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ミトスター・ユベリーン 立ち昇る太陽  作者: カズナダ
世界大戦
19/29

ルリエナ海戦1

 帝国海軍連合艦隊がノーグスパン泊地を出港して12日、ヨル聖皇国の対日懲罰連合軍の大艦隊に至っては2ヶ月が過ぎ去った。


 ルリエナ洋の海面は非常に穏やかで、これから戦火が交じり合われることなど将官から一兵卒まで誰一人として予想することは出来ないだろう。何せ、連合艦隊旗艦『大和』の直ぐ脇をイルカが飛び泳いでいるのだから。


「各艦、速力18ノットを維持。輸送船からの燃料と食料の補給、滞りなく終了。っと。」


 戦闘前の緊張感は何処へやら。大和以下70隻の戦闘艦への補給を終えた輸送船団は引き返して行った。このまま何も無いまま第1海洋界に攻めは入れるのでは。そう思う者さえ出てきた。


 連合艦隊前方8000km イ7号潜水艦・・・。

 連合艦隊より先行し、敵艦隊の予測進路を算出すると共に撤退する敵艦隊への待ち伏せ雷撃をくわえよとの命令を受けたイ7を含む8隻の巡潜型潜水艦群は潜望鏡深度で静止し敵艦隊を探していた。


「煙一つ見えねえか。」


 発令所内に居る全員に聞こえるほどの声量で、艦長藤田中佐は独り言を発した。だが1万隻もの蒸気帆船が噴出す煙が全く見えない筈も無く・・・。


「そんなことは無かった。」


 直ぐに見つけた。


「敵艦隊ですか?」


「ああ。ウヨウヨ居やがる。距離4000。」


 黒煙の塊は偏西風に乗り、拡大しながら東へ、東へと力なく流されていく。潜望鏡越しでも藤田中佐の目にはそれがはっきりと映っていた。


「潜望鏡下ろせ。浮上用意!」


「メータン(メインタンク)ブロー!」


 敵艦隊の位置と進路、そして速力を連合艦隊に伝える為イ7は浮上した。


 帝国海軍連合艦隊 旗艦大和・・・。

「哨戒中のイ7より入電。」


 受信した電文は所々途切れており、その部分は解読できなかったが重要な箇所は何とかなった。


 『敵■隊、る■■な洋ヲ■短こー■ニテ■進中。敵■約8■ット。』


「新しく通信機を開発せねばならないな。」


 通信手段の確保は補給線維持に並ぶ軍団の重要活動である。それまではまともに研究すらしていなかったが、日本と最初に対峙したペル帝国は100万もの大群を僅か数日で集め、それを自在に操れる通信手段が確立されていた。相対する帝国陸軍は主戦場が港町からそう離れていなかったことで電話線すら引いていなかっ為に、砲兵への効果的な効力射も補給、援軍の要請も遅れた。この戦訓から陸軍は通信手段の研究にも力を入れていたが、海軍は導入当初の機器を使い続けていた。


「今回は上手く言ったほうでしょうが、今後のことを考えますと、重要性は航空機と同等かと。」


「それは戻ってからのことだ。」


 敵艦隊は最短コースを速力8ノットで進んでいる。報告してきたイ7との距離は約8000km。イ7と敵艦隊との距離は約4000m。


「一万kmも離れているのか。奴等補給はどうしてるんだ?」


「魔法とか言う術でどうにかしてんじゃねえの?」


「卑怯だな。」


 戯言で笑いあう通信長と砲術長を連合艦隊司令長官、権堂仁三郎元帥が一括する。


「口を慎め。戦争に正当も卑怯もない。勝てば官軍、負ければ賊軍。我々の役目は目の前の敵軍を打ち破ること。それ以外は考えるな。」


「「はっ!失礼しました!」」


 謝罪した二人は艦内巡検のため艦橋を後にする。


「ふん。航海長、敵艦隊との会敵にはどれほど掛かる?」


「このままですと、一週間後ほどでしょう。各艦に警戒厳を通達しておきましょう。」


 大和からの警戒厳が下令され各艦は無線を封鎖。以後は点滅信号と手旗信号、そして信号旗のみが艦艇間の通信手段となる。


 ヨル対日懲罰連合軍艦隊 旗艦ビルピッツワーグ・・・。

 通常なら3ヶ月で第3海洋界に到達できるが、それはヨル聖皇国の艦艇のみで編成されていたらの話である。懲罰のために派遣されたテル=フィーアキャトル連邦とメル=セーイエクス合衆国の蒸気帆船の最大速力8ノットに合わせているため2ヶ月経ってようやく半分と言うところだ。


「遅い・・・。ただただ遅い・・・。」


 艦隊総司令官、ガーデルス提督は高速戦艦ビルピッツワーグが最微速で航行しなければならないこの現状にこれまでにないほど憤っていた。だがそれでも決してヨル艦隊のみを先行させようとはしなかった。


 いくら木造の船舶でも海戦になれば弾除けとして使える。ガーデルスはそう睨み、あえて最微速を維持していた。


「提督、あのー・・・。」


「なんだ!?」


 若手幹部ミールツがガーデルスの部屋に入ってくるなりいきなり怒鳴られた。彼にしてみればトバッチリも良い所であるが、ガーデルスが何に対して怒っているのか察しがついたのでここは我慢して報告を続けた。


「実は、奇妙な岩礁?が出現しまして。」


「岩礁が出現?」


 ガーデルスはミールツの言っていることが皆目見当付かなかったが、ミールツも同じ感じになっていた。


 真相を確かめるべくガーデルスは左舷デッキに向かった。


「あれです。」


 左舷デッキに着いたガーデルスにミールツは双眼鏡を渡し、自分が発見した物を指差した。


 それは4000m先の海面から僅かに突き出した長方形の何かであった。平均水深7000mのルリエナ洋の真ん中にこんな物があること自体摩訶不思議なのであるが、更に乗員を混乱させたことは・・・。


「あの岩・・・、もしかして動いているのか!?」


 艦隊に並走しているということだ。普通なら通過し徐々に小さくなるはずの岩礁が、乗組員の目線の角度を変えさせないぐらい同じ場所に居続けている。


 生き物かとも思ったが、長方形の形の生命体など存在しない。ともなれば船の類と認識できるがあんな形では転覆してしまう。


「駆逐艦を差し向けますか?」


 ミールツのこの提案にガーデルスは双眼鏡を下ろし返答する。


「よし。駆逐艦キャトル、それからペーゼを向かわせろ。もし仮にあの船?がニホンの物なら問答無用で撃沈しろ。」


「はっ!」


 ミールツは伝令のため艦内に戻った。ガーデルスは再び双眼鏡を覗き込むが・・・。


「ん?居ない!?」


 さっきまで其処にあったはずの岩礁らしき船は何処にも見当たらずガーデルスは困惑する。


「沈んだ・・・のか?」


 そう予想したガーデルスはキャトルとペーゼへの命令を取り消した。


 イ7・・・。

 ガーデルスの斜め上を行く予想が当たっているとも知らず、イ7は連合艦隊からの無線封鎖の受信と艦内換気を終了し直ちに潜行した。


「少しばかり長居し過ぎましたかもしれません。」


「気付かれているかもしれないな。深度50!暫く待機だ。」


 敵艦から隠れると共に姉妹艦共々、戦術最終段階『撤退中の敵艦隊への待ち伏せ雷撃による掃討戦』の準備に掛かった。

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