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ミトスター・ユベリーン 立ち昇る太陽  作者: カズナダ
世界大戦
14/29

艦隊殲滅戦

 ワーデヴァン大陸 北東約2000m・・・。

 キル=ズーベンオクト共和国の帆船が純白の帆を広げ、風属性魔法を一杯に浴びて自然風では出すことが出来ない速さで南下する。その数1万。


 ル・シアンネス総督は『列強国懲罰法』に基づき派遣されたこの大船団を率いている。ゼル法国がモブタザル大陸に攻撃を仕掛けるのと同時刻にキル共和国の船団も第3海洋界の北東衛星大陸、ワーデヴァン大陸に進行する手はずとなっている。


 船団の主武装は大型弩弓バリスタ投石器カタパルトである。魔法国の標準的な装備であった。バリスタの矢や投擲物には火属性魔法を施しており、着弾と同時に発火、爆発するようになっている。ペル帝国は大量の魔道士を乗船させて瞬間火力で圧倒する戦術を取っているが、それでは射程距離に問題がある。そこでキル共和国は火力の減少を覚悟で射程距離のあるバリスタやカタパルトに魔力を宿した護石を使用している。


「よく全人民が出兵を許したな。」


「ニホンがどのような国か分かりませんが、鉄でできた船でも持ってない限り負けるとは考えられません。」


 鉄の船を所有しているのはヨル聖皇国のみと言うのが列強のみならず世界各国の認識である。これがヨルと他の列強国との決定的な差であった。ヨルの保有する超大型軍船と機械式の飛行物体が常に第1海洋界内を巡回し、侵犯しようものなら何処からとも無く現れ攻撃と加えてくる。


 超大型軍船は一隻で2000隻を相手に出来るといわれるほど強力なもので、ヨルはこれを少なくとも20隻保有していると言われている。第2~7海洋界の列強国の艦船総数は10万を超えると思われ、理論上ではこの20隻は相手に出来るが、あくまで超大型軍船のみを相手にしたときでこの軍船の護衛に中型、小型の軍船が数十隻に機械式飛行物体まで出てくると思われるので、どう足掻いたところで無駄死にするだけ。


 これが他の列強国が第1海洋界に攻め入れないでいる理由だ。


「我々魔法国家の国力とヨル聖皇国の国力の間と言うのであれば、数の力で押さえつけられるでしょう。」


「鉄の船を持っていなければだが。」


「その時は、敵船に乗り込んで白兵するまでです。」


 日本が鉄の船を持っていても数隻程度。これがキル共和国やヨル聖皇国などの認識であった。


 だが、その認識と考えの甘さが災いを招くことになる。


 ワーデヴァン大陸 ブハナベルス泊地司令部・・・。

 偵察機からの報告で正体不明の大船団がなんかしていることを知り、泊地司令官 松田中将は第2水雷戦隊に出撃命令を出した。


「第8、15駆逐隊の準備が整い、残る第16、18駆逐隊も順次整いつつあります。」


「旗艦『神通』を含めた全艦が出撃して、第1戦速で向かい、敵艦隊と会敵した時には既に日は堕ちています。」


「夜戦とは好都合だ。二水戦の得意戦術ではないか。」


 第2水雷戦隊は対米作戦『漸減作戦』で第2艦隊の先頭に立って敵艦隊に雷撃を加える役目が有った。そのため常に重武装、超航続距離の新鋭艦が配備され『華の二水戦』と言われた帝国海軍最強の水雷戦隊であった。


「で、相手は1万にも達するが、装甲艦は確認されたか?」


「少なくとも前衛・・・と言いますか、敵艦隊は部隊に役割をしておらず、一塊になって南下してきています。ですが、どの艦も帆船で黒煙は噴き出していないとのこと。」


「また帆船か。・・・そうだ!各艦の乗員の半数を新兵にしろ!」


 空軍も海軍も、訓練中の新兵に実戦経験を積ませる絶好の機会と共に接近中の艦隊の撃滅が出来る、という正しく一石二鳥であった。近代戦ではありえないが、これも敵艦船が帆船と分かったからこそ取れる行動であった。


