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D壊の英雄  作者: 闇薙
第四章 因果希求のディヴォーテプレデター
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 一つの物語に決着はついた。


 今回の物語の主役は和仁ではなく勝であった故に、傍目からそれを眺めていただけの和仁にその真意を掴めはしないが、きっと彼らの間で上手くいったのだろうと彼は思っている。勝が自ら描いた計画だ。それを失敗するほど彼の器量が足りていないとは和仁は思っていなかった。だからこそ、黒い騎士鎧を身に纏う勝がこちらを見た時、正確に言えば瑞葵を見た時に彼の計画をおおよそながら把握することができたのだ。



「おい、これ以上は蛇足だろう?」


「ああ。その通りだ。彼女たちとの契約はこれにて成った。しかし、もう一方の契約はこれからが本番なのさ」


「もう一方?」


「サタンとのだ。こいつは俺に力を貸す。そして俺はこいつに力を貸す。そういう契約だ」


「へぇ、好きな女の子の為に悪魔と契約したんだ貴方」



 にやにやと勝を煽る瑞葵。しかし和仁はそんな彼女の言葉に心動かされることもない。ただ淡々と事実だけを語る。茶化されてもまるで顔色を変えない勝に僅かに瑞葵の瞳が細まった。



「誤解だ。そもそも、こいつとの契約の方が先だ。かつて敗北して契約を上書きされたが、その契約が履行された以上、前の契約が表に出てくるのは必然でな」


「成程ね……それで、その契約の内容は?」


「人間界と魔界の融合をこの手で成し遂げる事」



 そういって勝は和仁に向けて剣を構えた。それを見て特に驚くことも無く彼も拳を構える。



「驚かないんだな」


「そういう理由でもなければ、俺をこういう風には配置しないだろう? もし万が一俺が負けても、戦った後のお前なら、片手間の瑞葵でもどうにかできるって算段なわけだ」


「最も、俺程度の実力ではお前はおろか、赤霧さん相手に勝つことも難しいが……世界滅亡、それに本気で加担する気はもうないからな」


「ふぅん。……それだけではない癖に」


「赤霧さん?」



 唐突に拗ねたような声音を出した彼女に二人は困惑した。瑞葵がそんな声を出す理由が彼らには本気で解らなかった。自分の心さえ正確にわかっていない二人をしり目に、瑞葵は手を振って三人の魔法少女たちの方へと向かう。


 その場に倒れ伏した会長を抱え起こし、唯一気絶していなかった蜜柑に由利を回収させると、共に二人の下へと戻ってきて、そのまま見学の態勢になった。



「どういう意味だよ、瑞葵」


「男同士の語り合いに女が出てくるなってさ。ホント、バカみたい。結局私たちの事なんて考えてくれないんだから。君の顔を立てて戦わなかった私の事も、貴方の為に再び魔道に墜ちた三人の事も考えない。自分勝手で、私たちに理解させる気も無い自己満足。だから……」


「赤霧さん」



 言い募りかけた彼女を蜜柑が制止した。彼女をちらりと見てみれば、彼女の雰囲気からかけ離れた真剣なまなざしで瑞葵を見ていた。そんな彼女を見て瑞葵はこれ以上言葉重ねることを放棄する。そしてその言葉に和仁も納得した。成程、確かにそう言われてみればそう取れないことも無い。



「そうね。これ以上は野暮ね蜜柑さん。だから、これ以上は口を噤むみましょう。こいつらは二人で男子会をするみたいだし、私たちも女子会にしましょうか」



 蜜柑の制止に優しくそう返して彼女のの頬にやさしく触れる。


 魅了の魔眼をぎらぎらと光らせる瑞葵を見て和仁はため息をついて、軽く後頭部を突くと蠱惑的な流し目をそのまま彼に向けた。魅了の魔眼の輝きは未だ消えていないが、元より魅了され尽している彼には通じず、そのまま彼女のでこを指二本で押さえて警告とする。その警告を受けてようやく瑞葵は魔眼の輝きを抑えた。



「はいはい。普通の女子会してるわよ」


「最初からそうしろ」


「でも、普通の女子会でもいろいろと手練手管は使うわよ? 魔女四人のお茶会。何も企まないなんて失礼が過ぎるもの」



 そういって蠱惑的な笑みをさらに深める瑞葵。しかしそんな彼女に頓着することなく、和仁は自身の後ろポケットから財布を取り出して、小銭を瑞葵に向かって渡した。それを眺めても彼女には理解が追い付かなかった。



「ナニコレ」


「お茶会するなら俺にもお茶買っといてくれ。のど乾いたから後で飲みたい」



 意識が灼熱に染まる。


 本気で言っているのかこの男。


 なんて意思を視線をもって叩きつけるが彼はどこ吹く風だった。


 デリカシーとか気づかいとかそういうもの以前に流石にこれはない。抱いた苛立ちに歯が軋む。響く音が和仁に届くことで気付くなら無様でも下品でもそれでいいと言わんばかりにかき鳴らすが、彼はまるで気付いていなかった。視線も意識も全てを勝の方へと向けている。それが、あまりにも悔しい。



「さあ、やるか」


「ああ。では、一手馳走仕る」


「なんだよ、それ」


「嫌いか? このやり取りは」


「相手が西洋騎士じゃな」


 小洒落たやり取りをかわす二人の姿に瑞葵の激怒の情が萎えていく。


 無邪気な子供めいたやり取りに毒気を抜かれてしまったのだ。


 互いに自らの距離へと踏み込んで。


 ぶつかり合うのは拳と大剣。刃を受けず重みを逸らすことでその一撃を容易く受け止めた和仁に勝は兜の中で笑みを浮かべた。周囲に波及する破壊の衝撃。それが互いの心に響き渡る。そして二人は戦いに没頭した。



