*初等部入学
―― 4月4日 桜ノ宮学園 初等部 入学式
柊がベットから下りて見上げた寝室の窓の外には、雲一つない晴天が広がっていた。
ベットから抜け出した柊に気が付いた才は、後ろからそっと柊の体を抱き込む。
「ひーちゃん、おはよう」
「……ん、おはよう」
柊が腕の中から才の顔を見上げて返事をすると、寝室の扉がノックされた。
「……才様、起きていらっしゃいますか?雀です」
「おはよう。柊も起きてるから、入って来ても構わないよ」
「失礼致します」
静かに部屋へ入って来た雀が用意してくれていた服に着替えた才に紺の詰め襟とダークグレーのズボン、両脇に校章が入っている膝下まである黒い靴下に着替えさせて貰った柊は、真新しい制服に着替え終わった姿を見て絶賛する才とその様子を微笑ましげに見詰める雀と一緒に部屋を出た。才は書斎に用があるようなので、柊は洗面所で寝癖を整えてから自分の部屋に行き、机の上に用意しておいたランドセルを抱えて先に一階へ向う。
リビングには既に制服に着替えた夏目と茜がテーブルに着いて朝食を取っていた。
「おはよう、ひー君」
「はよ、ひぃ」
「……おはよう」
柊が返事を返した所にちょうど入って来た才と雀に、夏目と茜が挨拶を済ませる。
夏目は近づいて来た柊の頭を撫でて柔らかく微笑んだ。
「制服、似合ってるね」
「……ありがと」
柊がほわりと笑顔を浮かべながらお礼を言うと、茜も褒めてくれた。少し照れてはにかむ柊の様子に「何これ可愛い」と言いながら後ろから茜が抱き着いて来る。
そこへ朝食が運ばれて来たので、柊は才と雀の間に、茜は夏目の隣に座る。
「入学式だけど、残念ながら奏から出席許可が下りてないんだよねぇ……ひーちゃんどうする?初等部のカウンセリングルームで待ってる?」
「うん」
「少し早めに行って、クラスだけ確認しようか」
「そうする」
「パパは中等部の方の入学式に出るつもりなんだけど、大丈夫そうかな?」
「大丈夫……奏も一緒にカウンセリングルームに居てくれるんでしょう?」
「杏路と燕の2人も一緒にひーちゃんのサポートとして登録してあるから、心配いらないからね」
「ん、ありがと」
話を聞いていた茜がクロワッサンをちぎりながら不思議そうに口を挟む。
「ん?隣ん家はどーすんの?」
「別々で行く事になってるよ。守役でもないのに流石に入学式を欠席させる訳には行かないからね」
「俺はてっきり、一緒に行って向こうで別れるのかと思った」
「水城も日本に帰って来ているそうだし、せっかくの入学式なんだから家族水入らずの方が良いと思って」
「それもそっか」
「帰りは一緒に帰るつもりだけどね」
聞き覚えの無い名前に首を傾げる柊に気付いた才達から秋羅の母親である水城の話を聞きながら朝食を終え、出掛ける用意を整えて全員で玄関へ移動する。
先に学校へ向かう才と柊が夏目と茜に見送られて外へ出ると、車の横には杏路と燕も揃っていたので、軽く挨拶を交わしてから一緒に雀の運転する車に乗り込む。
*
柊は学校へ向かう間に才から桜ノ宮学園について色々と教えてもらった。
桜ノ宮学園は共学で、都心を少し外れた所にあり、駅に近いので電車やバスも多く、交通の便は非常に良い。初等部と中等部は隣り合っていて、その上に高等部の敷地がある。
この世界がBLゲームの世界なら桜ノ宮学園は男子校、逢坂学院は女子校になっている筈なので、この世界のベースとなっているのは乙女ゲームのようだ。
初等部は1学年は4クラスで、クラス替えが無いので卒業まで同じ顔ぶれで過ごす事になっている。普通の学校と違い、通う子供の大半は良家の子息令嬢なので、側近候補や御側仕え、従者などは、なるべく同じクラスにしないと、家からクレームが入ったりするらしく、正当な理由があれば双子の兄弟姉妹や親戚などの近親者も同じクラスになる事ができる。なので、柊も秋羅と同じクラスになる事が決定している。
