終
「なっ!?」
驚愕の声は瑞葵のものであり、即ちその声を出させたのは和仁である。
首を握っていた腕が砕けた。
言葉にすればその程度の事柄だが、それを成したのが人間である以上それは最早、奇跡と呼ぶにふさわしい偉業であり快挙である。
その勢いのまま和仁は瑞葵の首をなぎ払う。瑞葵の頸筋より噴き出た血潮が周囲を紅く染め上げた。
「はっ!! お目覚めが遅いぜ宿敵」
だというのに、瑞葵は笑いながら和仁の拳を迎撃する。
一撃受けるたびに肉が潰れている。
一撃受けるたびに骨が砕けている。
一撃受けるたびに内蔵は破裂している。
なのに、その程度で痛痒も感じないといわんばかりに、その爪を振るう。
和仁は距離をとった。
それはの爪の一撃をさばききれなかったためであり、そうしなければ死んでいたための最善手。だが、その最善手を行ってなお、今の瑞葵には届かず、悪手になり果てた。
法が起動した。
法則が書き換わる。
世界が、瑞葵の意思に敗北して屈服する。
そして、起動するのは悪魔の法則。人ならざる、神ならざるまさしく悪魔の法。故にそれを魔法と呼ぶ。
それを、和仁はみたことがあった。目の前の少女が二人の秘密だと言って見せてくれて以来、久しぶりにその式をその眼で見た。
だが、今回はその規模が違う。
和仁が飛びのいた事を知覚した瞬間に瑞葵は魔法を行使した。その数は十や二十ではきかない数だ。展開数百を越え千に届く。
一撃一撃が奇跡そのものの威力を内包する、制圧射撃。
それを知覚した瞬間に発生させるという理不尽。
力という理不尽そのものが、和仁に牙をむいた。
着弾。
轟音。
そしてこの世の法則を塗り替えて、神代の事象が吹雪くかのように拡散しながら収束した。
人間に対して向けるには確実にオーヴァーキルの威力をもって屋敷の半分近くを消し飛ばした魔法。神話の時代に語られる時代外れの大魔法。
ならば、その一撃を耐え、それどころか即座に反撃の一手を放っていた和仁は、最早人間というカテゴリーにはおさまらない。
爪と拳が鍔迫り合い、そして再び弾きあう。
その光景は人知を越えている。まさしくもって神代の再来。神代の決戦。
「クハハハハハハ」
瑞葵が笑う。
邪悪な哄笑。
凄惨なる笑みを浮かべて、和仁に突撃する。
それを和仁は真っ向正面から叩き落とした。
「やるなぁ、大英雄。わが宿敵。わが天敵!!
だが、未だ貴様が降り来る程にこの世に死が蔓延っていないはずなのだがな」
いいながら、和仁を瑞葵は殴り飛ばした。
弾き飛ばされ壁を倒壊させながら倒れ込んだ。だが、その瓦礫に生まれる前に即座に瑞葵と相対している。
「そうか、無理やりに呼ばれたか? その肉体を核にして、無理やりに」
嘲るような瑞葵の言葉に和仁は声を出すことなく、ただ拳を振るうことで返答とする。
爪と、拳がぶつかり合って、轟音を生んだ
「だんまりか。いいぜ。正義だの何だの鬱陶しくいわれるよりマシだ」
魔法が世界を揺るがす。光が世界を砕き満たす。
周囲の事に頓着なく、お互い同士でのみが世界の全て。
「そして、黙ったまま死んで行け」
その言葉と同時に殺意がさらに膨れ上がる。
魔力がさらに膨れ上がる。
千の魔法の同時発動。
千の破壊が、再び和仁に牙をむく。
それを一撃すら受けることなく、瑞葵の懐へと密着する。
双天絶衝・奥伝
破神夜砕。
万象の神屠る一撃。
零距離からの最大破壊力を叩きこむその一撃は、ビルぐらいなら簡単に風穴を開ける一撃だ。絞り込まれた剄による内部破壊と、表面全てを破壊する外気功。二つの絶技の融合は、今の瑞葵の肉体すら粉々にする。
直撃。
そして同時に彼女の身体は破砕して、即座に再生した。
