*GW 【※加筆&修正中】
入学式から1ヶ月が経った。
今日から始まるゴールデンウィークは、朽木家の本邸で過ごす事になっている。
実は当主である葉とは、任命式の後から時々無料通信アプリのGRENでやり取りをしている。
今回の帰省も、人の多い所に遊びに行けない柊を気遣って、誘ってくれたものだ。
今朝は灯からも連絡が入っており、楽しみにしてると書いてあった。朝から嬉しい気分になって、足取り軽く一階のリビングへ行くと茜がゲームをしていた。
「何だひぃ、ご機嫌だな」
茜が座っているソファーへ近づき、手に持っていたスマホの画面を見せる。
「灯ちゃんから」
「えっ、いつの間にあの爺さんと連絡先の交換なんかしてたんだ」
「一緒にお昼寝した時に」
「任命式のときか!」
「うん」
「で、何て言って来たんだ?」
「一緒に甘味屋さんに行こうねって」
「甘味屋ってあれか?爺さんが贔屓にしてる和菓子屋」
「分かんないけど、南雲屋って所」
「マジか……あそこ滅茶苦茶人気で、予約無しには入れない所だぞ」
「そうなの?皆で行きたいって送っちゃった」
「実は俺、あそこの宇治抹茶アイス1回食べてみたかったんだよなぁ」
「あ、返信来た。いいぞー、3人共俺が奢ってやるって」
「良くやった、ひぃ!」
感極まった茜に膝上に抱き込まれ、頬にキスされた。
「そんなに美味しいの?」
「何でも、京都の最高級宇治抹茶を独自の技術で風味そのままにアイスにしたってかなり有名なんだよ。1日20食の限定販売だから、今から予約しても2年待ちって話だぞ」
「すごいね」
「おう」
そのまま茜の膝の上で灯へ返信を送る。
「爺さん、ひぃにデレデレだな」
「そうなの?」
「俺なんか連絡しても返信来るの次の日とかだし、前に連れてってくれって頼んだ時なんか、レースで勝てたら考えてやるって言って、本当に考えただけだったからな」
「勝ったのに?」
「そう、俺が勝ったのに」
そこに図書館に本を返しに行っていた夏目が帰って来た。
「ただいま。2人でゲームしてるの?」
「いや、ゲームは俺だけ。ひぃは爺さんとGRENで話してる」
「灯さんと?」
「明日の午後は、南雲屋本店に連れてってくれんだと。俺達3人」
「灯さんが僕達まで連れて行ってくれるって言ったの?」
「ひぃが聞いたらそう言ったんだよ?おかげで俺達の分まで奢ってくれるって」
「へぇ、それは凄いね」
夏目が冷蔵庫から飲み物を取り出すついでに、今日の朝食を机に運んでくれる。
「茜は食べたの?」
「いんや、まだ。このステージだけクリアしてから食うつもりだったから」
「そう、帰りがけに吉田ベーカリーのパン買って来たんだよね」
「照りマヨ残ってたか?」
「最後の1つだったから、三等分ね。後は、ミニクロワッサンとコーンマヨと揚げたてのカレーパンもあるよ」
「おー、タイミング良いな」
「ちょうどお会計する時に揚げたてが出て来たからね、追加してもらっちゃった」
「でかした」
3人で朝食をとったら、出掛ける準備を済ませておく。才は仕事なので、向こうで合流する予定だ。
家を出る9時まではまだ少し時間があるので、各自好きな事をして過ごす。
*
9時になったので、荷物を持って玄関へ行く。
迎えに来た杏路と燕が荷物を車に積み込む間に、車の中に入って待つ。
「今本邸には誰が残ってるんだろう」
出発してから少し経った頃、車の中で落とされた夏目の質問に燕が答える。
「皆旅行だ何だって出払ってますからね、今だと御当主と灯様ぐらいしかいらっしゃらないんじゃないですか」
「まぁ、人が多いなら呼ばないだろうしな」
「京さんは残ってるのかなって思ってね。柊はまだ新に会った事無いから」
「そう言えば、同い年か」
「京様はイギリスの支社でトラブルが見つかったらしく、新様も御一緒に行かれたはずですよ」
