敵船団捕捉
第2・第3海洋界の中間海域『ゼファージン洋』・・・。
第2海洋界の盟主、ゼル=ドスツバイ法国の5000隻の戦闘艦と2000隻の揚陸艦が一路、第3海洋界を目指して北進する。
大日本帝国がペル=トリートリア帝国の魔法技術を取り込み膨張すれば、最初の犠牲はゼル法国だと世界会議で通告されたことで、国を治める大司教・カマルチャットは『列強国懲罰法』を発動しゼル全軍の6~7割に相当する大軍の派兵を決定した。
ヨル=ウノアージン聖皇国が定めた『列強国懲罰法』は、ヨル聖皇国が世界の均衡と調和を乱したと判断すれば他の列強国を従えて懲罰を加えられると言う物であった。一方的な法であったが、ヨル以外の列強が束になってもヨル聖皇国には勝てない。刃向かえば懲罰の対象となる。今までこの法が発動されたことは無かったが、ゼル法国もヨル聖皇国も将来的な敵国を排除できるという利害の一致が発生。
更に、同じ魔法国のキル=ズーベンオクト共和国や工業国のテル=フィーアキャルト公国とメル=セーイエクス帝国も援軍の派兵を世界会議閉会後に決定。国力が拮抗していたペル帝国であったらいとも簡単に罰することが出来たであろう。
しかし今回の相手はそのペルを工業力だけで滅ぼした国だ。よって、各国はテル公国等の工業国との開戦を想定した戦力をヨル聖皇国に託すことになった。
ヨル聖皇国はテル公国とメル帝国の合流を待って出陣するとの事。それはではゼル法国とキル共和国に時間稼ぎをしてもらうことになった。
カマルチャットはキル共和国のル・クライシス首相との擦り合わせ結果、ゼル法国は南のモブタザル大陸に、キル共和国は北東のワーデヴァン大陸に上陸することになった。
大司教カマルチャットは海上部隊の全権指揮を最も信頼する側近、バンイヤスに託した。
「大司教様に預けられたこの艦隊。何と壮大な物か。」
彼の視線には純白の帆を広げ、海面を埋め尽くさんほどの軍船が並んでいた。その甲板には人間種のほか、エルフやワーウルフなどの亜人種も含まれていた。
ゼル法国は他の列強国と違い、人間種や亜人種と言った種族で優劣をつけず、個人の魔力所有率で優劣を決めていた。より多くの魔力を持つ者が大司教を座に就くものであった。
「総勢9000隻、40万の大軍団です。ペル帝国を滅ぼしたニホンなる国がいかに強大な工業力を持っていたとしても、対等かそれ以上の活躍が出来るでしょう。」
懲罰連合軍に参加する他の列強国の援軍を合わせると、総兵力は5~6倍に膨れ上がる。日本がいかに強かろうとヨル聖皇国ほどに国力が無い以上、負けるわけは無い。
「ヨルが出てくれる時点で我々連合軍の勝利は約束されたも同然です。」
「違うな。」
「は?」
「我等『法国の勝利』だ。ヨルに付け入る隙を与えるな。この戦い我等がディートリア大陸に一番槍を立てなければならん。」
戦闘の功績を他国にうばられるわけにはいかない。ゼル法国単独で勝利し第3海洋界と日本の工業力を手に入れ、ヨル聖皇国の一強体制から二極体制に変える。長きに渡りゼルの秘められた野望が燃え上がっていた。
モブタザル大陸 ラスマーニャ飛行場・・・。
一式戦闘機、九六式陸上攻撃機からなる統合空軍第9飛行師団が進出し、モブタザル大陸南方の警戒に尽力していた。更に海軍の九七式飛行艇も加わり万全の警戒態勢であった。
「よし、本日の哨戒及び訓練終了!」
飛行第54戦隊の酒井中佐は直属の訓練生4名と哨戒を兼ねた飛行訓練に出ていた。と言うのも、ヨル聖皇国と戦闘状態になり発布した『三軍急速補充計画』で傀儡国からの徴兵などで兵数を確保したは良いものの、錬度不足が如実に現れていた。
陸軍や海軍では新兵一人に対し上等兵や軍曹が一人付いて指導するマンツーマンが可能であったが、空軍のパイロットに至っては、熟練兵の多くが中国大陸に出払っていた。よって、前線での戦力低下を覚悟で酒井たち熟練兵を教官に、訓練を終えたばかりの者達を前線に出していた。
「異常ないか?」
「自分のは身体ではなく、機体の発動機に以上があると思います。」
「発動機?」
「はい。出力を上げようとしても一向に上がらず。」
「あの機体も古いからな~仕方ない。と言えばそれまでなんだよな~。」
主力戦闘機『隼』は教官分しか後方にはなく、訓練機は『九五式戦闘機』や海軍から供与された『九五式艦上戦闘機』などの複葉機が担っていた。飛行の基本的な技術を身に付けたら単翼機の『九七式戦闘機』や『九六式艦上戦闘機』にて応用技術を学び前線に配属される。
「酒井中佐、師団長がお呼びです。」
第9飛行師団 師団司令室・・・。
酒井中佐のほかに飛行第16戦隊の元野中佐も居た。
「海軍の飛行艇から電文が入った。」
内容はモブタザル大陸の南方3000kmに大船団を発見したというものであった。
船団は前衛に蒙古軍船に酷似した船、その後方に上陸部隊と思われる非武装の大型船を配置していた。
「さすが足の長い飛行艇だ。」
「隼は増槽を付けても3000kmしか飛べない。片道攻撃はごめんだ。」
「その通りだ。よって攻撃隊の発進は1500km沖合いにまで接近してからだ。それからは両戦隊を交互に出し、反復攻撃で殲滅する。各員に充分伝えよ。」
「「はっ!」」