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♯54 亡霊との再戦

「あの森から聞こえる轟音は……ッ!? いや、だが今は」

 

 ダ・ウィッチ村でイリスの帰りを待つフレイム・ダッチマン。

 コシュマール保安官によってイリスが連れだされてから、森の方から幾度も聞こえる銃声と砲撃の音。

 本来であれば駆けつけるべきなのであろうが……。

 

 もはやそれは出来そうもない。


「やれやれ、時間だ。奴が、来たッ!」


 怪物の嘶き声とチャリオットの車輪の音がこちらに向かってくる。

 搭乗している首のない女黒騎士は、既に抜刀していた。

 宙でン・ガイの剣を振り回し、今にも斬ってかかりそうな勢いで迫ってくる。

 

 それに合わせ、フレイムも槍を構える。 

 風車のように左右に振り回し、自らの内に秘める闘争心を高め、地に伏したような構えをとって穂先を向けた。

 

「イヤァアッ!!」


 フレイムの張り上げた声と共に、高速で迫ってくる女黒騎士に穂先が胸に目掛けて翔ぶ。

 女黒騎士は剣で弾くと大きく振りかぶり、フレイムの首目掛けて切っ先を回した。

 すれ違いざま、フレイムはすかさずこれを防ぐが、槍は太刀打ちからスッパリと斬れてしまう。


 しかし、これがフレイムの狙いでもあった。

 この残った部分をチャリオットの車輪に引っ掛ける。

 そうすれば、チャリオットを無力化出来るかもしれない。

 そう踏んだのだ。


 ――――ここからが勝負だな……。


 決意を胸に、もう1度折り返して迫ってくる女黒騎士の動きをしっかりと見極める。

 

 右か? それとも左か?


 迫るにつれ高鳴る鼓動。

 貴族服の中が緊張でじっとりと湿り始める。

 丁か半かの、ふたつにひとつッ!


 さぁどちらからくる!?


 

 女黒騎士の操る怪物がほんの僅かに軌道を変える。

 それは彼女が攻撃しやすいように。

 騎士が剣を振りかぶる。



 ――――右だ!


 フレイムは地を転げるような動きで回り込み、車輪に柄を勢いよく差し込む。

 急に旋回したフレイムに、突進を繰り返すばかりのチャリオットでは対応できず、なにより、柄で車輪を止められた為にチャリオットは一時的に元の機能を果たせなくなった。


 そうと決まれば女黒騎士の判断は早い。

 チャリオットから飛び降り、そのまま天空からの唐竹割をフレイムに繰り出した。

 

「なんのぉ!」


 両腕の鉄甲で防ぎ彼女の両腕がやや上がった状態にまで持ち込む。


ッ!」


 そして一歩にして強烈な震脚。

 相手の懐に潜り込むや、自らの体重と丹田で練り上げた気を右肘に込めた『頂肘』を女黒騎士の鎧から開けた胸元に叩きこむ。

 超至近距離から大砲を撃ち込まれたような衝撃に、女黒騎士は無抵抗に転がっていった。 

 

 フレイム・ダッチマンは今日に至るまで、大陸武術の大半を学び、自分の物にしてきたのだ。

 ひとつの流派に拘らず、多くの流派の持つ特性を取り入れることにより、より柔軟な戦い方が出来るよう研究してきた。

 その流派が持つ強みを最大限にまで活かし、逆にデメリットとなる部分は、他の流派の持つ強みでカバーする。

 

 《大陸武術こそ最強!》《この剣こそ天下無敵!》

 ……馬鹿馬鹿しい。

 彼にとって『武術』に強いも弱いもない。

 勉学をして良き成績を残したからとて、それが賢いという証にはならないように、武術をやったからといってそれが強いという証明には決してならないのだ。


 無論、武術への敬意を抱いた上での判断だ。

 問題はどのような力を得たか、果ては持っているかではない。


 その力を欲した自分がどのようなタイプの人間なのか――――、自分自身と向き合う姿勢に強さとしての価値があるのではないかと、フレイム・ダッチマンは考えていた。



「さて……まだ動けるだろう女黒騎士よ。かつての暴虐の亡霊よ?」


 そう語り掛けると、女黒騎士は飛び起きて再び剣を構える。

 ――――やってくれたな?

 まるでそう言うかのように凄まじい脚力で迫ってきた。


「上等ォッ!」


 互いに練り上げた武が、夜闇の中で火花を散らす。

 家の中から見ていた村人達は目を丸くしていた。

 自分達の中の常識では考えられないほどの速度で、嬉々として殺し合いをしているのだから。


 フレイム・ダッチマンが嗤うように、――――頭無き彼女も歓喜で嗤っているかのようだった。







 一方、村長の家の2階でそれを見ていたミラ。

 彼女はフレイムの武の水準の高さに圧倒されながらも、気掛かりなことが浮かんだ。


「イリス……イリスはどこ? ……どうしてイリスがいないの?」


 窓越しなので視界は限られるが、それでも彼女の姿が見れないのはおかしい。

 見える範囲内で探そうと下を見ていたが、――――それがまずかった。


 今まさに、自分の背後にいる村長の気配に気付かなかった。


 気づいたときには口元を、なにかの薬品をつけた布で覆われ、ローブ越しから身体を羽交い絞めにされる。


「――――ッ!?」


 抵抗しようとしたが、身体から力が抜けていくのを感じた。

 腕が肩が重くなり、バランスが崩れる。

 その最中に羽交い絞めにしているほうの手がローブの下へと伸び、自分の胸元を弄られているのを感じた。


 豊かな乳房を、しわがれた手で乱暴に掴まれるが、それに応えることは出来ず、そのまま意識を失う。


「……手に入れた、ついにッ! これで、アナタはワシのモノだ……ッ!」


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