開戦
タンタルス大陸に属した日本国の遥か西、デスペルタル大陸を跨ぎ更に西にとある国が存在する。
ペル=トリートリア帝国。フォーネラシア大陸を治めるギル=キピャーチペンデ王国と同じく『七大列強』の一国で、ディートリア大陸を治めている。序列は三位。
そのディートリア大陸の東1500kmの洋上に、日本国と同じく原因不明の大転移により出現した国があった・・・。
「一夜にして外洋との連絡が途絶えるとは・・・。」
「国内にはまだ目立った混乱が無いのが救いです。」
「だが、鉄や石油、それに食料が輸入でき無ければいずれ我が国は滅ぶ。早急に周辺国と関係を築かねばならない。」
「偵察機を四方に展開させ情報を集めます。」
「接触した国には速やかに使節団を派遣して大使館と領事館を設置しましょう。」
「急がねばならんな。倉に残された食料はどれぐらいで底をつく?」
「半年・・・。節約したとしても一年と持たないでしょう。」
「いざとなれば、戦も辞さない覚悟で居なければならんな。陸軍も海軍も、その時はよろしくお願いします。」
「「「はっ!!」」」
一ヵ月後・・・。
突拍子の無い戒厳令や倹約令の発布に国内に混乱が発生、一部が暴徒化し警官隊と衝突し死者まで出ていたが、遂に・・・。
「本日午前五時ごろ、西方哨戒中の偵察機が、我が国の西およそ1500kmに大陸を発見しました。建造物も確認しましたので文明国が存在する可能性があります。」
「そんな近くの陸地、何故見落としていた?」
「哨戒を開始した当初からその地域には豪雨が発生していました。先日、ようやく嵐が過ぎ去ったので確認する事ができました。」
「一月で見つけることが出来たのが不幸中の幸いか、外務省に連絡し直ちに大使を送らせろ!」
ペル=トリートリア帝国・・・。
広大な魔力地脈を利用した魔道兵団の育成に努め、ファランクスと会わせた独自の戦術で大陸内にあった諸外国を次々に併合しディートリア大陸を賢者の名の下に統一、外洋諸国も臣下に引き入れていた。
この国が対等な国交を結んでいたのは、ギル=キピャーチペンデ王国などの七大列強だけであった。
「天候操作魔法はまだ完成せんのか?」
「先日ようやく暴走した魔力で出現した嵐を収めることが出来ました。」
「川が氾濫し、各地で洪水による被害が出ています。発生させるだけでは完成とは言えません。」
新魔法の開発は難航するのが常だ。『天候操作魔法』の発生の過程は完成していたが、移動させる事と打ち消す事が出来ないので、このままでは実用的ではない。
そして、賢者の元に、新興国からの頼みがもたらされた。
「ワイズマン、帝国と国交を締結したいと申し国が現れました。」
「いつもの様にあの条件を伝えよ。従わんのなら滅せよ。」
「はっ。」
港町 シドミストン・・・。
ペル=トリートリア帝国と新興国の交渉はこの町の役所で行われていた。
帝国の役人は紫のローブの服装で、新興国の大使は黒くパリッとした服装であった。
「では、貴国にワイズマンのお言葉を伝える。」
「(始まってから我慢しているが、コイツ等随分と上からだな。)」
「一つ、領事裁判権の容認
一つ、関税自主権の破棄
一つ、毎月帝国が指定した量の朝貢
一つ、毎年一定数の奴隷の差出
以上の項目を無条件で受け入れるときのみ国交開通を認める。と言うことだ。どうだ?悪くないだろ?」
周辺の国々からしてみればかなりの好待遇であったが、申し入れをした新興国にとっては・・・。
「・・・つまり我が国に植民地になれと?」
この上ない屈辱であり、表情にこそ出さないものの、言葉に抑えきれないほどの『怒り』が込められていた。
「何を言っておる?貴様等のような下等民族はこの場を用意してもらえただけでも感謝するべきなのだよ。」
ペル帝国の役人はそんなことお構い無しだった。
「こちらが下手に出ていれば好い気に・・・。」
「んん?何処の馬の骨とも知らぬ輩が対等な国交を結べると思っておったのか?その発想が既に下等民族なのだよ。」
「・・・もう良い。話にならん。貴様らは力でねじ伏せる以外の手段は通じないようだな。」
「ははは。帝国と戦うつもりか?とことん下等、いや蛮族だな!」
「では・・・。」
一礼もせず、扉を開けたまま使節団は帰って行った。
後日・・・。
ペル帝国に派遣した使節団が帰国、その内容を各省庁に伝えた後、新聞を通じて国民全体にも広め『開戦辞さず』の空気を作り出し、遂に宣戦布告に動いた。
「両軍の働きが、我が国の存亡を左右する。しっかり頼むぞ。」
「「はっ!!」」
その日のラジオ放送は開戦を伝えた。
『臨時にゅーすヲ申シ上ゲマス。臨時にゅーすヲ申シ上ゲマス。
大本営陸海軍部、10月1日午前6時発表。
帝国陸海軍ハ本1日未明、西方海域ニ於イテ、戦闘状態ニ入レリ。』
これが、転移後初となる、『大日本帝国』の戦いである