♯43 村長の孫
今回は少し短めです。
日が天高くまで昇った頃、イリスは散歩がてら村を歩く。
というのも、ミラが更生と称して自分に聖書を読ませようとしたからだ。
嫌と決まればその後の行動は早い。
エヴリンとは出会わなかったが、彼女のおかげで村の大体は把握できている。
すると背後より声がかかった。
「よう、アンタ……旅人なんだって?」
振り向くとニヤニヤと顔を歪めた少年とその取り巻きがいた。
少年の衣装は他のと比べるとかなり上品な仕上がりだ。
「……だったら?」
「フン、僕のお爺ちゃんの家に泊めさせてもらってるんだろ? いいか? 僕は村長の孫だ。つまりあの家は僕の家でもある。僕の機嫌を損ねないように精々気を付けるんだな!」
そういって取り巻きと共に大声で笑いだす。
(……なにがおかしいんだろう?)
自分より少し歳が上であろうこの少年の意図がよくわからなかった。
そして、なんの反応も示さないイリスに少し苛立ちを見せた少年はふんぞり返りながら彼女に詰め寄る。
「おい、礼儀。お前は体を鍛えるだけのゴリラ女か? 人間の女なら礼儀は知ってるよなぁ? 頭を垂れるんだよホラ。 おっと、その剣は抜かない方がいいぜ? 僕達は……銃を持っているんだからな!」
そう言うや古式ピストルを取り出し銃口を向ける。
取り巻き達も調子に乗って引き抜いた。
イリスはそれでも動かずに凛として佇む。
「……チッ、なんか反応しろよ。……なぁ、その剣見せてくれよ。いいだろ? あ、下手な行動はするなよ?」
取り巻き達も詰め寄り銃口を向けながら囲んでいく。
「……」
「さぁ、どうする? ククク……」
イリスは黙ったまま、腰に差していた刀を鞘ごと引き抜いていく。
「フフフ、そうそう。はじめっからそうすりゃいいんだよぉ」
少年がそう言い放った次の瞬間、鍔鳴りの音が"重なって"響いた。
少年も取り巻きもポカンとしたが、すぐに状況を把握する。
「わッ! お前なにズボン脱いでんだよ!」
「げぇ!? ってお前だって!」
彼等のズボンを留めるベルトが見事に断ち切られ下半身を露出していた。
突然のことに大慌てする彼等を横目にイリスは再び刀を腰に差し、歩いていこうとする。
電瞬が如き抜刀であった。
本来なら斬り殺しても構わなかったが、あのコシュマールを殺すにはもう少しこの村に留まる必要がある。
多少のやりきれなさはあるが仕方はあるまい。
それに、あんなチンピラにこの剣を見切ることはできない。
「……それにしても、ゴリラ、か」
歩きながらふと脳裏に浮かんだ少年の言葉。
「ゴリラ、……ゴリラ。……フフッ」
イリスは少し嬉しそうであった。
というのも、イリスにとってゴリラはかっこいい生き物であり、普通なら悪口に聞こえるが彼女にとってはこの上ない褒め言葉だからだ。
因みに、このことをミラに言ったら、"女を捨てるな!"と怒られたそうな。