噴き出た血潮は蛇となって、和仁に襲いかかる。
方天絶衝・奥伝。
滅魔草薙。
自身を中心に周囲全てをなぎ払う草薙伝承の具現。
それはまさしく草狩るように、周囲の蛇どもを薙ぎ払い、その延長上の瑞葵の首を撥ね飛ばす。
だが戦闘は終わらない。
首を飛ばす程度で、彼女は死なない。
即座に再生して、再び乱戦の体を示していく。
終末の戦い。
英雄と悪龍の一騎打ちは、ますます、その混迷の度合いを深めていくだけだった。
その光景はまるで映像の様だ。
自分の掌で、自分の拳で、自分の蹴りで、自分の愛した少女と同じ顔を持つ存在を殺しにかかる。
その感触は気が触れそうになるほど醜悪で、泣きそうになるほど救いが無い。
声が聞こえる。
相手の声なんかではなく、自らの身の内より聞こえてくる声。
■ジ■■■■。
奴を殺す。
奴を打ち倒す。
それだけの目的のために、自分の肉体は自分の限界を優に超えて、動き続ける。
体はピクリとも動かない。
なのに体は、全力で自分の愛した少女を殺しにかかる。
止めようとした手は、完璧なまでの技巧を持って、彼女の首を跳ねとばす。
止めてくれと、懇願するように心内で叫び続ける。
だけど、一向に止まる気配はなく、それが運命だといわんばかりに自分の手は彼女を殺す。
運命が全てを縛る。
宿命が全てを導くように。
物語は、完結へ向けて足を速める。
そう、定められた結末へと……
だから、仕方が無いのだと、心が言った。
もう見ていられないと、思考が全てを拒否する。
だからもう、諦めろと、全てを忘れてここで眠れと、解らない何かがささやきかける。
人では、どうあっても運命を覆せないのだと。神話の時代に神様によって定められた事柄は、英雄であって覆せない。なのに、ただの人でである和仁に覆せるはずがないのだと。
だから、和仁はゆっくりと瞳を……
閉じようとした時に彼女の顔が眼に入った。
赤霧瑞葵。
好きだと自覚できた人の顔。その人の瞳に、うっすらと涙がにじむ。
その涙は誰の物だろう。
その涙はどうして流れるのだろう。
だけど、それを肯定することは嫌だ。それを見逃すことはできない。
不意に、師の言葉が脳裏によみがえる。
我儘であるなら、最後の最後まで我儘であり続けなさい。
なんて我儘である事を肯定する、そんな教育に悪い言葉。
だけど、それで良い。
運命も、宿命も、物語の結末も。
全てをすべて台無しにしても良い。
そんな内容は気にくわない。
自分の道は自分で決める。
だから、そう、だから。1
お前は邪魔だ。英雄。
和仁が受け止めるという予測のもとで放たれた一撃は、彼自身の唐突な変容により予想外にも直撃した。
「何!?」
だからこそ、むしろ当てた瑞葵の方が狼狽する。
全ての戦略が崩壊し、一瞬の空白が脳裏に写る。
即死したと瑞葵が確信した瞬間に、和仁は彼に出来る最高速で距離を詰めた。
だが、それすらも瑞葵が想定する大英雄に実力には程遠い。
魔王と打ちあえる人型の異形、英雄のスペックとしては低すぎるその速度に、タイミングが僅かに狂った。
「■■・■■ス■!! てめぇ手を抜く気か!!」
「そもそも、俺はそんな名前じゃない!!」
問い詰めるような口調のそれは、返答を期待しない罵詈雑言のそれだ。しかし、その罵詈雑言に確固とした返答があり、そのことすら瑞葵を、追い詰める。
「なんだと!? き、貴様、どういうことだ!!」
だが、それを理解すると同時に瑞葵は嚇怒する。
生涯の宿敵。それこそ億に匹敵する年月の果てに出会う英雄、宿敵を唐突に失った憤りは、僅か十七の和仁には理解できない。
だが、その瞬間こそが好機である事だけは理解できる。
