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♯48 殺戮の夜が明ける

 場所変わり、修道都市『サフレン』


 イリス達の行く場所でもあるのだが、ここでも動きがあった。

 修道都市を象徴する大聖堂の地下にて、幾人もの聖職者が集まっている。

 その中には、港街でイリス達の後ろをつけていたフードの人物も。


「……ソォデ・ビィム。道中ご苦労様でした」


「勿体なきお言葉です。聖女様」


 ソォデ・ビィムと呼ばれた神父服の男は白銀の座におわす聖女に頭を垂れる。


「そして、……御無事でなによりでした。勇者レイド様」


 フードの人物はフードを下ろしその顔を皆に晒す。

 勇者らしい勇ましさも年相応の明るさも、最早そこにはなく、鬼のように憤怒の表情を浮かべていた。


「レイド様……御同行の方々は我々が丁重に弔わせていただきました」


「海の向こう側にも関わらず、痛み入ります」


「よいのです。アナタがこの世界の為に、常に尽力しておられたのは知っています。今回のことは……」


「いや、いい。港街でこの神父様に出会えたのは好機でした。こうして転移術でここまで回り込めたのだから」


 レイドは拳を握りしめる。

 深い悔恨と憎悪が、拳の中で渦巻き、爪が食い込んだ部分から血を滴らせていた。


「神託斬りのイリス……情報では神託者、主に男性を斬り殺した上で金品をくすね、またあるときは自ら用心棒等に入れ込み食いつないできたとか……。裏社会ではちょっとした有名人とのことで」


「あぁ、そいつに……俺の全てを奪われた」


「レイド様、我々はある人物も警戒しています。それこそ、アナタ方も出会ったことがあるであろう"フレイム・ダッチマン"です。異教のみならず我等のかみさえも侮辱し、果ては我々教会が長年守り続けてきた秘密にも近づこうとしています。フレイムとイリス……両名の裁き、私達にもどうか」


 聖女は白銀の座から立ち上がり、レイドにそっと寄り添う。

 その瞳から漏れる慈愛と聖光に、彼はいくらばかりか心が和らいだ。


「こちらこそ……です。俺だけじゃ無理だ……あの巨悪を倒すには……ッ!」


「……そう言われると思っておりました。……しかし、この人数だけでは心許ない。そこで、"ある御方"を我が陣営に招き入れました。極東の島国から、遥々やってきてくださった凄腕です」


「凄腕……?」


 聖女の指し示す方向を見ると、通路の向こう側から誰かが歩いてくる。

 薄暗がりなのであまりよくは見えないが、珍しい服装をまとった老人だ。

 そしてよく見れば、イリスが差していたのと似たような倭刀を二本大小で差している。

 

「アレクサンド新陰流の源流たる流派……富士見新陰流の達人、石見銀三いわみぎんぞう氏です」






 その頃、ダ・ウィッチ村では、かの騎士との激戦が繰り広げられていた。

  

 チャリオットの装甲は異様に頑丈で、破損させるのは困難だ。

 更に縦横無尽の高速移動。

 かくなる上は怪物を行動不能にするほかあるまい。


「そこだ!」


 フレイムの穂先が怪物の足をとらえる。

 怪物は驚いたように暴れだし、女黒騎士はその衝撃と揺れから逃れた。

 自ら宙に飛び上がり、そのまま走り去りさらんとするチャリオットをやり過ごす。


「地面に降りたわね……こっからが本番よ!」


「油断するな、ン・ガイの剣はまだ健在だ」


 フレイムは頭上で槍を豪快に振り回しながら女黒騎士に迫った。

 振るわれる槍を物ともせず受け流し、一瞬で彼女の後ろに回り込んだイリスの斬撃ですらも剣戟で弾いていく。

 

 1対2、しかも両者は凄腕の武芸者でもある。

 そんな2人に対して赤子の手を捻るように扱う女黒騎士に思わず戦慄した。

 首がなくとも自在に立ち回れるその力、そしてその力を更に邪悪なものに変える『ン・ガイの剣』


「……なるほど、この力……属国すらも恐れるわけだ」


「面白いわ……久々に歯ごたえあるじゃない」


 今度はMissing-Fの幻影による物量攻撃。

 女黒騎士は剣を右へ左へと振るって、幻影を撃ち落としていく。

 幻影達に使わせている拳法がまるで役に立たない。

 だが、それが狙いだ。


(……終わりよッ!)


 幻影に紛れてのイリスの攻撃。

 零縮地で瞬時に移動しそのまま真っ直ぐ刀を上段から振り下ろす。

 零斬による瞬間斬撃が女黒騎士の開いた胸元を抉りにかかった。


 ン・ガイの剣を持つ腕がそれに反応したかのように防御の型を取ったが、すでに遅し。

 切っ先が肉と肋骨を抉り、血飛沫を上げさせる。


(もう一刀ッ!)


 今度は心臓目掛けた刺突。

 突き刺さろうとした寸前で、ン・ガイの剣が振るわれ、弾かれてしまった。

 流れ出る血は巻き戻すように女黒騎士の体内に収まっていき瞬時に傷口が戻る。


「瞬間再生……流石は人外ね」


 間合いをあけて右八相の虎伏の構え。

 しかし、女黒騎士は突如として攻撃の手を止めた。

 斬られたであろう部位を指先でそっと撫でている。


「な、なんだ?」


 呆気に取られていると、轟音を上げながらチャリオットが戻ってくる。

 女黒騎士はそれに飛び乗ると、操縦席に備えられていた短剣を引き抜き、イリスの足元へと投擲した。

 そしてそのまま怪物の引くチャリオットで森の方へと走り去っていく。


「……これは、普通の短剣だな。別に呪いや魔術的な意味合いはないような」


 イリスが地面から引き抜いた短剣を見ながらフレイムは呟く。

 そこへ、ルインが駆けつけてきた。


「終わったようですな……。ミラ殿は怪我人の回復をしておられます。彼女の魔力量なら恐らくいけるでしょうが……」


 チャリオットに踏み潰された村人の死体を見るや、顔をしかめた。

 あまりに凄惨な光景に吐き気がこみあげてくる。


「ねぇルイン、アイツ……去り際に短剣をこっちに投げてきたんだけど……意味わかる?」


 イリスがルインに短剣を見せる。 

 ルインはその短剣を見るや、すぐに意味を理解した。


「……かつて彼女は戦争時、"また来るぞ"という意味合いを込めて地面に短剣を突き刺し、相手側に再戦を誓ったと言います。恐らく、今回も……」


 つまり奴はまた来る。

 自分達の首を刈り取りに。

 イリスは心地よい武者震いをその身に感じた。


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