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♯74 狂乱と地獄

 ひとりの人間の神格化。

 これは人間の文明が発明した狂気のひとつである。


 しかも最も恐ろしい所は、完全にその人間の神格性を信じ切っている人間があまりにも多いという点にある。

 彼等の無知や現実への虚無感が、神として祀り上げるのだ。


 『神は空虚より生まれ出づる』とはまさにこのこと。


 このような悪質な流れが人々の心に宿り、生活的そして風習的にも凶悪なデカダンスとして根付いてしまうのだ。


 全て古来より続いた憎しみとルサンチマンによる系譜によってもたらされたもの。


 信仰・崇拝という名の、血塗られた虚無と憎悪の本能である。





 そして今、その象徴たる存在となった聖女は自らの欲望と信仰を混同させた狂気に憑りつかれていた。

 締め切った自室にこもり、都市の住人から取り上げた幼い少年の身体を貪っていた。

 泣き叫ぶ少年に愉悦を感じながらも、彼女は一糸まとわぬ姿でその綺麗な身体をしゃぶり、撫でまわし、ときに痛めつける。


 彼女はそれを『浄化』として神聖な行為ないし自分だけの特権とし、歓喜のもと少年の肉体と魂に宿る純心を砕いていった。

 法悦とも言える感覚が聖女ユアンナの全身を駆け巡り、その熱が官能のボルデージを更に上昇させる。

 

 しかし、その時間は長くは続かなかった。


「……誰?」


「バイパス・ロードです」


「……少し待ちなさい、準備をします」


 扉の向こうにいるバイパス・ロードの気配を感知し、一気に萎えたのか乾いた返事をして服を着始める。

 しかし、その衣装は思想と共に大きく変化していた。


 サキュバスか売女にでも転身したのかと見紛うほどに露出の多い出で立ちとなっており、純白の衣装は今では下着姿を彷彿させる。

 ドアを開いたとき、バイパス・ロードも一瞬驚いていた。

 だが、そんなことなど気にも留めないユアンナ。

 

「なにか報告でも?」


「……ハッ、先ほど例の男の侵入を確認いたしました」


「フレイム・ダッチマンの!?」


「はい、どういった巧妙かつ悪辣な手段を用いたかは知りませんが。どうやら奴は仕入れた銃火器を保管している地下、その更に地下へと進んでいるようです」


「まさか……例の物を奪う気と?」


「恐らくは」


 バイパス・ロードは短く答える。

 最早無論のことではあるが、バイパス・ロードはイリス達がこの都市に入り込んだのを誰よりも早く察知した人物だ。

 機械の身体に備えた機能によって目標を正確に捉えることが出来る。


 だが、彼女は"自らに秘めた目的"の為に敢えて伏せていた。

 今の聖女以上に狂った企みを持つこの女の言葉に振り回され、聖女は思わず額から冷や汗を一筋。


「なんとしても止めねばなりません。バイパス・ロード、供をなさい」


「いえ、ここは戦略的にいきましょう聖女様」


「……どういうことです?」


「ソォデ・ビィムを御供に地下へ行くのです。彼の神託能力とアナタの神託能力はとても相性がいい。如何なる敵も沈められます。……フレイム・ダッチマンは神託者としても戦士としても優秀な奴です。ですが御二方なら……」


 バイパス・ロードの提案に一考する。

 だが、彼女に洗脳され半ば欲望や抑制を解放している状態のユアンナは、すぐに言いなりになった。


「わかりました、彼に声を掛けておいてください。……入り口で待っている、と」


「流石は聖女ユアンナ、御英断感謝いたします。では、そのように……」


 仰々しく礼をし、バイパス・ロードは踵を返しソォデ・ビィムが待機している場所へと向かう。

 この騒ぎだ、きっと彼も混乱しているだろう。

 だからこそいい。

 今、彼にとっての全ては聖女の存在。

 聖女自らの命令とあらば即時駆けつけるのがソォデ・ビィムの性根。


「さて、総仕上げといこうか。――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 全ては駒だ。

 イリスもフレイムも、いまは亡きレイドもユアンナも、そして自分自身ですらも。

 ソォデ・ビィムに命令を伝えた後は、石見銀三だ。

 イリス・バージニアはフレイム・ダッチマンに勝るとも劣らない戦士。

 奴を狩るにはうってつけの人物である。

 バイパス・ロードは静かなるも歓喜の笑みで口元を歪めさせていた。






 一方、イリス達は身を隠しながら大聖堂への道を進んでいた。

 辺りから怒号や悲鳴が聞こえてくる。

 あれほど静謐で清廉な都市が、突如として地獄と化した。


 住人の家から財や家具は次々取り上げられ、中には炎の中に放られるものもある。

 ある者は串刺しに、ある者は捕らえられ、またある者は兵士達や狂乱した住人によって連れ去られていく。

 

 神の加護を賜るこの都市が狂気に陥った。


「なんてことを……」


 ミラは陰で口を両手で覆いながら涙する。

 こんなことは人間のやることではない。

 長い間洞窟暮らしで、人間との接触がなく、その文化については書で知る他ない彼女でも、この光景は異常に見えた。


「聞いたことがある。同じ思想を持つ人間が大勢いるとき、その思想の中にひとつでも"汚染因子"を含ませると一気に拡散していく。それが人間の心にも感染して、集団で狂いだすの。……でも、いくらなんでも早すぎる」


 イリスもこの光景に嫌悪感を抱いている。

 略奪、虐殺、そして理不尽な捕縛。

 

 まるでかつての幼い頃の記憶と同じではないか。


「ミラ、一気に駆け抜けるわよ」


「駆け抜けるって……」


「この騒ぎに乗じて大聖堂まで行くの! 今なら突破できるわ、さぁ来て!」


 イリスはミラの手を握るや、そのまま狂乱の大通りを駆け抜けていく。

 ミラも手を離すまいと必死で走る中、人々の苦しむ姿に心を痛めた。

 この騒動を止めるのだ、こんなことあってはならない。


 ミラが心に誓う中、イリスは前方を睨みつけながら駆けていく。

 あの大聖堂の中に諸悪の根源がいるのだ。

 どんな敵が立ちはだかろうと叩き斬る。


(どいつもこいつも、撫で斬りにしてやるッ! あの聖女とか言う奴も変な機械女もッ!)


 そして脳裏に浮かぶはフレイム・ダッチマン。

 もしかしたら、奴もまた危険なことをしでかそうとしているのかもしれない。


 そう思えてならなかった。


突然ではありますが、再度全文を対象にした改稿作業並びに内容の見直しをさせていただきます

御了承ください

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