「邪魔をするか、クソガキィ!!」
「お前らが、お呼びじゃないんだよ!! 」
灼熱する殺意が瑞葵を悪手へと誘った。
人としての身体能力しか持ちえない和仁を相手に、そもそも爪を用いる必要などない。
適当に魔法を百なり二百なり放ち続ければ、それで勝利は揺るがない。だが、先行する殺意は、彼女の冷静さを全て失わせて余りある。振るわれた爪はもはや止められない。
距離がさらに近付く。
その瞬間に、和仁は最後の奥伝を開放する。
「我欲に濡れ溺れることを拒まず」
爪の一撃に体をかすらせ、加速として利用。半回転したの勢いで瑞葵に密着ひじの一撃をもって動きを固定。
「我が望みを恥じること無し」
再度心の臓を撃ち抜かれた瑞葵は、その衝撃によって全身が再び麻痺した。その麻痺を無茶苦茶な魔力を使って無理くり動かして、右腕を床に向けって叩きつける。
「仏道放棄、わが心に一片の不備などなし」
息がかかり合うような近接格闘。叩きつけられた右腕を駆け上がるなんて曲芸じみた挙動を持って、和仁は遂に瑞葵の上を取る。その体勢のままの瑞葵と和仁の視線が絡み合った。
「極点絶衝・奥伝」
触れるように、抱きとめるように、和仁は両手を瑞葵の頭に置いた。
「神威事無」
そして全力を持って頭蓋に剄を叩きこんだ。
「ギィァアアアアアアアア!!??」
絶叫が瑞葵の喉からほとばしる。
床がビリビリと震えるほどの絶叫は、音を壁として感じるほどに、全身を打ちつけた。
最早、立ち上がる気力すらないようにへたり込む和仁と、頭を押さえながら、声を上げ続ける二人の対比は滑稽にすら見える。
「き、ああ、ぐぅぁあ……き、貴様……何を……」
「お前の中にある魂を打ち砕いた。わが師直伝、不死殺しの必滅奥義」
「馬鹿な!! そんなことがありえるかっ!! そんな技、人に扱えるわけがあるまい!! いや、そもそも何故俺が滅びる。俺は、世界の三分の一の生命を滅ぼすまでは死なぬはずなのに!!」
最早立ち上がることすらできなくなったのか、怨嗟の声を上げながら大地に這いつくばる。
「そりゃそうだろうさ。俺の流派、人のものじゃないし。あと、世界の三分の一の生き物云々に関しては、よくわかんねえけど、今この場所においてはあんたは確かに、世界の三分の一の生き物を殺したぜ?」
「な、なに?」
「だってほら、今ここって世界から隔絶されていると聞いてる。 なら、この世界にいる生き物は、俺と、お前と、そして瑞葵に限定される。んで、お前は瑞葵の身体を変質させてこの世に生れて来たみたいだからな。だったら計算通り。俺、お前、瑞葵の内、瑞葵の身体を殺してるじゃないか」
「ば、馬鹿な。そんな馬鹿な。……ならば、英雄はどうなる。俺を殺すのは奴でなければならないはずだろうに!!」
「知らん。でもまあ、俺の身体に無理やり入ってきた何かは確かにいたよ。拒否したら帰ったのか声はもう聞こえないけど」
「英雄を……英雄の意思をお前が……?」
「まあ、本当の事はどうなのか知らないけどな。そもそも魔法とか魂とかそんなに詳しくない。でも、英雄と言われるような奴なら、全力で生きてる俺に力添えしてくれてもおかしくはねーだろ」
「……」
瑞葵は、瑞葵に乗り移った何かは絶句した。
英雄の魂。その輝きに唯人であるならかき消される。しかし和仁はそれに抗って見せた。その時点で、瑞葵に乗り移ったモノは彼の器を図り損ねた自分自身に気が付いた。認めるしかない。和仁はまごうことなく英雄だと。
「くは……よもや……俺が器を図り間違えるとはな」
「……はは、なかなか俺もやるもんだろ?」
