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♯33 前兆

 撃たれた手をおさえながら、その場にうずくまるサンブーカ。

 銃口を向けながら不敵に笑んでいるルイン・フィーガ。

 そんな彼の奇々怪々の様に驚きを隠せないミラ。

 目の前にいるルインは、サンブーカのナイフを胸に突き刺したまま飄々としているのだ。


「ルインさん……どう、して?」


 口に両手を当てるような仕草で、ミラは目の前の現実に言葉を失っている。


「……"不老不死"、というモノでござるよ。小生の時間は数百年前から止まって(・・・・・・・・・・)いるのです(・・・・・)


 マスケット銃を腰布に戻しながら刺さったナイフを引き抜こうとする。

 

「あの、すみません。これ抜くの手伝ってくれませんかな?」


「あ、は……はい」


 ルインに言われハッとしたように近づき、手に魔力を溜めて傷口を癒しながら、ゆっくりとナイフを引き抜いていく。

 その間ずっと苦痛の表情を浮かべながら彼は耐えていた。

 もしもこの作業をイリスやフレイムにやらせていたらと思うと、思わずゾッとする。

 ミラは優しく丁寧に抜いていった。


「くそ……なぜ、だ。なぜお前が……ッ! お前からは異能者特有の気配を感じなかった。魔力も神託エネルギーも……一体、どうして……ッ!?」


 撃たれた手を庇うようにヨロヨロと立ち上がりながらサンブーカはルインを睨みつける。

 その顔は怒りというよりも、一種の恐怖を抱いているようなソレに近い。


「フフフ、その通り。小生に異能の力はありません。そして、アナタ方のような武力もない。……あるのは"呪い"だけです。……さて、サンブーカ氏。ここは1つ提案なのですが」


「……クッ、なんだ?」


 ルインは砕けた態度を崩さずにサンブーカに歩み寄る。

 先ほどまで戦闘で腰が引けていたのが嘘のようだ。

 サンブーカはこのルイン・フィーガに得体のしれないものを感じた。


「撃った傷を回復して差し上げましょう。その代わり、我々を見逃してはいただけませんかな?」


「なに……?」


「ルインさんなにを言っているんです!?」


 2人の声が高鳴る中、ルインは口角を緩めながら続ける。


「如何に歴戦の戦士であり神託者であれど、今のアナタの状態ではミラ殿との戦闘は難しいものでしょう。そしてなにより、小生は不老不死。激痛で気を失うことはあっても、死ぬことはありません。それに、他の方々と違って割と良識のある御仁とお見受けいたします。……ならばここは、お互い退くというのはいかがかな?」


 頭に叩き込んだ演劇の台詞を一言一句違えずに舞台で披露するように、ルインは演技ぶった声調でサンブーカに問う。

 余計に胡散臭さがましていてミラは心配になった。

 この人に交渉などは任せられないかもしれない、と。

 だが、意外にもサンブーカはこの交渉に乗った。


「……この男の口の利き方はどこか癇に障るが……その言葉聞き入れよう。今は退いてやる……だが、忘れるな? 我々は常にフレイム・ダッチマンを狙っている。それは、奴に組するお前達も同様に狙われるということだ。……今回のようにいくと思うなよ?」


「無論ですぞ。……まぁできれば、2度とは会いたくはありませんが」


「抜かせ。……ミラ、だったな。俺はアナタとの勝負を諦めたわけではない」


 サンブーカはミラに視線を向ける。

 再戦の誓いを受け、ミラは複雑な心境となる。

 つまり、戦いは避けられない。

 ミラとしては戦いは避けたかった。

 否、戦いたくはないと言った方がいい。

 

「戦わずに済む方法はないのですか? アナタは私以上に世界を見てきています。私以上に、見識があるはずです。だったら……」


 ミラの言葉に目を伏せるサンブーカ。

 その顔には諦観の色が浮かんでいる。


「それは、出来ない。……戦士としての性、というべきか。この勝負を曖昧のままにしておくのは我慢ならん。それに、フレイム・ダッチマンの愚行は止めねばならん」


「そんな……」


 悲しそうな表情を浮かべるミラ。

 だが、サンブーカの意志は変わらない。

 互いに尊敬しあう仲であることは明確であるが、道は確実にすれ違っている。


「ミラよ。俺だけでなく、ここから先進む道でも、戦いは避けられん。だが、アナタはアナタの道を進むといい。その道を辿ったからこそ、その強さがあるのだと……互いに武を交えて感じた」


「サンブーカさん……」


「……頼みがある。もし可能なら、アナタもまたフレイム・ダッチマンを止めてほしい。奴の言う超人は神殺しのためにあるのではない。……もっと恐ろしい災厄であると聞いている」


 災厄、と聞いてルインがピクリと反応する。

 

「災厄ですと? 人間を超え神を克服することが、それほどまでに災いなのでござるか?」


「……フフフ、そうか。フレイム・ダッチマンはそこまでしか話さなかったようだな。無理もない……これは神がおわす国、神界においても禁忌とされている事項だ。そうそう外部に漏れるものではない。教えれるなら教えたいが……俺も、詳しくは知らん」


 と、なると疑問が残る。


 フレイムはその禁忌をなぜ知っていたのか?

 彼は超人の他になにを隠しているのか?


 そして、彼の真なる目的とは一体。


「……わかりました。謎は多いですが、出来るだけのことはいますわ。彼の行動を監視しましょう」


「それがいい……で、だ。卑しいようで悪いが、そろそろ回復してくれるとありがたいのだが……すまん」


 ミラは急いで回復につとめる。

 その間、ルインは顎に手を当て考え込むように黙ってしまった。

 飄々とした態度は消えうせ、それこそ事件を追う探偵か実験に全神経を集中させる魔術師のような表情で、考えに耽っていた。

 

(おかしい……小生が"彼女"から聞いた話にはなかった。……えにしというのはまるで引力のように時代を超えて引き合うものであると存じていますが……、超人といい、ダッチマン卿といい、そして……このミラというサキュバスといい……彼等の存在が、すでに止まったはずの小生の時間を再び動かし始めた。……では、イリス、イリス・バージニアよ。アナタは私に……なにを見せてくれるというのか)


 陰でニヤリと笑みを零すルイン。

 すると、見覚えのある人影が現れる。


「……アンタ達、ここでなにやってんの?」


 リー・ゼンフとの戦闘を終えブラブラ歩いていたイリス・バージニアだった。

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