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♯65 老いて尚一刀の下に……。

 大聖堂の外。

 太陽の光が燦々と降り注ぐ中、2人の男が互いの戦気を交える。


 兵士達が訓練で使う広々とした広場で対峙し合う、カルバートと石見銀三。

 

 カルバートは鼻息荒く老体の侍を睨みつけながら嗤った。

 いつものように捻り潰してやると意気込みを崩さない。

 その自信があった。


「聖女様よう、生死はどうする? どっちかが死んでも問題ねぇか?」


「そんなはずあるわけないでしょう。これは……私的ではありますが、試合と見なしております。ですので……」


 そう言いかけたとき、カルバートはそれを怒声にて遮った。


「冗談じゃあない、それじゃあ張り合いがないだろうが!? ……よし、じゃあこうしよう。おい爺、テメェはこの俺様を殺す気で来い。優しい俺様は、最悪寝たきり状態程度までにとどめておいてやる」


「……言うじゃねぇか。気に入ったぜ筋肉ダルマ」


 ソォデ・ビィムもやレイド、そして聖女もこの剣呑な雰囲気を制そうとした。

 だが、バイパス・ロードは逆に面白がって拍手を始める。


「聖女ユアンナ、ここは彼等に任せましょう。……それに、もしかしたらお目にかかれるかもしれませんよ?」


「……一体、なにが?」


「ん~? 知らないのですか? 富士見新陰流に伝わる……『秘刀・無拍子むびょうし』です」


 秘刀。

 即ち必殺の剣のことであろうか。

 もしも見られるのなら是非とも、といった所だが、その凶刃の相手が自分の仲間であり部下であると思うと、聖女の心境はとても複雑だった。


「……さぁ、行くぞ。この俺様の力、とくと見るがいい!!」


「能書きはいらねぇ……来い」


 カルバートはファイティングポーズへ。

 対する銀三は無形、それどころか柄に手を添え鯉口を切ろうともしない。


「なめやがってッ!」


 突如、カルバートの身体が炎のような光に包まてる。

 太陽のように煌めきながら、エフェクトを残し高速移動。

 銀三の周りを光が巡り、全ての視界を眩くさせて翻弄している。


「ハハハ、どうだ侍。俺様の動きを捉えられる……――――ッか!!」


 銀三の背後から後頭部に向けての拳。

 砲弾のような一撃を銀三は身を捩りながら躱し、続けてくる二撃目のアッパーを宙に舞いながら回避。


 だが、カルバートのこの光をまとった高速移動がそれを許さない。

 宙で無防備になる銀三を、鷹のように飛び追う。


「無駄だ、俺様の『ソルティ・ドッグ』からは何人なんぴとたりとも逃げられはせんッ!!」

 

 間合いをとっても無駄だと言わんばかりに、銀三の背後に瞬時に回って拳を振り下ろす。

 彼奴の神託は高速移動のみではない。

 一定の間合いを開いても、半自動的に相手の隙をつくようにして、背後に回れる能力も兼ね備えている。


 銀三は刀を抜かず、奴と同じように徒手で応戦した。

 だが、その圧倒的なパワーからくるパンチは、例え防御したとしても地面まで叩き落とすには十分な威力だ。

 銀三は小さく呻きながらも、叩き落とされた地面にて受け身をとり、間合いをあけようとする。

 

「だから……無駄なんだよ!」


 再び背後に現れる。

 そこからは銀三の防戦一方。

 カルバートは大声で笑いながら自分の勝利を確信し、ラッシュを浴びせ続ける。


「……銀三氏はなぜ刀を抜かないのです? ……このままではッ!」


 レイドも心配そうに銀三を見ていた。

 これではあまりにも……。


 そう思っていたとき、銀三にも動きがあった。

 一定の間合い、より半歩前。

 奴が回り込まない位置まで空けたのだ。

 そして、鯉口を僅かに……。 


「……なるほど、確かにその位置ならまだ背後へ回り込むには任意でなくてはならない。……だが、それがどうした? この俺様の動きならすぐにでも裏へ行けるぜ?」


「……」


 銀三は喋らない。

 右手を柄に添えた状態を維持したままその場に佇む。

 ――――居合、か?


「フン、神速の抜刀術ってか? くだらねぇ……」


 付き合っていられないと言わんばかりに、『ソルティ・ドッグ』による高速移動。

 今度はフルパワー、これまでよりずっと速くッ!

 戦闘経験者であるレイドや聖女ユアンナ、そしてソォデ・ビィムの目から見てもそれは瞬間移動に近い動き。

 佇む石見銀三の背後についたと同時に拳を突き出した。


 だが……。


「……え?」


「わかりやすすぎるんだよ、ボケ」


 銀三が何事もなかったかのように聖女の方まで歩き出す。

 カルバートの右腕がなかった。

 いつの間にか跳ね飛ばされ向こうの木に引っかかっていたのだ。

 遅れて血が噴き出すと同時に、喉が横一文字に割れた。

 泡立つような音を立てながらカルバートはその場に倒れこむ。


「……な、なんだ? なにが起きた!?」


 レイドが叫ぶが、誰も答えない。

 むしろこちらが聞きたいくらいだと聖女もソォデ・ビィムも息をのんでいた。

 バイパス・ロードも口をつぐんでいる。


 ――――秘刀・無拍子。 

 富士見新陰流の極意のひとつであり、『一刀、無閃が如く』と評されるまでに速く精密な一刀。

 相手の虚に潜り込み、この無閃の一刀にて命を抉る。


 先の先でも有用ではあるが、この秘刀の神髄は後の先にあった。

 先に相手が攻撃を仕掛けてこようとも、この極意あらばたちどころに無力と化す。


 相手の速さ・強さを更に凌駕する居合を以て、場を制す――――。

 まさに、無敵の居合だった。


「……恐ろしい男だ」


 レイドは恐怖を感じ呟く。

 だが、それと同時に希望が湧いた。


 この男なら、イリスの神速に勝てるのではないか、と。

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