「ふん……天晴見事。この言葉以外貴様に送るべき言葉はない。ただ……最後に貴様に呪いをくれてやる」
そういって、瑞葵に乗り移ったモノは笑って見せた。事実、それは呪いだろう。この世に生まれ落ちる前に否定されたモノの言葉。本来なら聞く必要は無く、聞いてはならない類の言葉だ。しかし、その言葉を切って捨てることは和仁にはできなかった。
「精々苦労しろよ大英雄。お前自身のせいで、何よりこの身のせいで。お前は神話を打ち破った。運命を打ち砕いた。ここから先、お前に予定調和はない。精々……道なき道に迷うがいいさ」
その言葉を最後に、どさりと瑞葵は崩れ落ちた。和仁が砕いたのは魂だ。少なくとも、そういう技だと彼は彼女を奪おうとしたモノを元から絶った。なのに、彼はまたさっきの奴と出会う気がしていた。宿命、運命、等と呼ばれる何かを強く感じている自分がいる。しかし、今はそれに気を使っている暇はない。今見るべきは他にある。勝ち取ったものを確かめる時だ。
ゆっくりと、全身から漏れる悲鳴に耳を傾けず、這うように彼女のそばへと近づいて安どのため息を漏らした。
呼吸は、ある。
和仁の予想通り。瑞葵の魂自体はあれの魂に押されて、肉体の奥底に封じ込められていたような状態だったらしい。彼女を覆っていた絶望的な気配が去り、いつもの禍々しい気配に戻っている。
「っぅぅううぁあああ、つかれた」
その事を確認すると形容しがたいうめき声が出た。自身から出たことさえ驚きに値するような声漏らしながら瑞葵の横で崩れ落ちる。すると、どうやら気がついたらしい瑞葵が上半身を起こした。
「……和仁?」
「ああ。おはよう、瑞葵。悪いが、いきなり約束破った」
しばらく来ないでと言う瑞葵の言葉。それを破ったことを詫びる。緊急避難だったし許してくれと、天井を痛む体を無理やり仰向けにしてそう言うと、彼女は小さく笑って見せた。
「……ふふ、ホント仕方が無いわね和仁は。でもまあ、許してあげる。ちょっと遅かったけど、助けに来てくれたもんね」
「ありがとよ。……あ、そうだ、忘れる前に言っとこう」
「なに? 今なら割と無茶なことでも聞いてあげるわよ私」
随分とご機嫌な瑞葵。確かにいつもの禍々しい気配は少しばかり薄くなっている。それだけで、助けた甲斐があった。それだけで、無茶をした甲斐があった。だから、ここから先は蛇足なのだろうと思わないでもなかった。しかし、この言葉を胸の内に留めておけというのは、彼にとっては酷な話だ。
そんな風に自分に言い訳して、彼女の言葉に乗っかって最悪のタイミングで和仁は覚悟を決めた。かっこよくなんて無理だ。言うべきことはストレートに。そして、勇気を見失わない今のうちに。
「お前が好きだ。できれば結婚を前提に付き合って欲しい」
「……は?」
「んじゃ、ちょっと寝る。夜這いってことで入ってきたけど、体力的にちょっと無理。ああ、返事はいつでもいいから」
「え、ちょ、ちょっと待って。待ちなさいよ和仁。ねーるなー。え、これ何? 本気? って、だから寝るなって!!」
眠りについた和仁を起こそうと瑞葵は慌てるが、残念ながら深い深い眠りについた彼は起きそうにない。幸せそうに眠る彼の寝顔の横で、百面相を展開する瑞葵という光景は、彼女の父雄介が、様子を見に来るまで続いたのだった。
「おい、速く来いよ瑞葵」
「あー、はいはい。解ったからちょっと待ってよ和仁。ったく、学校ってのも案外面倒なものなのね。外から見てるぶんじゃ楽しそうに見えたんだけど」
「はは、見てる方が楽しそうに見えるのは大体の事でそうじゃないか。何を今更」
