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D壊の英雄  作者: 闇薙
第二章 輪廻天駆のディケデンスソウル
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第二部

開始します。

誤字脱字、感想等ございましたら、お気軽にお願いします。


 全身の大怪我が完全に治ったのは結局、夏休みが終わってからになった。


 致命傷一歩手前で、正直なんで生きているのか疑問にさえ思えるほどの怪我ではあったが、和仁にとってしてみれば、瑞葵の手厚い看護を受けることができたというだけで、怪我をした甲斐があった気がしていた。


 随分と安い性格をしていると、彼自身思わなくも無いが、一瑞葵が無事生きているという一番の報酬を既に受け取っている彼にしてみれば、彼女の看護は追加のご褒美でしかなかった。



「……はぁ。まあ、君がそれで良いと言うのなら、私から何かを言うつもりはないけどね」



 態々見舞いに来てくれていた師匠、夜月はそんな風にため息をついた後、和仁の為に見舞いの品である果物を切ってくれた。ありがたく頂いたリンゴだが、食べている最中に瑞葵が戻ってきて、何故か不機嫌になったので、半分くらい彼女のご機嫌取りに捧げることに成ったのは少し納得がいっていない。


 リンゴを全て食べきっておきながら、機嫌を直してくれないのは卑怯じゃないだろうか。と、瑞葵の父雄介に漏らすと、これ見よがしにため息をつかれた。


 謎である。


 とまあ、そんな嬉恥ずかしの看病生活も終わりが来た。彼女の看病自体は二学期が始まる三日ほど前に終了してはいたが、完全に治りきるまでは少し時間がかかっており、その間、武術屋としてのお仕事であるところの鍛錬が滞っていたのが和仁には不満だった。



「ともあれ、これで再始動できるな」



 そう呟いて、自分の家を出る。


 ほぼ寝るところとしてしか活用していないボロアパートから、彼の師匠との待ち合わせの場所まで車でなら一時間ちょっと。走ると大体二時間弱。いつも通りフルマラソンにほど近い距離をまずは流す程度に走破するのが彼の鍛錬の第一歩だった。


 ちなみに、瑞葵の家までは師との待ち合わせ場所からさらに1時間山奥に向かって走らなければならない秘境である。今さらながら、よくそんなところで生活できるものだ。お金持ちの考えることはわからない。


 余計なことを頭から振りほどいて走り出す。


 ペース的には少し緩めに。


 周囲から見れば短距離走並みの速さで。


 その後ろ姿は、遊び場に向かって張り出す子供のように、わくわくに満ちている。その様子を見るたびに、夜月はため息をつくのだが、その理由を彼女は決して話さなかった。


 道を走る。


 学校が終わって家に帰るまでおおよそ5分。


 学校から、師の家まで二時間。修行を二時間やって、その後は瑞葵の家に向かうか、それともそのまま家に帰るのが彼の生活習慣だった。


 その習慣通りに道を走っているとポケットのスマホが鳴った。走りながら取り出して、名前を見てみればそこには愛すべき幼馴染が登録してくれた呼び方があった。照れるなら、わざわざ、恋しい人なんて名前で登録しなくてもと思わなくも無いが、それが喜んでくれている証左とするなら、事実瑞葵に恋している身としてそれを指摘するのも野暮だろうと、そのままにしてあった。


 赤霧瑞葵。金髪蒼眼を持つお嬢様にして吸血鬼。吸血鬼にして何かしらよくわからない、性質の悪いものを自身の身の中に飼っているお姫様、のはずなのだが、存外にかわいいところもある。いや、存外という言葉は誤魔化しで、事実彼女はとてもかわいい女の子であるのだが。


 ちなみに和仁にこのスマホを渡した相手でもある。和仁自身はスマホをほとんど使わないが、瑞葵が手渡してきた際の雰囲気は、和仁に断らせるような雰囲気ではなかった。入院中に彼女の機嫌を損ねた直後という事もあり、彼は渋々ながら受け取っていた。ちなみに電話帳に登録されているのは赤霧の親娘以外にいない。もっとも、それで不便を感じたことは一度も無かったが。とは言え、不便を感じないことと便利であることはイコールでは結ばれない。渡されれば使いこなそうとはするし、便利だとも思っている。恥ずかしいことを言わせてもらえるのであれば、好きな子の声をいつでも聴けるというのは、なかなかに刺激的で、そして同時に彼にスマホを取るのをためらわせるところでもあった。



