02
離れの探検も終わったので、ダイニングへ行き、昼食を頂く事にした。
「おう、探検は楽しかったか?」
灯がニヤニヤ笑いかけながら席に着く。
「あんな貴重品、普段使いなんかにして良いのかよ」
「あ?別に物は物だろうが。買ったもんどうしようが俺の勝手だろ」
「うわぁ」
ドヤ顔の爺さんから顔を逸らし、テーブルに並べられた昼食のメニューに意識を移す。
今日の昼食は、事前に夏目がリクエストしていた、香坂さんのパスタだ。
香坂さんは元葉付きの料理人で、現在は時々料理しに現れつつ余生を満喫中らしい。
机の上には、オニオンスープとサラダ、綺麗に大皿に盛られたパスタが並べられている。
定番のミートソースにベーコンたっぷりのカルボナーラ、彩り野菜のペペロンチーノに明太子といくらの刻みわさび乗せ、ジュノベーゼに牛肉としめじの醤油バターの6種類だ。
「張り切って色々用意してたからな、好きな物を取って食べると良い」
「あのおっさん、材料からこだわってたからな」
皆は好きな物を多めに、全種類食べるみたいだ。柊は食べられない物もあるので、ベーコンたっぷりのカルボナーラと明太子といくらの刻みわさび乗せをよそってもらった。
最初にシーザーサラダを食べてから、パスタを食べる。濃厚なチーズの味と大きめに切られたベーコンがもちもちの麺に絡んだカルボナーラの後は、口の中をリセットする為にオニオンスープで一息。それからたっぷりの明太子といくらが細めの麺に絡んで、わさびのアクセントが絶妙な明太子といくらの刻みわさび乗せを頂く。
噂に違わない絶品パスタを食べ終わった後は、デザートのティラミスだ。食べる人によって味が調整されていて、甘いのがそれほど得意では無い夏目もぺろりと平らげていた。
*
楽しかった昼食も終わったので、さっきはさっと流すだけだった図書塔に突撃だ。
茜は分家の方にある道場に遊びに行くそうなので、玄関で見送った。夏目は部屋にいるそうなので、そのまま玄関で別れる。図書塔に行くのは、柊、杏路、燕、灯、葉の5人だ。
屋敷の奥に増設された二階建ての白い塔には、灯が世界中から収集した本達がひしめき合っているらしい。高揚した気分のまま塔の扉を開けると、最近の話題作からずっと探していた古い作品まで、あらゆるジャンルの本達が丁寧に保管されていた。室内には、中の本に直射日光が当たらない様に計算された天窓からの、柔らかな光が降り注ぎ、壁には重厚な本棚が埋め込まれ、扉の脇には二階へと続く階段がある。反対側には読書スペースが設けられ、ゆったりくつろげる様に、寝椅子には沢山のクッションが並べられている。
まさに本好きの楽園とでも言うべき場所だった。
「これまた凄い部屋ですね」
「元々本邸の書庫に入り切らない灯の本を保管する為に渡した所だからな」
「改装工事で、ここが一番気合い入れて作ったかんな」
「ひぃ様、めっちゃ嬉しそう。目ぇキラッキラすよ」
「本好きだって聞いてたからな、好きなだけ入り浸って良い様に整えたんだよ」
「残念ながら聞こえてなさそうですね」
柊がふらふらと見回っていると、部屋の真ん中の本棚が円状に並んでいる所に、一つだけ違和感のある本棚を見つけた。入り口のちょうど反対側にある本棚だ。
「おお、良く見つけたな」
「?」
「この本棚はダミーなんだよ」
そう言って、灯は本棚の真ん中の本の背表紙の上に手を掛けて、手前に引いた。
本を引くと、何処からかカチリと音がして、目の前の本棚が静かに床に吸い込まれて行く。動かした本棚の後ろには、深緋色の扉が隠されていた。
「えっ!?何ですかその仕掛け!」
「ここ建てた爺さんが完全に一人になりたい時の避難場所として使ってたシェルターだよ。元々この場所には書斎があってな、工事の時に偶々見つけて、勿体ないから有効活用しようって事になってなー」
「と言っても、仕掛けだけ整備し直した以外は完全に別ものになっているから、これを有効活用と言っても良い物かは疑問が残るがな」
「細かい事気にしてると禿げるぞー」
軽口を叩きながら、扉の厳重なロックを解除する。
「この扉は俺と葉と柊しか登録してないからな。避難所代わりに使って良いぞ」
扉の中には、下へと続く螺旋階段がある。本棚1つ分程の降り口から階段を下って行くと、下の部屋には絶版の希少本などが保管されている本棚の並んだ空間が広がっていた。
室内にある全ての本棚には指紋認証式のロックが掛かっている。
「ここのは滅多に無い貴重な本ばかりだからな、厳重に管理されてんだよ」
「世間に出回っていないものなんかもあるからな」
「それは、凄いですね」
つい興奮して、降りる時に繋いだ灯の手に力を込めてしまった。
「ははっ、柊なら全部開けられっから、好きにしろ」
そう言って背中を柔らかく押される。心の赴くままに部屋の中の本を眺めて回る。
手には既に、杏路が用意した手袋を装着済みだ。
本棚に張り付いて、中の本をじっくりと堪能している柊達を眺めて、灯と葉は読書用のカウチソファーでくつろぐ。2人の前のテーブルには、杏路が倒れても溢れないマグと一口サイズに個包装されているチョコレート、グミ、マシュマロ、キャンディーを並べる。
「ありがとう、これなら本を汚す心配も無いな」
「サンキュー」
「マシュマロとキャンディーの方は香坂さんからの差し入れです。」
「マジか」
大人組がわいわいしている所に、ほくほく顔の柊と腕に本を抱えた燕が戻って来た。
「読みたいのあったか?」
「全部?」
「はは、全部か!好きなだけ読め」
「ありがと」
灯の隣に座って、持って来た本を膝の上に広げる。
ゆっくりと丁寧にページを捲り、真剣に読み始める。
「私はまだ予定があるからな、先に上がってる」
「おう、俺はここで柊と本でも読んでんわ」
「才が来るまでには戻る様に」
「あいよ」
本に夢中な柊の邪魔をしない様に、そうっと葉が立ち去った。
「お前らも上から好きな本取って来て良いぞ」
「はい、お言葉に甘えます」
「何読もっかなー」
杏路と燕も本を取りに行き、灯も近くの本棚から何冊か引っ張りだす。
穏やかで静かな時間が過ぎて行った。
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