♯47 眠らない女の咆哮とン・ガイの剣
次回は少し遅くなります。
ご了承のほどをm(_ _)m
イリスは脇構えにて刀を落とし、肩幅に両足を広げ腰を落とす。
足の親指にも意識を流し、いつでも体捌きが可能になるよう備えた。
やや爪先立ちのまま全身に余分な力が加わらないよう脱する。
フレイムは穂先を真っ直ぐ向けるよう青眼に。
チャリオットの特攻性や破壊力は脅威だが、冷静に間合いを見計らい側面や背面から討てばよし。
だが、女黒騎士は対人において絶大な効果をもたらす『ン・ガイの剣』を持っている。
そう簡単に討ち取れる相手ではない。
漆黒の鎧ではあるが、女性の象徴を目立たせる為に大きく開かれた胸元から見える柔肌は扇情的であり見る者を惑わせた。
きっと頭部は更に美しいのだろう。
イリスはふと彼女の生前を思い描いてみた。
「イリス、君……正面からうてるか?」
「……いいわ、じゃあアタシが引き付けておくからアンタは後ろからね」
会話は最小限に止めて行動に移す。
イリスは凄まじい跳躍と共に怪物を飛び越え、女黒騎士に斬りかかった。
狙うは胸元。
一突きすれば怪異殺しの極意が彼女の心臓を貫くだろう。
だが、敵も甘くはない。
剣を振り回すや迫りくるイリスを薙ぎ払う。
それもたったの一撃で。
「ぐがッ!」
弾き返されるも宙で軽く身を返し着地。
それと同時にチャリオットが動き、剣を振り上げながらイリスへと一直線に向かう。
強烈な砂ぼこりを上げる中、槍の刺突が弾丸のように女黒騎士の右腋窩へと飛んだ。
「隙ありだぁ!」
フレイム・ダッチマンの極められた一撃が突き刺さろうとしたその直後。
女黒騎士がン・ガイの剣を手放し、下へと落とす。
「なにぃい!?」
落ちたにしては勢いのある剣の柄に槍先がぶつかるや、槍の軌道が大幅に女黒騎士の背後へとズレた。
剣はそのまま地面に落ちたかと思いきや、バウンドしたかのように地面を跳ねて彼女の手元に戻ってくる。
そしてそのままチャリオットによる突進をイリスに繰り出す。
「ちょ、マジかコイツ!」
イリスは身を翻し横へ躱すが、待っていたかのようにン・ガイの剣の刀身がイリスに襲い掛かった。
(なら……その剣を、砕くッ!!)
素早い動作で構え、呼吸を整え、自身の究極の一刀をその剣にぶつける。
彼女自身会得したことに自覚がないものの、怪異殺しの極意は光剣すらも砕く奥義にして境地。
この剣も例外ではないはず、とこのときばかりはフレイム・ダッチマンも思った。
しかし、結果は思いもよらぬ方向へと行く。
イリスの一撃と交わったとき、歪な響きをまとって一瞬グニャリと剣が歪んだが、まるでバネ仕掛けかなにかのように元に戻り、その反動でン・ガイの剣の切っ先がイリスの脇をとらえたのだ。
(イリスの怪異殺しの極意を……否しただとッ!? 馬鹿な、異能の力をバターかなにかのように斬り裂く彼女の剣が……。流石は対人特化の魔剣、侮れんッ!)
チャリオットは急には止まれず、そのまま人混みや家屋に突っ込んでいく。
蜘蛛の子を散らすように逃げた村人の幾人かと家屋を磨り潰し、向きを反転させてまた突っ込んできた。
「やってくれんじゃない……面白い。……いいわ、アンタも膾斬りにしてあげるッ!!」
傷は浅い。
そして、とんでもない敵と出会ったことにイリスは歓喜の笑みを零していた。
アドレナリンが駆け巡り、倭刀に怪しい光が帯びている。
「イリスッ! 奴をチャリオットから引きずり下ろすぞ! このままじゃジリ貧だ!」
「オーケー。従ってあげる……行くわよッ!!」
首のない女黒騎士は、この2人の闘気に更なる血を滾らせた。
それは"過去のトラウマ"を一時的に忘れさせてくれるほどに。