「もしもし」


「はいもしもし。相変わらず取るの遅いわね」


「悪かったよ。お前と電話越しに話すとなると、妙にドキドキするんでな」


「……そう。私もドキドキしてるからお相子ね」



 瑞葵の言葉を境に沈黙が二人の間に流れた。頬が熱くなる、だけど決して嫌ではないそんな沈黙だが、彼女は和仁が黙ったことが不満だったのか。咳ばらいをして再び会話に戻ってきた。



「続けていいかしら?」


「いつでもどうぞ」


「それじゃあお言葉に甘えて一つ。……あなた、今日は私の家に来ないのかしら?」



 その言葉に和仁は首を傾げた。


 特に何かの約束をしていた覚えはない。なので普通に師匠の下で修業して、その後で瑞葵の方へ向かうつもりだと答えると、電話の先で彼女はため息をつくのが聞こえた。



「なんだ? 用があるなら……というか、言いたいことがあるなら言ってくれ、聞くだけならいくらでも聞くぞ?」


「……べっつにー。恋人を放っておいて、別の女との約束を優先するあなたに、ちょっとだけ思う事があるだけ」


「別の女って、師匠だぞ?」


「ええ、そうね。黒髪の大和撫子。私だって認める正統派美人のお師匠様」



「……そう言われるとなんだか悪い気がしてきたが、だからと言って師匠との約束を守らないという訳にはいかないだろうに」


「はいはい。分かってるわよ。ただあなたを困らせたかっただけ。本題は別……」


「本題? なんだよ?」


「お父様が会いたがっているわ」


「雄介おじさんが?」


「ええ。何でもあなたの愛しい師匠の事について、だそうよ」



 瑞葵の言葉にようやく彼女がとげとげしい態度をとっていたことに対して納得がいく。師匠との関係については今まで一度も文句を言わなかった彼女が、いきなり文句を言いだしたのはこのためだろう。本気で言っている文句ではないが、恋人より優先される異性。引っかかりになってはいたんだろう。


 確かに恋人としてあまり面白くはない。また同時に自分の父が和仁と同じ師を抱いていたという事もその文句に拍車がかかる要因だ。雄介は瑞葵の事を溺愛しているが、瑞葵のファザーコンプレックスもなかなかのものである。愛しい人二人に共通する、美貌の女の事なんぞ、瑞葵が気に入る要素がない。



「了解。後で向かいますと伝えてくれ」


「わかったわ。それじゃあ、待ってるから」



 なのに瑞葵はそれをおくびにも出さなかった。嫉妬しているという事をこちらに見せたくない。彼女のそんな内心が和仁には手に取る様にわかるだけに、ほほえましいとすら思える。だからこそ、和仁は不意打ち気味に電話口で囁いた。



「ああ。お前に会いに行くから待っててくれ、瑞葵」


「……ばーか」



 いつもとは違う弱々しいくらいの彼女の悪態に、和仁はニヤニヤを止められず代わりに一つ、走りのギアを上げた。風を切る感覚が強くなる。大地を蹴るリズムが少し早くなった。


 いつもの場所に息を切らすことなく到着する。所要時間1時間52分。病み上がりにしては悪くないスピード。一分一秒でも彼女と会っていたいと思っているからこそのスピードか、それともリハビリの成果が少しづつ出ているのか。


 そんな少々色ぼけたことを考えながら師匠との約束の場所へ向かう。そして、そんな色ぼけたことを考えていたからか、不覚なことに背後からの奇襲に気付くのが遅れた。かわせず、皮一枚で受け流す。音も無く、純粋な殺意のみで振るわれた拳は、和仁の頬に薄く赤いラインを引いた。血は出ていないが穏やかな状況ではない。