「そのことを否定はしないけど、吸血鬼に朝早く起きろと言うのは酷ではなくて? これでも通学ってのには幻想みたいなの、あったのよ? きゃっきゃうふふいいながらみたいなの」
「安心しろって。お前もお嬢様の幻想をぶち壊してるから、五分五分、五分五分」
「その言い方は腹立たしいわね」
例の事件から時は過ぎ、既に二学期も始まってからしばらくたつ。
秋晴れの日に二人はそろって近くの公立高校へと登校していた。
未だ学校の習慣になれない瑞葵を和仁が迎えに行くという形で、どうにかこうにか瑞葵も遅刻なしの生活を送れていた。朝の光を浴びて消えそう、死にそう、帰りたいとぶつくさ言い続ける彼女を、なだめて送り届けるあたり和仁もマメな性格をしている。
「にしても遠いわね。なんでうち、最寄りの学校から歩いて三時間なのよ。しかも自転車使うと遠くなるって何?」
「そりゃ、あれだろ、お前がそもそも学校に通える未来がありえなかったから」
「……和仁。事実だけどすごい凹むから言わないの。あーあ、お父様、送り迎えの使用人くらいよこしてくれないかなー?」
「使用人を全員首にしたお前がいうかね」
「……それはほら、あの時は未来が見えなくて荒れてたからね」
そんなことを二人で話し合いながら、田舎道ならぬ獣道を歩く。
舗装されていない正真正銘の獣道であるが、この道を通った方が1時間は早いという和仁の言葉に従って、瑞葵はその道を二人で進んでいる。吸血鬼。人ならぬ彼女をしてかなりの負担がかかるこの道を、毎日とは言わずとも長きにわたって通ってくれていた幼馴染の横顔を見て、不意に頬が熱くなる。
「どうかしたのか? 瑞葵」
「……あなたの告白を思い返していただけよ。……それにしても本当にいいの?」
「ん? ああ、いいよ。返事は保留でさ。君はこれから世界の広さを知る。その未来が開けた。だから、僕は君が世界を知ってから答えをくれればそれでいいさ」
和仁はそう言って、瑞葵に微笑みかけた。
その様子に、瑞葵は小さく笑って頷く。答えは決まっているのに、和仁の気遣いがうれしくて、頬をさらに赤く染める。だけど、素直な言葉を出せる程彼女は大人ではなかった。そして率直に伝えられるほど、幼くもなかった。
「そうね。あんたよりも良い男なんて、星の数ほどいるだろうし、そういうのを見て回ってからでいいわね」
強がりだ。
きっと、この人以上の男に出会えるなんてありえない。
自分の為に運命を破壊できる人なんてきっといない。そんな確信を抱きながらも、そんな答え返せない自分に嫌悪を抱きながら恐る恐る和仁を見ると、彼は随分と情けない表情をした。
「……あー、できるだけ早めにお願いしたいんだが、いいかな?」
「そう? じゃあ、仕方ないわね」
言葉尻をとらえて、彼女は右手で和仁の視界を覆った。
足元が悪いのに、視界を隠す悪戯は辞めてくれなんて、小さくため息をつこうとしてそのため息を彼女に奪われる。
唇に暖かい感覚を感じた。
「ん!?」
僅かに触れ合うこと数秒。
感触は柔らかく、手の遮蔽が無くなった時には、既に何が起こっていたかは分からない。隣を歩く彼女の様子はいつも通りで、悪戯っぽく笑うだけ。ただ、唇に手を当てた時に指に移ったリップクリームの色が、そこに合った事実を指し示すばかりだった。
「……勘弁してくれよ瑞葵。心臓に悪い」
「だーめ」
木漏れ日はあたたく。
紅葉は色鮮やかに。
二人の道を明るく、赤く染めていた。
完結です。
ここまで見ていただきありがとうございました。
一応、第二部も書いてますので、見ていただいた皆さんは、続きも見ていただけると嬉しいです。
多分、書いている最中ですので、三日に一度くらいの更新スピードになると思いますが、よろしくお願いします。