表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/75

♯52 決戦前

 次の日、18時半前。

 再度の襲撃に備え家の中に籠る者。

 避難場所として薄ら高い丘の上に移動する者。

 村人達の身の安全を守る準備は出来ていた。


 夏である為日の入りはまだだ。

 ほんのりと明るさの残るこの時間帯に、村長の家の前で準備をしていたイリスとフレイム。


「丸投げね」


「仕方がないだろう。他に脅威に立ち向かえる者がいないのだ」


 槍の手入れをしながら、隣で人参をかじるイリスにフレイムは肩を竦めて見せる。

 威張り散らしていた村長の孫までも、部屋の中に閉じこもってしまったという。

 それほどまでに、この村はそれなりにのどかだったのか。

 しかし、それを今言っても仕方がない。


 女黒騎士を、イリスもフレイムも確実に仕留める気でいた。

 静かなる意気込みを胸に秘める中、コシュマールがイリスに近づいてくる。


「……なに?」


「失礼、イリスさん。この村の保安官として今度は私も戦う。その為にだね……是非とも君と2人で話し合いがしたいんだ。……他の誰でもない君と」


 突然の来訪のみならずこの提案にイリスは度肝を抜いた。

 だが、彼女にとってこれは好都合だ。

 この男を殺すことが出来る。

 殺した後に女黒騎士の方へ行けばいいだろうとも考えた。


「……まぁいいけど。フレイムはそれでいい?」


「……あぁ、構わんが。こういうのはもっと早くにしていただきたいな。……なるべく早くに終わらせてくれ」


「……了解した。北の林の近くに小屋がある。5分後にそこまで来てくれ。私も準備するから」


 そう言って足早にコシュマールは去っていった。

 イリスはずっと不信の眼差しで見ていたが、とりあえず行ってみることに。

 

(殺した後は……まぁ適当に埋めて、"逃げ出した"って言っておこうかな。まぁ言い訳くらいなんとかなるでしょ)


 5分後、のそのそと歩きながら林の近くにある小屋へと移動する。

 小屋にしては少し洒落てはいるが、別段怪しいという所は見受けられない。

 ドアを開くと玄関があり、奥の扉に続いている。


「……ほあんかーん?」


 間延びした声掛けをしながら奥の扉へ行くと、直前で足が止まる。

 内部から人の気配がしない。

 あまりにも静かすぎるのだ。


(……なるほど、そっちもうって出てきたってわけね)


 左手を刀に添え、親指で鯉口を切る。

 舌なめずりの後、勢いよくドアを蹴り破った。

 その瞬間を狙ったのか、3発の銃弾がイリスに翔ぶ。


「ハハハ、罠ってわけね!」


 廊下の壁に張り付き、その場でやり過ごす。


「フン! そちらもノコノコついて来たあたり……私を殺す気だったのだろう?」


 コシュマールの嘲笑の入り交じった罵声が部屋の奥から響く。


「残念だが……君には死んでもらう。女黒騎士はあの貴族1人で戦うことになるだろうがな!」


「アンタをこの場で即死させりゃすぐよ」


「フフフ、果たして出来るかな!?」


 コシュマールが奥へと走り、扉を開けて外へ出る音がした。

 すかさず追いかけるイリスは、彼が向かった林の中へと駆けていく。

 ホームグラウンドゆえか、コシュマールの方が速い。

 だがイリスも負けていない。


「ふん、なら……これならどうだ!」


 林から森へ。

 木々が行く手に生い茂る中、コシュマールは煙幕を破裂させた。

 視界が塞がれ、イリスは足止めを喰らう。


「く……この煙ッ!」


 辺りが白く曇っていく。

 だがそれ以上に奇妙なことが起きていた。


「煙が晴れない……いや、煙が木々にぶつかったりして、行ったり来たりを繰り返してるッ! まるで、反射しているみたいに……ッ!」


 生き物のような動きを見せる煙は、イリス周辺の煙の濃度を一定にしている。

 振り払おうとするが、これは払えそうにない。


「……奴の神託か」


 イリスは調子に乗って深追いしたことを後悔した。

 見事に敵の術中に嵌ってしまったのだから。


「フフフ、平地で戦えば私は君に勝てないだろう。……だが、ここは私が最も得意とする戦場!」


 コシュマールの声が響く。

 声まで木であちこちに反射しているのか、右からも左からも聞こえた。

 これでは場所の特定が困難だ。

 しかも、無闇に動けない。


「我が神託、『セックス・オン・ザ・ビーチ』の真の恐ろしさはこれからだ!」


 ダ・ウィッチ村の欲深い保安官コシュマールの毒牙が、今イリスに向けれる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