 即座に襲ってきた相手を確認する。その構えは良く知っている。その動きもよく知っている。しかし、体格と技量だけが予想の相手とかみ合わない。黒髪の大和撫子っぽい風貌は確かに、夜月に似通っているが、似通っているだけで全くの別人である。技量も自らの師には遠く及んでいない。



「……あー、えっと。……だれ?」


「ふん。こんな奴にお姉さまが修行をねぇ」


「あー……師匠の妹さん?」


「おまけに鈍い。お姉さまの修行を受ける価値無し。ここで死ぬべきよね」



 随分と物騒なことを言っている大和撫子もどき。ここに来て殺意を隠すことなくたたきつけ、雑に和仁の間合いに踏み込んでそのまま技を放った。



「双天比拳」


「いや、アホか?」


 だからと言って真正面から崩し技も無く技を放たれて受ける阿呆は居ない。


 技を放つでもなく、相手の間合いをさらに詰める事で外す。そして目を見開いて驚いた顔をしている彼女の顔面に拳を打ち込んだ。



「ぎゃん!!」



 色気もへったくれも無い悲鳴を上げて、彼女は和仁の一撃で気絶した。なんだこいつ。という視線を和仁は不躾に送る。


 何処か夜月に似た美少女ではあるが、その立ち居振る舞いに落ち着きが足りていない。となれば、



「この人もしかして、俺の妹弟子とかのそういうのか?」



 そうだとするならちょっとショックだった。雄介の時とは違う、気の抜ける様なショックを受けて、和仁は大きなため息をついた。そのため息に呼応したように木の葉が揺れた。視線をそっちに向けてみれば、そこには時代錯誤な服装の男が立っている。修験装束なんてものに身を包み、顔には何の冗談か天狗の面。余りにも怪しいそのスタイルに、和仁は言葉が出てこなかった。



「いやぁ、悪いね夜月の弟子君。とは言ってもほら、君は無傷で朝陽はでかいたんこぶ作ってる。それで手打ちとしてくれるとありがたいんだが、どうかな?」



 その風貌に反したフランクな口調でそう言った。低い安心感を与える声は男の物。ゆるゆると近づいてくるその立ち居振る舞いに隙は無く、腰の低い態度で気絶した少女を回収する。



「別に構わないですけど……貴方は?」


「俺? 俺の名前は天丸。見ての通り天狗さ」


「天狗?」


「そう。夜月と同じ天狗。つっても俺は、夜月のようにいい所の天狗様じゃなくて、どこにでもいるただの天狗だ。天丸君と呼んでくれても構わないぞ」



 フランクな天狗もいるもんだと和仁は思った。天狗というからにはもっと傲慢で、鼻に着くような性格でもしているのかと身構えたが、目の前の天狗からはそういったものを感じ取れなかった。



「それじゃあ天丸君さ」


「お、おお。何かな?」


「師匠どこ行ったか知ってる?」


「ふむ」



 和仁の言葉に天丸はしばし黙り込んだ。そして、頭を幾度か掻いた。何かしら悩んでいるらしい。しかし、そんな態度もすぐに撤回して、傍の細い木に体を預けた。



「まあ、いいか。夜月はうちの山で預かってる。何でも、掟に触れることをしたらしいが、詳しいことは俺も知らされていない。聞いているのは三日後夜月に処分が下るってことくらいだ」


「処分……」



 天丸の言葉に和仁は目を細めた。鋭い眼光が天丸を射抜くがその視線を受けて、天丸の様子に変化はない。飄々とした態度で受け流されていた。



「つっても、させる気はない。その処分を辞めさせるために俺たちはここまで来たって訳だ。でもまあ、まさか朝陽が突っ走ってお弟子さんにボコられるとは思ってなかったけどな。やるねぇおたく。俺が見た中でも飛び切りだぜ」


「そりゃどうも」


「その飛び切りさんに一つ頼みがある」



 にやりと悪そうな笑みを仮面越しに見せつけて、天丸は和仁に顔を近づけながら言った。



「夜月奪還作戦。付き合ってくれるか?」


「ああ、もちろん」


 和仁はその提案をあっさりと受け入れた。


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