まず、こいつは主人公じゃない。
「よっしゃアァァ! URゲットォォ!」
暗闇の部屋の中で目を悪くするのも厭わずにパソコンの画面に向かって雄叫びを上げる一人の少年。
少年はあまりの嬉しさなのか、夜ということを忘れ、部屋の真ん中で踊り出す。
「あっ、ジュースねぇし。仕方ね、買ってこようかな〜」
少年は、財布を持って暗黒の染まる外に出ると、自動販売機がある場所まで喜びの舞を披露しながら、進んでいった。
「URー、URー、URー!」
自動販売機に小銭を入れ、買いたかったジュースを押す。ゴトンとジュースが入り口から出てくると、それを取り出す。
「フンフンフーン、URー!」
最後に道の真ん中で喜びの舞を終わらせると、スキップをしながら、T字路を左に曲がるとある自宅へと戻っていった。
だがーー
「URー、URー、Urーー……」
少年は、運悪く、それとも運命という胡散臭い何かに導かれて、バイクに引かれてこの世を去った。
チーーーン。南無阿弥陀仏。
■ ■ ■
「はい。次の方〜」
気がつくと、俺はなぜか列にいた。
あれっ、よく見ると前の人……青白い炎だ……後ろの人も、いや! この列、全員そうじゃん! うん? という事は、俺も……?
「(ギャァァァア!)」
死んじゃった! 俺、死んじゃった! UR如きで喜んで死んじゃったよ! えー、なんで死んだのー?
「次の方〜」
「(あっ、俺じゃん)」
「こちらにどうぞ〜」
俺は言われるがまま、目の前に寄越された椅子に座らされた。いやっ、座るというよりも、乗るの方が正しいか?
「えーっと、君は西条陽太朗君? で、いいのかな?」
「あ、はい」
あれっ、口が無いのに俺、喋られたし。
俺は目の前の偉い? おじさんに名前を確かめられると、反応的に返事をした。
「この子の死因は?」
「バイクによる事故です」
「あー、可哀想に。まだ、こんなに若いのに〜」
同情の目を受け、少し気分が悪くなった俺は、さっさと終わらそうと、口を開けた。
「俺って、どうなるんですか?」
すると、おじさんは「うーん」と小さく呟く。
「君、罪とか犯したことってある?」
「いや、ないです」
「嘘じゃないねー。うん」
おー、嘘か嘘じゃないかも判断できるのかこの人、以外にすごい人かも……
「君、転生って知ってるかな?」
「あ、はい。知ってはいます」
「(おっ、こうゆう展開ですか!?)」
俺は、このおじさんに「転生してみない」という言葉を心のどこかで期待しながら、その時を待つ。
「……転生、してみない?」
「(キタァァァ!)」
俺は心の中で叫ぶと、一旦落ち着きながら、口を動かす。
「転生、どんなところにですか?」
すると、とーっても偉いおじさんは、俺の耳があるだろう場所へと近寄り、小さめな声で言う。
「ぶっちゃけ、その世界ってのが『魔王』って、奴に支配されてさー。それを倒してほしいってのが、お願いなんです。どうか、引き受けていただきませんかね?」
「(マジですかー! 俺好みすぎるー!)」
「はい。わかりました!」
それを言うと、おじさんの目が潤み、俺の肩をガシッと掴む。俺は、思った以上に力が強く、驚いてしまう。
「ありがとう……! 君だけだよ……! こんな、馬鹿みたいな話に乗ってもらえるの……!」
「(これ、言い方変えると俺は馬鹿って聞こえるんだけど……)」
だが、俺はそのおじさんの目を見ると、改めて俺は選ばれた人間なんだということがわかる。救ってやるぜ! その世界ってもんを!
「それじゃあ、その世界に転生させるから、ちょっと待ってね」
おじさんは啜り泣きしながら、隣の秘書? に何かの命令を下すと、俺の周りが白いベールで包まれ始める。
「(キタ、キタ、キタ、キタァァ!)」
「頑張ってくれ……! 救世主!」
「ありがとう。偉いおじさん……!」
「いや、私は偉いおじさんじゃなくて、カミーー」
おじさんの言葉を最後まで聞くことはなく、俺は白いベールで包まれながら、RPGのような世界へと転生していった。
視界は白に染まり、自分がどこにいるかもわからない。だがそれは、次第に消え失せ、徐々に視界がクリアになる。
そして、たどり着いた。念願の異世界ライーー
「えっ?」
なぜ、俺は驚きの声が出たのか、説明しなければならない。まず、肉体が戻り、事故の時の服装と変わらないこと。自分が、異世界に来たこと。そして、なにやら学生服やら私服やら『ザッ、現代人』の服装をしている連中が大勢といること……
すると、俺たちの目の前にやってきた、一人の男。その男は、やる気zero感満載の口調で、驚愕の発言を発した。
「はーい。神のジジィに唆された皆さん、こんにちは〜」
その発言を理解するのに、俺は一体どのぐらいの時間を要したのだろうか? だが、俺、俺たちが最初に思ったことはーー
『あ、あの、ジジィィィィイ!!!』
■ ■ ■
「ぶえくしょん!」
「どうなされたんですか? 神さま」
「んー、誰かが噂しているのかな〜?」
「フフッ、それは負の噂でしょうね」
「えっ、マジで?」
「マジマジです」