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02


ゆっくりと目を開いた柊は視界いっぱいに広がる真っ白い天井を見つめながら気を失う前の自分の状況を思い出す。柊が寝かされていたのは、病院のベットの上だった。


その後は今の自分の状況を確認して行く。


柊がベットの上で首だけ動かして自分の手を握りしめながら椅子で眠っている才を見ると、少しやつれている様に見える。起こしてしまわない様にそっと側に放り出されたスマホを確認すると、画面には12月19日の午前6:32と表示されていた。柊の誕生日が16日なので、その日の夕方からだとすると3日近くも意識が戻らなかった事になる。


柊は才が起きるのを待っている間に今分かっている情報を整理してみると、どうやら柊は榛奈を亡くしたショックが引き金になって前世の記憶を思い出したらしい。


意識を失ったのは多分、小さな体では膨大な情報を処理しきれなかったからだろう。

なにせ、人間一人分の記憶があの一瞬でいっぺんに押し寄せて来たのだ。


柊の前世は天月(あまつき) 水鷹(みたか)と言う名前で、24歳の時に病気で亡くなった女性のようだ。


前世の記憶を思い出したと言っても、ほとんどの記憶はデータとして知ってるだけという感じだ。記憶の中にある水鷹が送っていた人生は中々ハードな環境のようなので、追体験と言う形で思い出した訳でなくて本当に良かったと思う。


と言っても、全く影響がない訳では無い。


なにせ、6歳までの柊は無口無表情が標準装備だったせいで、柊の感情の変化に気付けるのは身内や幼馴染み等、極一部の親しい人間に限られていたような子供だったのだ。


そんな子供がいきなり感情表現や会話が出来るようになっているなんて、驚きを通り越して気味悪がられる可能性もある。だからと言って前と同じ人形のように生きられるかと言われるとそこは少し無理があるので、家族には何とか受け入れて貰いたいとは思うが。


まぁ、もし仮に今の柊が受け入れて貰えなくても水鷹の知識があれば大抵の事は何とか乗り越えられそうな気がするので、とりあえず今は置いておく事にする。


今一番問題なのは、この世界が水鷹が知っている日本と別物の可能性があるという事だ。


水鷹が24年間で得た知識ではありえない存在がこの世界では当たり前のように受け入れられていたり、逆に柊の6歳までの記憶と知識の中にある誰もが知っていて当たり前のものが水鷹の記憶には存在しなかったりと、全く噛み合ない部分がある。


もし水鷹の記憶の中にある情報が正しい場合、この世界はゲームの世界の可能性がある。


水鷹の記憶にあるゲームの世界観と柊の認識している世界がそっくり同じ上に、ゲームに登場するキャラクター達に顔も名前もそっくりな人が何人かいる。


ゲームにはBLゲームと乙女ゲームがあって、二つとも同じ世界観で作られていた。


BLゲームの方は操作が苦手なせいでゲームの類いには興味関心がなかった水鷹が珍しく寝食惜しんでやり込んでいたかなり詳細に覚えている。その前作として出されていた乙女ゲームの方はまだ初めたばかりだったので少し怪しい部分があるが……


BLゲームの方は、『秘密の恋が芽吹く時間 ~Secret Garden~』と言うタイトルだ。


通称『蜜恋』では、主人公の従兄弟が海外留学から戻って来て同じクラスに編入する所から物語が始まる。期間は高校2年の約一年間。攻略対象者は通常ルート6人+隠しルート1人の計7人で、逆ハーレムルートや悪役は存在していない。隠しキャラの好感度を上げられるようにするには、特定の条件をクリアしてからサポートキャラに話しかける必要がある。クリアせずに隠しキャラと会っても好感度は上げる事ができない仕様になっている。


そして、プレイヤーのデフォルト名として設定されているのが「朽木 柊」だ。


ゲームの攻略対象者は、保険医の「蓮見(はすみ) 零次(れいじ)」、弓道部部長の「獅道(しどう) 伊織(いおり)」、新聞部部長の「七海(ななみ) 琥珀(こはく)」、風紀委員長の「禄宮(ろくみや) (すばる)」、従兄弟の「朽木 (あらた)」、情報屋の「鈴鹿(すずか) ネオン」、隠しキャラの「黒木(くろき) 樒伽(みつか)


