日本の火にヨルの油
4月1日 ヨル=ウノアージン聖皇国 ベルマギーア・・・。
世界会議が開催される大講堂には、ヨル聖皇国を筆頭にこの世界の列強国が入場。だが前回とは違い、ギル=キピャーチペンデ王国は参加せず、ペル=トリートリア帝国の席には、同国を滅ばした大日本帝国の代表団が鎮座していた。
「では、これより世界会議を執り行う。」
ヨル聖皇国の進行役が開催を宣言し、以降は予定通り進めていく。
「まず、ご参列いただいている皆様はお気づきでしょうが、今回はギル王国が不参加の上ペル帝国に代わり、新たに第3海洋界の盟主となりました大日本帝国が参加しております。
では、大日本帝国の代表者は各国に簡単な自国紹介をお願いいたします。」
外務大臣 徳田は立ち上がり、机の上に資料を広げる。
「大日本帝国 外務大臣の徳田です。簡単な自国紹介ですが、まず我が帝国は実に2600年以上の歴史を持ち・・・。」
徳田は神武天皇が即位した時から現在に至るまでの経緯を話した。特に力を入れたのは幕末からのことで、かつての世界で小国を思われた国が当時の世界最強の大国を打ち破った事、世界規模の大戦争を乗り越え世界をリードする地位にまで上り詰めた事。
そして・・・。
「我が帝国は原因不明の転移現象によってこの世界に招かれ、ペル帝国との戦争に突入しこれに勝利。現在に至ります。」
日本と国交を持たない全参加国の代表団は、徳田の言っている事を余すことなくメモ用紙に書き綴っていた。だが、その誰もが混乱していた。
その混乱が頂点に達したのが『転移現象』の言葉であった。日本だけが知っている『転移魔法』が在るのかと思ったが、話の中には魔法の『ま』の字もなく、聞く限り工業国だと思われる。
そこでヨルの代表団が口を開いた。
「あの~。皆様混乱されておられるようですので、一旦休憩を入れたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
徳田は言われてままに日本のことを簡単に説明したつもりであったが、だが周りに居る代表団は賛成の意を示している。日本一カ国だけが反対したところで結果は覆らないだろう。
「では全会一致と言うことで、30分程休憩を入れます。」
休憩は各々の控え室で、日本の情報を整理しつつ自国にとって有益な結果をもたらすように進めるような事を話す。日本の代表団はそう考えたが・・・。
「各々方。日本をどう思う?」
日本の代表団の考えは甘かった。日本を除いた列強国はヨル聖皇国の控え室に集まった。
「ペル帝国を滅ぼしたという事は、力は我々とヨル聖皇国の中間と言った具合だと思うな。」
「工業力だけで滅ぼしたとしたら、ペルの魔法力を吸収し更に力をつけるやもしれん。」
「今でこそ融和的であるが、化けの皮が剥がれたら強硬路線に切り替えるかもしれんぞ。」
最も恐怖しているのはヨル聖皇国であった。工業力のみでヨル聖皇国に迫り、ペルの魔法力を吸収すればその国力は聖皇国を上回ってしまう。そうなれば列強首国の地位も危うくなり、世界の国々全てが日本に味方する。それだけは何としても避けたかった。
「強硬路線に切り替えたら最初の犠牲は『ゼル法国』か『キル共和国』であろうな。」
「そんな!何とかならんのですか!?」
「日本の国力は我が聖皇国と他の列強国との中間なのであろう?だったら叩くには今しかない。そう思わんか?」
部屋に居るもの全員が「なるほど」と首を縦に振った。
会議が再開され、各国は日本には個別に国交交渉を行う事とし、いたって変わらないまま無事に閉幕した。
徳田等、代表団は西の港町『ルテレベーラ』に停泊する重巡足柄に乗艦。横須賀への帰路に付いた。だが、事態は急展開を迎える。
「艦首270 第2戦そーく。」
「よーーそろーー。」
それは往路と変わらない穏やかな海上で起きた。
「ヨル聖皇国でしたか?あの国は凄く発展しています。個人的にはあちらの海軍と一番打ちたいところです。」
副長はそう言っているが、艦長の中澤はそうは思わなかった。
「気持ちは分からんでもないぞ。が、博打にも打ち所があるものよ。」
そして、中澤の思いを確定付ける一言を左舷艦橋見張り員が放った。
「艦長、左舷後方6000にヨル聖皇国の航空隊と思われる編隊が。」
副長と共に左舷デッキに出る。
「見送りですかね?」
中澤が双眼鏡を覗き込む。
陸地からそう離れていない。16機の航空機全ての腹の下に、見送りには全くもって必要の無い物を抱えていた。
「だと良いが・・・。紙吹雪は自分達で作れって事だ。」
「は?」
副長は中澤の言っている事が理解できなかったが、困惑する彼を中澤は一言で我に返す。
「対空戦闘用ーー意!!」
ヨル聖皇国の爆撃機16機対帝国海軍重巡洋艦足柄の『ルリエナ洋事変』が大日本帝国に対する世界からの挑戦状となる。