四階建ての校舎は、一階部分に職員室、保健室、カウンセリングルーム、事務室、校長室、理事長室などがあり、二階部分に1、2年生の教室。三階部分に3、4年生の教室。四階部分に5、6年生の教室。校舎の二階にある渡り廊下は特別棟へと繋がっている。特別棟は隣の敷地にある中等部の校舎とも渡り廊下で繋がっている為、合同で使用する。
三階建ての特別棟の一階部分には広い講堂や放送室、音楽室や個人練習の為の防音室、PCルームや自習室などがあり、二階部分には理科室や家庭科室などの各教科の部屋とその準備室、茶道室や華道室などが入っている。初等部と繋がる渡り廊下がある方の階段から上がった三階部分には生徒会室と風紀委員室があり、真ん中にある会議室と資料室で半分に分かれていてる。反対側の三階部分にも同じように生徒会室と風紀委員室があり、そちらは中等部と繋がる渡り廊下がある方の階段から上がる事が出来るようになっている。
三階には生徒会役員や風紀委員とその顧問、会議のときのみ各委員会の委員長と副委員長が入る事が出来る。会議室と資料室は合同で使用しているが、初等部側の扉は初等部にある鍵で、中等部側の扉は中等部にある鍵でしか開かないようになっているらしい。
特別棟の下には食堂があり、大半の生徒はここで食事を取る。それ以外の一部の生徒は弁当を持参するか食堂の横に併設されている購買利用者などだそうだ。
食堂の中には二階席があり、成績上位者と役員、特待生と支援生のみ使用出来る。
二階席の部分は中等部側にある食堂の二階席と繋がっているので、個室スペースで食事をしながらの合同会議に使ったりなども出来る。
校舎の反対に広がる広い敷地内には、グラウンドと体育館の他にも温水プールやテニスコート、武道館や弓道場などの屋外競技場がある。
安全面は前にも聞いていた通りかなり充実していて、敷地内には無数の防犯カメラが設置されており、警備室で常駐する警備員が常にモニタリングして目を光らせており、巡回も定期的に行われている。他にもAEDや担架などの設置、自家発電装置や貯水装置などの災害対策、その他にも非常時に対する設備は最新の物が揃っているそうだ。
入学の際に配られる腕時計型のデバイスが学生証になっていて、各教室や保健室の入り口などに設置されている機械に翳す事で出欠席の確認を行ったり、教職員からの呼び出しや風紀委員の違反者に対する減点などの確認に使う事が出来る。その他にも食堂や購買、自動販売機などで財布の代わりに使用する事が可能で、使用料金の請求は保護者が指定している口座から月末にまとめて引き落とされ、保護者宛に各家庭へ明細書が送られる。
他にも細々とした注意事項を聞いている内にどうやら目的地に着いたようだ。
才と柊、杏路と燕の4人は正門前のロータリーで下ろしてもらい、駐車場に向かう雀の車を見送って、校舎へと続く緩い坂道を登って行く。
坂道の両脇は桜並木になっていて、柊は才と手を繋ぎながら桜のトンネルを抜けた。
入学式に出席するにしても早い時間帯なので、ほとんど人がいない。
柊達は昇降口の手前に張り出されているクラス分けの表を見上げて1組から順に確認して行き、2組の所に柊の名前を見つけた。同じクラスには秋羅の名前もある。
「柊は2組みたいだね」
「うん」
「確認も済んだし、行きますか」
「カウンセリングルームは保健室の奥っすよー」
目的地のある場所を燕に教えてもらった柊は才に手を引かれて昇降口へ向かう。
特別支援制度の対象者は専用の出入り口があり、そこからは直接保健室へ繋がっている。
靴箱は自分のクラスの方にもあるので、どちらを使用しても良い事になっている。
靴を履き替えた柊達は専用の通路を進み、保健室へ向かった。
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