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♯2 幼かったあの頃、その悪夢の果てに

 古くて遠い夢を見た。

 あの胸糞悪い、気持ちの悪い。

 幼き日、平和な日々を一瞬にして砕いた神託者共の夢。


 ――――どうしてお母さんを殺したの?




 いつもの日常の……はずだった。

 朝起きて、食事を食べ、その後の家事の手伝いやちょっとした勉強。

 昼食後は皆と遊び、お昼寝をしたら、また遊び。

 本当に幸せだった。

 憎しみも悲しみもない素敵な日常だった。


 ――――だが。


「お母さん!」


「いい、決して出てきてはダメよ、いいわね」


 ある日、いつものように母の居室で、遊んでいた。

 騎士だった父はすでに戦死。

 母と2人で、田舎の片隅に住んでいた。


 だが、それがいけなかったのだろうか。

 3人組の少年に目をつけられたのだ。

 異能の力で血と欲に飢えて、それを満たすことを覚えた少年に。






「お母さん……?」


 母の居室からは、緊張で呼吸を乱す母の存在を感知できる。

 イリスがいるのは、居室にある衣装ダンスの中。


 やけに静かだ。

 恐る恐るタンスの戸を少しだけ開けた。

 次の瞬間、ドアが蹴り破られる音が響く。

 思わず声を上げそうになったが、言いつけ通り口を塞いで我慢した。


「おいいたぞ、女だ」


「へへ、金品の前に、コイツをいただくか」


「ヤれぇ!」


 まだイリスよりかは上の歳だろう。

 恐ろしいことまで口走り、震え上がって動けない母に襲いかかる。

 そして、少し開いた戸の先に広がる悪夢を目の当たりにした。


「やめ、嫌ッ! きゃあああああああああ!!」


 艷やかな悲鳴と、衣服を破く音が響く。

 恐怖のあまり、イリスの呼吸が荒くなり、涙が流れた。


 隙間から見えるのは、3人によってたかられ乱暴にされる母の姿。

 破れた衣服からのぞく白い肌。

 柔らかな母性を包み上げる黒いブラジャー。

 捲り上げられたスカートからのぞくガーターベルト。


 そして、そんな母に群がる蛆虫おとこども

 荒い呼吸と飢えた欲望が肢体を貪り始める。


(やめて……やめて、やめて! お母さんに、ひどいことしないで!)


 祈りが届くことはない。

 目の前で蹂躙される母に、幼いイリスには成すすべがなかった。

 床に押し倒され、されるがままの姿は、もはや絶望しか映らない。


「許して、許して!」


「ヒャハハハハハハ!」


 下卑た笑みと共に、母と密着し腰を振る。

 もう1人は腕の自由を閉ざしつつ、上半身を汚い手で触りたくった。

 普段の母からは聞いたこともない、恐怖に溢れた嬌声と、徐々に『女の快楽』で染まっていく母の表情に、イリスは呼吸が止まりそうになる。


 胸を乱暴に触られ、少年と腰を振りあい、蒸した空気が流れる。

 第三者から見ても悲惨な光景だが、ある一種の性癖を持つ者なら『官能』という言葉で片付けられるだろう。


「イヤ……ッ、いやぁああ!!」


 必死に身を捩り2人に抵抗するイリスの母。

 一方、その奥で少年の1人が、母のタンスの引き出しを漁っていた。

 取り出したのは、別の色のブラジャー。

 ワインレッドの花柄模様が目を引く、美しいデザインだ。


 それを持って近づくやいなや、それで母の首を締め始める。


「ぐがっ!? ぁ゛……あ!」


「いいぞ、そのまま締め付けてろ!」


 快楽と恐怖の顔から一気に血の気が引く。

 苦しさのあまり、ビンッと足を跳ね上げる母の姿。

 構わず更に勢いを増して腰を振り続ける少年。

 互いの快楽の絶頂が聞こえた瞬間、イリスはなにも聞こえなくなった。




 気づけば、母はすでに事切れ、大の字で床に転がる死体となった。

 その死体すら玩ばまれているのが目に映る。

 

 醜い欲望で穢されていく母親は、完全に玩具と化していた。

 