「そうなんだ、京さんも大変だね」
「あの方は仕事が生き甲斐ってタイプっすから気にしてなさそうっすけどね」
「本当に2人しか居なそうだな」
「分家の人間も最低限の人員を残して、休暇を満喫してるはずですからね」
そんな風にのんびり話しながら進んで行きお昼前には本邸に着いた。
玄関の所には、入り口の門から連絡が入ったのか、葉と灯が出迎えに出てくれていた。
「3人とも、良く来たな。ゆっくりして行くと良い」
「久しぶりだな、くそガキども」
灯はそう言いながら、最後に車から降りて来た柊を抱き上げて、頬にキスをする。
どうやら、我が家のスキンシップが多いのは、灯からの影響のようだ。
「あんま重くなってねえなー、まあ良いや、元気だったかぁ」
「ん。灯ちゃんも元気?」
「徹夜でアメリカからヘリ飛ばすくらいには元気だぜ」
「むしろお前はもう少し落ち着け」
「あー、聞こえねぇ」
「ガキかよ」
呆れている葉と茜を無視して、杏路の降ろす荷物の方に向かう。
「荷物は離れに運べよ」
「離れは改装中と伺っていますが」
「おう、柊が来るって聞いて俺の所のやつらが張り切っちまってな。もう改装工事は終わってんぞ」
「離れ?」
「人間嫌いの先々代の当主が中庭の奥に建てたやつな、元々人も多くはねぇし、持て余してるって話しだから、俺が貰ったんだよ」
「だから改装してたの?」
「いんや、貰ったっつっても物置代わりに使ってただけだしな、……今回どうせだからゲストハウスの代わりにでもするかと思ってな」
「それにしたって、あれはやり過ぎだろう」
「別に家の金に手ぇ付けた訳じゃねぇんだし、良いだろうが。どうせ死んだら金なんてあっても使えねぇんだから、今必要な事に使った方がお得ってな」
「何やったんだよ爺さん」
「特別な事は特にしてないぞ」
「最新のセキリュティーシステムに医療設備やらシェルターやら自家発電やら詰め込んでおいて良く言う」
「可愛い孫の為だからな、必要経費だろ」
「僕?」
「そうそう、お前の為だ」
想像もしていなかった理由に、呆然とする。
柊が固まっている間に、残りの孫が容赦なく口撃を加える。
「思いっきり引かれてんぞ、爺さん」
「まあ、はっきり言って、重いからね」
「うるせえぞ、くそガキども」
とりあえず、既に終わっている事を今更無かった事には出来ないので、お礼を言っておく。
「えっと……ありがと、灯ちゃん」
「おう。柊なら、好きなだけ使って良いかんな」
「ん」
そうして辿り着いた離れは、想像とは違って、普通の一軒家程度の大きさの建物だった。
「想像していたよりは小さいですね」
「元々、人間嫌いの爺さんが一人暮らしの為に建てた洋館だからな」
「中もどちらかと言えばシンプルに纏まっていて、特別華美という訳でも無いですしね」
それぞれの滞在部屋に荷物を置き、離れの中を探検に行く。
「おい、待て。良く見たらとんでもないぞこの家」
「正気ですかね」
「?」
「あのー、俺の記憶違いで無ければあの家具、超プレミアもんでとんでもない値段が付いてた気がすんですけど……」
「本物だろうな」
「確かに、これはやり過ぎですね」
この世界のブランドなどには疎い柊には分からなかったが、置いてあるアンティーク家具はとんでもない代物らしい。
1つ手に入れるのも難しいとされる物がシリーズで揃えられていたり、それ以外にも、部屋に使われる素材だったり、この家を構成する物がとんでもない値打ち品ばかりだったので、体力よりも精神力を使い果たし、離れの探検は終わった。
「爺さんの本気を見た」
「と言うより、朽木家の人脈あってこそだよね」
「だな」
とりあえず、詳しく聞く勇気は無かったので、気付かなかった振りで普通に使う事にした。
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