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某国のさらわれたお姫様が魔王になって、世界を幸せにするために奮闘する物語 prototype  作者: クグツ。
魔王になった姫が世界征服に向けてこつこつと頑張る章
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第十九と半声 「ワレの憎悪対象の二番目は無上なる巨乳」

 聖公国。神の代理人たる教皇が治める世界で最も清く正しい場所。遥か太古に神が降臨されたとされる地。

 国土は小さく、首都と隣接する地域に幾つかの街があるだけの都市国家と並ぶほどだが、人口比率は高い。

 外国からの参拝者や入信者も日に50人は超える。

 聖なる方陣を兼ねた真円状の外壁門を十二。その悉くを聖公国が誇る聖浄協会の精鋭たちが日夜守護している。

 神との対話契約・啓示によって得られた魔術とは異なる、理力法術ロウ・エクステンドを修めた者たちだ。

 実践的な武技に加えた、理力法術ロウ・エクステンドの使い手は上級の魔物でさえも討滅しうる潜在力を有する。


 聖公国の聖浄協会。中でも抜きんでた者たちの序列において、<花冠衛視十五士ナイツ・フローラ・フィフト>は、最高位の聖騎士位で、世界でも屈指とされる。

 曰く。得物の一振りは焔を裂いて、疾風を呼ぶ。海を割りて、大地を拓く。纏わす一閃にて、数多の闇を祓い薙ぐ。


 階梯第六位。紋章には牡丹ぼたんを持つ軍師、聖槍導師。

 階梯第十二位。紋章には雛罌粟ひなげしを持つ武道家、流星拳士。


 そして階梯第三位。すみれの紋章を持つ剣客。無刀にても一個大隊に類する殲滅力を備えている。

 通り名は、千剣操主。

 理力法術の奥義。十字聖剣レイ・エクスキューションを越えた法術の行使を可能とした時代に選ばれた化け物だ。



 聖公国中央教会の地下最深部。

 許可を持ったものしか立ち入りを許されない、闇の奥を蝋燭の微かな火が獰猛に揺らめいていた。




「さて聖槍導師殿。そして流星拳士殿。突然のお呼び立てに応じて頂けたこと感謝する。お二方には聖浄協会が謀反者の粛清に助力を願いたい」 


 千剣操主。血に酷似した髪を長衣のフードから零しながら青年は淡々と読み上げるように舌と喉を滑らせた。

 焔が垣間見せる素顔に感情は映らない。まだ若いことだけが見て取れるが、それ以外は死人の言も同様だ。

 十五ある円卓の自身の席に腰掛けたままで、俯いたままで目だけを闇の中の二人に合わせていた。


「第三位様の頼みとあらば、聞かねーわけには行かねーって。なあ、槍使い?」

「ワレは如何なる場合であろうとも、千剣操主様の仰せのままに戦うのみ」

「固ってーな相変わらず。柔いのはそのデカパイだけだってか? いつでも俺の聖槍を使わせてやんぜ」

「キサマこそ進歩がない。ワレは下劣をこの世で三番目に憎む。トワに天空を彷徨いたくなければ、その不躾な口を閉じろ」

「へいへい。この陰気インキ処女。いつか調教してやんよ」

「ドブネズミ」

 


 流星拳士。浅黒く焼けた少年が拳を突き出して、罵声で挑発を繰り返す。

 聖槍導師。不自然なほどの青白い肌の少女は、額当ての奥を不気味に輝かせて、少年に得物の穂先を向けていた。


 二人の年若い<花冠衛視十五士ナイツ・フローラ・フィフト>が顔を合わせると、言い争いは必至だ。

 嫌いあっていても実力は認めている。

 憎み合っていても信頼はしていた。


 特に二人が組んだ任務にて敗北は未だに一度もない。

 戦術的・戦略的・状況的な敗北。どんな状況においてもだ。


「お二方。その辺りで」乾いた声が古い地下祭壇の空気をさらに引き下げる。

 千剣操主。二人をしても一声で制す。圧倒的かつ絶望的な差だ。


「オーケー。わかったよ千剣さん。ここで終わっとく。続きは今度な」

「ワレの台詞だ。腐食クサレ童貞」



 口争が終わらせてよりすぐ、千剣操主が粛清対象の名を明かす。


「相手は階梯第四位。金木犀の演者。十字聖剣レイエクスキューションの使い手。虐殺聖女だ」


 二人の少年少女にも、千剣操主にも一切の躊躇はなかった。

 聖公国がための神聖なる決定。

 浄化・排除・駆逐・掃討・殲滅・粛清・処刑。

 どれも同じ単純作業に変わりない。


「聖女のねーちゃんか。粛清する前にあのデカパイ揉んでも戒律違反にはならねーよな」

「下劣。しかし許容。ワレの憎悪対象の二番目は無上なる巨乳。完全駆逐」

「お二方とも気力充分で安心しました。教皇様に平然と刃向う、あの女に神の裁きと我らが鉄槌を下します」

『栄光の花冠と我らが命は常に教皇様とともにあれ!』

「教皇様と共にあれ」



 謀議というにはお粗末なやり取りは昼食を摂るよりも早くに解散された。


 その日のうちに世界連合政府に密使が贈られた。




≪聖浄協会より離反せし元・階梯第四位の虐殺聖女は新生魔王国に下った逆臣である。

 この反徒を第一級指名手配とし、見かけ次第拘束せし事。無論、生死の是非は問わないこととする≫

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