 冒涜的ともいえるこの光景に、イリスの今まで培った思い出や感情が音を立てて崩壊した。


 そしてなにも感じれないまま、最後に映ったのは、少年達が金目の物を奪い、雷や火を掌からだして家を焼く姿だった。


 

 






「うわぁぁぁあああ!!」


 イリスが悪夢から飛び起きる。

 周りを見渡すと、そこは豪華な造りの部屋だった。

 上質なベッド、周りには幾人かのメイド。

 どう見ても、自分がとったボロ宿ではない。

 鎧のみ外されていたため、高級品の寝心地の良さが如実に伝わった。


「失礼、目覚めたかな?」


 部屋の扉が開くと、見知った男が顔を出す。

 フレイム・ダッチマンである。


「ここは、貴族専用のホテルだ。平民である君には似つかわしくないだろうが、くつろぎたまえ。許可する」


 そう言って人払いをかけ、イリスと2人きりになる。

 イリスは警戒の色を強め、思わず布団を握りしめた。


「そう怯えるな。なにも取って食おうなどとは考えちゃいないさ」


 部屋の端に陳列された、デザートの山から一皿。

 それを、イリスに持ってくる。


「ホワイトケーキはいかがかな? コーヒーもあるぞ?」


 目の前の男の仕草に、怪訝な顔をしながらも、掌で静止する。


「ごめんなさい、白い食べ物と飲み物はキライなの。……コーヒーはいただくわ。ブラックで」


「わかった、淹れよう」


 戦闘のときとはまるで違う。

 目の前の男は鼻歌交じりに、コーヒーを入れ始めた。


「ひどくうなされていたようだな。まぁ仔細は聞かんがね。……そう言えば、我々はお互いの名前を知らないな?」


「え、えぇ……、まぁ」


 淹れたてのブラックコーヒーを2つ。

 1つをイリスに手渡す。


「私の名は、フレイム・ダッチマン。暇潰しで賞金稼ぎをしている貴族だ。そして、君との勝負の勝利者だ」


「……イリス・バージニア。神託者を狙ってる。特に男」


 互いにひと啜り。

 少しの間を置き、フレイムが近くのチェアに腰かける。


「イリス・バージニア……なるほど、神託斬りと言われている少女とは君だな」


「えぇ」


「ではイリス、もうわかっているとは思うが……」


「わかってる、アンタの旅の連れになれってことでしょ」


 更にひと啜り。

 負けた以上、筋は通す。

 自分の無力が招いた結果だ。


 イリスはベッドから立ち上がり、窓から街を見下ろす。

 色とりどりのネオンが集まる光景は、イリスの心を僅かに癒やした。


「キレイな街……」


「ストラリオ国、人口2000万人。昔から金や銀の採掘で栄えた結果、この街が生まれ、今では金と欲が渦巻く黄金の園となった。このホテルがその証だ。世界一巨大な建造物。現代文明の誇りだ」


「……それだけ飢えた神託者がよってくるということ。……お陰で30人は殺せたわ」


「旅の途中で、殺したい神託者がいたら、殺してもかまわんぞ。ただし、やめろという指示があったら従え」


「……止めないの?」


 イリスの言葉に、鼻で笑ってみせる。


「狂犬を飼い馴らすことは、貴族の間では高いステータスとなる。君のようなぶっ飛んだ考えを持っているほうが、スリルがあるのでね」


 イリスは呆れたように肩をすくめた。

 貴族の考えることは理解出来ない。

 もしかしたら、人斬りをやってる自分以上にぶっ飛んだ存在なのではないか?

 フレイム・ダッチマンの神経を疑わざるを得ない。


「それで……、どこ行くのフレイム」


「ふ、いい質問だ」


 飲み干した空のコーヒーカップをテーブルに置き、今度は大きなソファーに腰かける。


「かけたまえ」


「どうも」


 向かい合うように、イリスもソファーに座る。


「これから話すのは、私が長年求めてきた……ある宝物のことだ」


「宝物……?」


 そうだ、とフレイムは頷く。

 敵意や殺意すらないが、その眼光は戦闘時より鋭い。


「私が求める物……『叡智の果実』だ」


「叡智の……果実?」


 フレイム・ダッチマンはゆっくりとイリスに語り始めた。

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