03
「最初から覚えてるか、途中で思い出すかは個人差があるらしいけどな」
「たまに自分を物語の主人公か何かだと勘違いして暴走した結果、イロイロやらかす馬鹿がいるんっすよ。もちろん、まともな人もいるっすけど」
「居ると言う話は聞いた事がありましたが、そんなにですか?」
「確か、一宮の分家だったか?」
「そうっすよ……中途半端に権力持ってたもんだから、かなり大変だったっす」
「うわー、御愁傷様」
テーブルに突っ伏した燕の頭をかき回した奏は、カップを見詰めてぼうっとしている柊の目の前で手を振る。気付いた柊に安心させるように笑いかけて、優しく頭を撫でる。
「まぁ、ひぃ様はあんまり気にしなくても良いけどな」
「そうなんっすか?今代の子供達には比較的能力者が多いって言ってませんでしたっけ」
3人があまりにも普通の事のように話していたので、柊はつい、聞いてみたくなった。
「……ねぇ、もし僕が転生者っだって言ったら、信じる?」
「もちろん、信じますよ」
「薄々、気付いてはいたからな」
「普通に納得するっすね」
撤回する間もなく、即答だった。
「と言うか、隠そうとしてたのか?」
「うん。多分、言っても信用して貰えないと思ってたし、前の世界では転生者何て言ったら頭のおかしい人扱いだったし……」
「前の世界、ですか?」
「えっと、パラレルワールドって言ったらわかる?」
「んっ!?何すかそれ!初耳なんっすけど」
「?」
「俺達の言う転生者は、この世界の人間として生きた前世の記憶を持っている人間の事だぞ」
「そうなの?」
「ひぃ様の言う前の世界ってどんな所だったんっすか?最近流行りのアニメみたいなのっすか」
「……数字付きと能力者が存在しない世界?」
「へぇー、全然想像できないっすねぇ」
柊の思い出した記憶について全員興味があるようなので、思い出した経緯と、今の世界と前の世界で違う部分について、ゲームの話を除いて簡単に説明する。
「話を聞いた感じだと、柊が能力に懐疑的だったのは無理の無い話のようですね」
「1人で抱えるのは大変だったろ?話してくれてありがとな」
そう言って頭を撫でる奏に大丈夫と言おうとしたら、言葉より先に涙がこぼれ落ちた。
「あれ?何で……」
杏路が取り出した真っ白なハンカチで柊の顔を拭ってくれる。
「泣けるだけ泣いておけ」
「っごめ、なさ」
「全然良いんすよー。よしよし、もう大丈夫っすからねー」
「うー……」
「余計泣かせちゃったんすけど!えっと、どうすれば良いっすか!?」
「とりあえず、まずはあなたが落ち着きなさい」
昨日泣いたおかげか、柊の涙が止まるまでに、それほど時間は掛からなかった。
「もう、大丈夫」
「それは良かったっす」
「記憶がある弊害みたいなもんだな……中身がどうあれ体は子供だから、ひぃ様が自分で思ってるよりも感情に引っ張られる。思い通りに行かない事が多くてもどかしいかもしれないが、その内に慣れるだろ」
「あー、なるほど。俺だっていきなり子供になったら、煩わしくてイライラしそうですしね」
「これからは私たちがサポートしますので、安心して良いですよ」
「まずは、色々溜め込む前にこまめに吐き出す事を覚えるんだな」
「遠慮しないで俺等にバンバン相談してくれて良いっすからね!」
「ん、ありがと」
杏路が全員の飲み物を入れ直した所で、燕が話を再開させる。
「ひぃ様の中身って今、大人の女性って事っすよね?どう扱ったら良いっすか?」
「今までと同じで大丈夫だよ。女の人だった記憶があるってだけだから」
「そうなのか?」
「うん。別に女の人になりたいとも思わないし」
「ひぃ様の恋愛対象って女の子っすか?」
「多分?まだ誰かに恋した事無いから、良く分からないけど……」
「まぁ、ひぃ様ならどっちでも大丈夫っすけどね。能力者には特例で同性婚も認められてますし、朽木家は他家と違って恋愛結婚推奨派っすから」
「そうなの?」
「あぁ、本人達がそれで幸せなら基本は関知しない感じだな」
「ひぃ様の身近な人間で言えば、あのカフェのオーナーも同性愛者っすよ」
「!」
