえ。それでは、失礼致します」
そう言って巴が出て行く。
「うわー、すげぇな」
「どれも素敵だね」
「坊ちゃん方、テンション高いっすね」
「茜は念願の南雲スイーツだし、僕も機会があれば食べてみたいとは思ってたしね」
「まあ、気持ちは分かりますけどね」
「そう言う燕は、あまり驚いてないね」
「お店では初めてっすけど、本家のおやつにはたまに登場してたんで」
「はっ?何て羨ましい」
「葉様がお好きなんで、差し入れして下さるんっすよ」
「マジかー」
皆でわいわい言いながら、のんびりとスイーツを堪能した。
帰りがけにお見送りに出て来た巴にお礼を伝えて、本店でお土産の和菓子を買った。
本邸に帰ると、出かけ先から戻っていた葉が、玄関で出迎えてくれた。
お土産の和菓子を渡すと、とても喜んでもらえたので、良かった。
その後は夕飯の時間まで、図書塔の秘密の部屋に籠って一緒に読書タイムを楽しんだ。
夕飯の後は、家族4人でお風呂に入り、才と一緒に眠った。
穏やかで充実した1日だった。
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