鼓舞
帝都 東京 大本営・・・。
ルリエナ洋での決戦は遅くとも2ヵ月後であった。その間帝国海軍は出来る限り多くの艦艇を集めた。
戦艦は就役したばかりに『大和』を筆頭に長門型2隻と金剛型4隻の合計7隻。空母は改装中の赤城、加賀に代われないが居ないよりはましとの事で軽空母『龍驤』と『祥鳳型航空母艦』の3隻が加わり合計7隻。これに重軽巡と駆逐艦が加わると総数70隻を超える。
「1万対70・・・か。」
「だがその1万は蒸気帆船ばっかだ。せいぜい戦力として数えられるのはヨルの100隻程度であろう。」
戦艦、巡洋艦、駆逐艦。いずれも数の上では負けてはいるが、空母と潜水艦を用いた三次元攻撃が可能なことを踏まえると帝国海軍の圧倒的優位にあるといえる。
「勝利後はそのままの勢いを維持し第1海洋界に進行。衛星大陸の一つを占領下に置き講和を申し入れる。」
占領には海軍陸戦隊2個連隊、陸軍3個師団を投入することになったが、いずれの部隊も教育中の新兵を外した精鋭達のみで編成されている。更に陸軍には先行量産された和製Ⅲ号こと『一式中戦車チヘ』を各師団70両が組み込まれている。機甲打撃力は転移後より格段に強化されている。だが通信機は搭載されていない。それでも陸軍は必ずや勝利できるとの自信に満ち溢れていた。虎の尾を踏むことになるとは、思いもよらないであろう。
ヨル=ウノアージン聖皇国 首都ベルマギーア・・・。
陸軍の地下作戦司令部に第2代総統、ヨル=ガドロフ・ヘッケラーを上座に、陸軍と空軍の幹部が勢揃いしていた。長い卓には第1海洋界の地図が置かれ日本軍に対する対策会議が開かれていた。
「ニホン軍が上陸してくる可能性が最も高いのはこの3箇所。ワーシュラット大陸南西のクウィルとデトラント大陸北西のマラガン、そして本土デスペルタル大陸西部の町ルテレベーラです。」
陸軍参謀本部長『ルーバンドルフ』が言った地点に彼の部下が赤色のバツ字の駒を置く。
ヘッケラーや空軍の幹部はその駒に視線を向ける。僅かな静寂が部屋を包み込んだ。どのように続けるかと悩んでいた幹部達であったが、ヘッケラーが最初に口を開いた。
「本土に直接上陸してくるのか?」
ルーバンドルフは右手に持った指揮杖を左手に打ち付け・・・。
「上陸された場合、3個機甲師団で追い出すことは出来ますが、政治的な敗北は避けられません。」
勝利した上で敗北すると予想した。ヨル聖皇国の機甲師団には最新の重戦車ティガールに加え、信頼性の高い中戦車パルサーも備えていたが、逆に言えばこれだけ重装備の部隊を展開しておきながら本土に上陸を許すことは、今まで力で抑えていた衛星大陸の反乱分子の活性化に繋がると考えた為だ。
だがこれに空軍大臣ゲスペルが水を差す。
「本土に上陸するとなるとルリエナス海峡を通ることになるだろ?そうなればワーシュラットとデトラントの基地から挟撃できる。更に進めば本土のサガランローダ基地の部隊も加わる。上陸部隊もその護衛艦隊共々1000機のパルーガⅡの群れで大損害だろうよ。」
パルーガⅡは胴体に250kg爆弾を搭載できるパルーガの改良型で、ルリエナ洋事変の戦訓を基に胴体に500kg爆弾、主翼に250kg爆弾2発を搭載できるようになったことで翼内の7.92mm機銃が取り外され航続距離が1600kmから950kmに減少しているが攻撃力が強化されている。
「制空権は確保できるのだろうな?」
ニホン軍が海上での航空機運用能力が発達していると予想するヘッケラーは、ニホン軍と制空戦になった場合の勝算をゲスペルに問うた。
「各飛行場には既に300機のヴァリアンが配備されています。加えて少数ですが先行量産した制空型のアラドーラも配備して有ります。」
ルリエナ洋での失態からこの防衛戦はゲスペルにとって首が飛ぶか飛ばないかの境目であるため、嘘でも勝率が高いことを提唱しなければならなかった。
「そこまで言うのであればこれ以上は何も言わん。両軍にいえることは唯一つ、余を失望させるな・・・と言うことだけだ。敵兵、一兵残らず殲滅せよ。」
ルーバンドルフ、ゲスペル以下幹部全員が厚底ブーツの踵を打ち鳴らし右手をピシッと斜め上に突き出すヨル式の敬礼をヘッケラーに贈る。
「「「ハイルッ!ヘッケラー!!」」」