 第二水雷戦隊 旗艦 軽巡洋艦 神通・・・。

「じ、実戦ですか?」


 ワーデヴァン大陸に建国した傀儡国『フィーバ国』の新兵バブロは、対番の森井伍長に乗船訓練が始まって間もない中での実戦に不満をぶつけていた。


「そうだ。・・・なぁに心配すんな。神通が帆船如きに沈められるか。訓練どおりやればいい。」


「訓練・・・。訓練ドオリですね。」


「(大丈夫かな?コイツ・・・。)」


 このようなやり取りは神通のみならず、駆逐艦でも起きていた。


 そこに艦内通信で命令が下る。


「<出港用意!>」


 先に出港した駆逐艦『朝潮』『不知火』に遅れること12分、旗艦神通が泊地を出港。


 艦隊は沖合い15海里で合流し複縦陣で北上。予想される敵艦隊を正面から迎撃に向かった。


 モブタザル大陸 南方1500km・・・。

 ゼル=ドスツバイ法国の上空に見慣れぬ物体が迫っていた。ヨルの機械式飛行物体は二種類の形状をしているが、その内の一つ『戦闘機』と言われる形の飛行物体に似たモノが飛んでくる。ヨル聖皇国の戦闘機は第1海洋界でしか目撃したことが無い。もしかすると日本の戦闘機なのかと思った。しかしヨル聖皇国と他の列強国の間の国力しかない日本が戦闘機を持てるはずがなく、バンイヤスほか全将兵は「ヨルが参戦しモブタザル大陸を占領した。」と思ったであろう。


「クッソ!先を越されたか!?」


 バンイヤスは悔しさを甲板全面にぶちまけた。しかし、よく見ると主翼にはヨル聖皇国の国籍を示す青丸に白の右卍まんじではなく、日本の国籍を示す真紅の丸が描かれていた。


「っ!!奴等日本軍です!!」


「何っ!?」


 先頭の機体が翼を上下に振る。その直後急降下し後方の機体も後を追うようにして艦隊に襲い掛かった。その数16機。


「バリスタ撃て!撃ち落せ!!」


 両舷に設置した合計4基のバリスタが上空の敵機に狙いを定める。しかし水平状態のバリスタをクランクを使って急降下する敵機が攻撃を開始する前に矢を撃てるはずもなく、敵機の攻撃が開始された。


 上空1500m 帝国統合空軍第9飛行師団 飛行第54戦隊 『隼』酒井機・・・。

「居るぞ居るぞ~。大所帯だ。」


 敵が何処かは知らないが、新兵用に移動標的を用意してくれたと、些か感激を覚える酒井中佐は、12人の新兵を一型甲(7.7mm機関銃2挺)に乗せ、酒井を含む熟練パイロットは一型丙(12.7mm機関砲2門)に搭乗した。それでも隼は敵機との格闘戦や占領地の制空権確保を念頭に置いている戦闘機であるので、対艦戦闘が新兵達の初陣であることには少しばかり不満があったが、いきなり敵機との格闘戦が出来るはずも無いので、これはこれで安心して新兵の戦績を確認できる。


「<多すぎませんか!?>」


 リーチャ人訓練生ワーゲンの恐怖を滲ませる発音が通話機越しに聞こえる。


「怖がることは無い。どうせ当てられない。」


 ペル帝国第2艦隊を葬った空母機動艦隊の艦載機の損失は無く、全機無傷での生還を果たしている。眼下に見える敵艦隊はパット見てもかの国と同程度の国力と技術力しかないと見え、今回もまた全機無傷で帰投できると酒井は戦う前から確信付いていた。


「俺がまず突っ込む。お前らはその後を追え。いいな?」


「<はっはい!>」


 酒井は操縦桿を左右に素早く振る。主翼の油圧系を伝わり補助翼を上下逆方向に作動させ、機体を左右に揺らす。


「行くぞ。全機攻撃開始!!」


 再び水平に戻ると酒井の機体は60度の緩降下を開始し、敵艦隊に向けて突撃した。


 ダダダダダダダダダダダ


 酒井機の2門の12.7mm機関砲が敵艦隊に向け雨のように弾丸を発射。甲板をズタズタにし甲板に居る船員を肉塊へと代えていく。その中の数隻が爆発を起こし、木っ端微塵に吹き飛ばす。


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ


 酒井に負けまいとワーゲンら訓練生も次々降下し7.7mm機関銃で射撃。艦船を酒井がしたように、船員を肉塊にすると共に数隻を爆散させる。


 機体が水平になる手前で射撃をやめ、機首を上げて上昇する。


 この一回の攻撃で300隻ほど沈めたが流石に9000もの数は伊達ではない。


「間隔を広く取れ。今度は右舷から行くぞ!」


 高度500mで左に大きく旋回。艦隊の右から機銃掃射を行う。


 ダダダダダダダッタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ


 更に400隻ほど沈めたが一向に数が減らない。


「燃料限界だ。帰投する!」


 後続の飛行第16戦隊の元野中佐に交代し飛行第54戦隊はラスマーニャ飛行場に戻り、補給を行い再度出撃する。飛行第16戦隊も同様にし、この反復攻撃で敵艦隊を殲滅する。

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