それと隠しキャラ攻略の為のサポートキャラクターが「笹原(ささはら) 維千歌(いちか)


乙女ゲームの方は『満開の花が紡ぐ恋 ~Sweet Garden~』と言うタイトルだ。


通称『花恋』では、父親の海外転勤に合わせてヒロインが2年生の四月から桜ノ宮学園の高等部へ編入する所から物語が始まる。設定は『蜜恋』と一緒だ。


ヒロインの名前は「桃園(ももぞの) 愛子(あいこ)


攻略対象者は、担任教師の「笹原 維千歌」、図書委員会長の「有栖川(ありすがわ) 真白(ましろ)」、スポーツ少年の「佐久間(さくま) 健一(けんいち)」、生徒会長の「一宮(いちみや) 煌雅(こうが)」、生徒会副会長の「御影院(みかげいん) (ながれ)」、生徒会会計の「二ノ宮(にのみや) (はじめ)」、隠しキャラの「日下部 秋羅」


そして、隠しキャラ攻略の為のサポートキャラクターが「朽木 柊」


水鷹の記憶にあるネット小説などに良くある転生モノの知識でいうと、主人公がストーリー通りハッピーエンドを迎えるパターンと悪役サイドがザマァしつつハッピーエンドを迎えるパターンの話などがあるが、柊の場合はどちらだろうか?


もし前者なら柊には攻略する気は微塵も無いし後者の場合はそもそもこのゲームに悪役が存在していないので問題はなさそうに思える。少数だがゲームの世界そのものに転生ではなく二次創作の舞台に転生するパターンなんかもあるようなので、本当にこの世界が乙女ゲームやBLゲームのどちらか、もしくは両方の世界だとすれば、だけれど。


物語の強制力や歴史の修正力みたいなものはあるのだろうか?


この世界が乙女ゲームだった場合はまだ良いが、BLゲームだった場合はとても困る。

水鷹は腐女子だったが、流石に柊の体で試す気は微塵も無いので。


柊がそんな事を思っていると、病室のドアが開いて夏目と茜が入って来た。

扉を開けた所で柊と目が合った二人が慌てたようにベットの側に駆け寄って来る。


「っ!ひぃ、起きたのか」

「ひーくん!」


夏目と茜が騒ぐ声に、才が起きてしまったようだ。体を起こした才は騒がしい二人に苦笑を零した後、ベットの中の柊と目を合わせて優しく笑いかけてくれる。


「おはよう、ひーちゃん」


才がナースコールで柊が目を覚ました事を告げると、柊の病室に白衣の男性がすぐに駆け付けて来てくれた。部屋に入って来たお医者さんは柊の周りを不安そうにうろちょろする二人を慣れた手付きで病室から追い出すと、柊の体温を測ったり軽い問診を始める。


「熱もほとんど下がってますし、今日一日様子を見て他に異常が無い様なら、明日には退院しても良いですよ」


と言ったお医者さんは廊下にいる夏目と茜に「騒がしくしないなら入っても良いですよ」と声を掛けてから、才と一緒に病室を出て行った。


入れ違いに部屋の中に入って来た茜はまだ眠いと言いながらベットによじ上って来た。

柊は大人用のベットに寝かされていたので、茜と並んで寝転がっても全然余裕がある。


柊の布団に潜り込んで本気で寝ようとしている茜の様子を見た夏目も苦笑しつつ反対側に寝転んだ。茜と柊の肩までしっかり布団を引き上げて、頭を撫でてくれた。


それ程経たずに寝息を立て始めた茜に引きずられるように夏目も眠ってしまった。


病室に戻って来てその様子を見た才はスマホで写真を取ってから、口元に指を立てて柊と目を合わせてると目が冴えてしまった柊を二人の間から抱き上げて布団を整える。


才は暖かい格好をさせた柊を抱っこして売店まで連れて行く。


談話室のソファーに座って才が買ったアイスを口に入れて貰った所で、ようやくお腹が減っていた自分に気付いた柊が才を見上げると、才は静かに微笑んでアイスの乗ったスプーンを柊の口元に運んでくれる。


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