「ちなみに、あのカフェのパティシエがその恋人な」
「まあ、普通は聞かれなきゃ言わないっすからね」
「ひぃ様は特に偏見とか無いっすか?」
「うん。前は腐女子だったから、多分普通の人よりは理解のある方だと思う」
「一応言っておくと、俺はバイで同性の恋人が居る」
「私は今の所、ノーマルですね」
「俺も今の所はノーマルっすね~。でも俺、ひぃ様なら全然行ける気がするっす」
「何の報告ですか……」
「確かに、道を踏み外しても納得しちまいそうな造形だけどな……変質者には気を付けろよ?」
「杏路さんがいる限り、向こうから逃げ出すと思いますけどねー」
「能力持ちだしな」
柊が不思議そうな表情を浮かべたのを見て燕が教えてくれる。
「あれ、聞いてないっすか?杏路さん、犬飼の能力もちっすよ」
「私はてっきり才様から聞いてらっしゃると思っていました」
「守役は能力で決まる訳じゃないし、教える必要ないと思ったんだろ」
「あー、才様ってそういう所ありますよね」
「納得した所で、俺も柊って呼んで良いか?」
「良いよ」
「じゃあ俺は、あえてのひぃ様呼びで!」
「あとついでに杏路も守役同士なんだし、丁寧に話さなくて良いからな」
「了解っす」
「お前じゃねえ」
「私の話し方は癖のようなものですので、追々と言う事で」
話がちょうど一段落した所で、モニターの向こうの入学式が終わったみたいだった。
「全然見てなかったっすね」
「特に重要な事もないし、問題無いだろ」
「中等部の方もそろそろ終わりの時間ですね」
「HRとか自己紹介とかで、合流までにはもう少しかかるっすけどね」
「終わったら担任が挨拶に来るから、奥のベッドで今の内に少し昼寝しとけ」
「皆が来たら起こしてね」
「もちろんっすよ~」
柊が横になって30分程経った頃に個室の扉がノックされた。
杏路が誰が来たのか確認し、開けたドアから茜が中に入って来る。
「柊ん所の担任も一緒に来てんだけど」
「入れて良いぞー」
「どうぞ」
「邪魔してすまない。一応挨拶だけでもと思ったんだが……」
「柊は?」
カーテンの向こうから出て来た奏が後ろを指差す。
「寝てるようなら出直した方が良いか?」
「いや、柊は人の気配に敏感だからもう起きてる」
奏が言い切った所で、燕に手を引かれた柊がカーテンの奥から出て来た。
「少しは眠れたか?」
「大丈夫」
「ひぃ、はよ。お前の担任連れて来たぞ」
茜が入り口の所に立っていた男性を指す。
背の高い黒髪の男性がゆっくりと近づいて来て、柊の目の前にかがんだ。
「寝ていた所悪いな。俺は1年2組の担任で巫斯梛 蘇芳と言う。何かあったら何時でも相談してくれ」
「初めまして、柊です。よろしくお願いします」
「よろしく」
蘇芳は本当に挨拶の為だけに来たみたいで、そのまますぐに立ち去って行った。
入れ替わるように才達が合流したのでおやつタイムにする事にする。
「海月さんのデザートは、相変わらず美味しそうですね」
「フルーツの形が星形になってたりすんの、絶対柊を意識してだろ」
「あの人、子供好きだからね」
「海月?」
「さっき話した、Lune noireのパティシエの名前ですよ」
「命の恋人の?」
「男同士って話はもう聞いた?」
「うん」
「そっか」
柊が特に気にしてないのが伝わったのか、才は微笑んだ。
「今はそこまで珍しくもないけどね……。もし恋人ができたら遠慮しないで紹介してね?3人共僕と違って見る目がありそうだし、特に反対とかしないから」
「まあな」
「茜、そこは否定する所じゃないの?」
「だって事実だし。それより、秋羅達は?」
「日下部様でしたら、水城様がこの後すぐにドイツに行かれるとの事でしたので、先に帰しました」
「空港までお見送りっすか?」
「そのようですね」
人もまばらになって来たので、柊達も帰り支度を始める事にする。
カウンセリングルームを出た柊達は雀の運転する車でLune noireへ向かい、夕方まで個室でゆっくりと過ごしてから入学祝いの食事会を楽しんだ。
*ブックマーク&評価&感想、ありがとうございます。