「ずるいよね、男の子は」


 二人がぶつかり合う光景に嫉妬心を抱いてしまう自分への言い訳のように瑞葵はそう呟いた。今までは相手が女の子だったから諦めもついた。その嫉妬心に納得も出来たが……今回ばかりは自分自身の情けなさに涙が出そうになる。



「……なーんであの二人、楽しそうに戦っちゃうかなー」


「分らないの蜜柑さん」


「認めたくないだけ」


「でしょうねぇ」



 蜜柑とそんな風に会話をしながら瑞葵は二人の戦いを見守る様に眺めていた。


 放つ斬撃は必殺。重さを感じさせない程軽々と長大な大剣を振り回す勝に対して、和仁はその斬撃を皮一枚削がれることなく回避していく。振り抜かれた一撃は大地を砕きその衝撃で僅かに姿勢を崩した和仁に対して、回し撃りを放つ。



「所謂夕暮れの河原ので殴り合いがしたかったのよねあの二人。確かに貴方達との因縁の清算も大事だったんでしょうけど、その後のこの殴り合い。これがしたくてこんなにも回りくどい事をした。それが真相」


「私たちが借りていた力。それが戻ってくることを考えた時、一番最初にやってみたい事で思いついたのが、これってこと? 何、サルっちてホモだったの? 幻滅だなー」



そんなことを言いながらも蜜柑は和仁と勝の戦いから目を離さない。そもそもからしてその声に本気の色はない。見つめる先に捉えるのは常に勝で、その視線には間違いなく熱を宿している。そんな彼女の様子を横目で見ながら瑞葵も二人の勝負に視線を移した。


 互角の戦いだ。


 未だに和仁が技を行使するのを控えているとはいえ、それでも五分の戦いに持ち込んでいるあたり、勝の鍛え方も並ではない。魔法少女三人を瞬時に撃破した実力を知ってはいたが、確かに極まっている。魔法の使い方もその武器の使い方も天賦におごらず鍛え上げ積み上げた果ての武錬となって彼の身に付いている。そして何より目を引くのが力の使い方だ。



「魔法みたいな体の使い方をするのね彼」


「それを強いていた身としては、見ていられないけど」


「おはよう、生徒会長。目が覚めたのね」


「ええ、先ほど。……こうもうるさくされては静かに寝てはいられません」



 そういって真央も瑞葵の横に腰を下ろした。地面に触れて汚れることを厭わない女の子座りをした彼女に、瑞葵は驚いたような視線を向ける。優等生然とした彼女がそんな風にするとは思っていなかったのだ。



「彼に汚されてしまった後ですから同じです」



 含み笑いを隠さずに真央はそう言った。確かに一度大地に横たわった彼女の前身は砂まみれだ。それでも、そんな座り方ははしたないと言って断るかと思っていたのだが、会長は案外不真面目な少女だったらしい。最も真面目な少女は魔女になどならないか。なんて思いながら再度校庭へと視線を向ける。その視界の端ではようやく起きたらしい副会長が蜜柑に連れられて、こちらへ歩いてくるのが見えた。



「……ねえ、会長」


「もうすぐクライマックスみたいよ、由利」


「わかった。後で聞かせて。何よあいつ、あんなに楽しそうにしちゃって」


「嫉妬?」


「……」


「気持ちわかるけど、我慢しなさい。ようやく戻った彼の本気。全力で壁に挑みたいというその感覚は解らない物じゃないから」



 だけど、納得は出来ない。


 口には出さないが全身でそう主張する彼女に対して真央は頷いて見せた。その意見を否定しない。真央自身もそうだから。


 だけど、勝がこうなってしまうのもしょうがない事だとも思っている。


 かつて彼女たちは魔法を手放す見返りにとある少年が欲しいと願った。


 しかし、同時に三人に分け与えることなんて出来ず、おおよそ三分の一づつ分けて与えられたのが始まりで、その契約を彼自身が拒まなかったのがきっと間違いの始まりでもあった。


 一人につき三割。三人で九割。彼の生命力は常に彼女たちに分け与えられていた。故に彼が扱えるのは自身の生命力のわずか一割。つまり彼には自身の性能の一割の力しか出力できないというハンデが与えられたに等しい契約。


 そんな契約はすぐに破綻する。破綻するはずだった。


 どれ程完璧な人間でも一割の性能では人として生きていく事は難しい。


 自身の体でさえ十倍の重さに感じられるなど、生きていく事さえ困難な契約。それを、彼は5年もの歳月にわたり遵守し続けた。工夫に工夫を重ね、極小の力を極大の力に変換し、あらゆる力のロスを抑え、物事全てに筋道を立てたうえで実行する事で、まともな人間に見えるように生きてきたのだ。


 その覚悟の意味を彼女たちは知らない。


 その苦行をこなせた彼の生き方について彼女たちは何もわからない。


 だけど、その苦行は確かに彼の力となって根付いている。



「まあ、理屈なんて単純な話だよな色男。いや、エロ猿って呼ばれるからそれに倣った方が良いか?」


「否定はしない。色男なんて呼ばれる所以はない。ただ優柔不断なだけだ。結局、未だに答えを出せる気はしない。そういう意味でエロ猿ってのはとても正しいな」


「ま、いいんじゃないか。俺は一途だが、人様にまでそれを求める気はない。英雄色を好むってことなんだろう」

「簡単に言ってくれる」


 剣と拳を重ねて100を数える。


 ともに致命打はなく、だがその実力の多寡は見えた。やはりと言ってはなんだが、勝の力では和仁には及ばない。秘術を尽くしてなお和仁の技を一つも引き出せなかったのだから、それは明白だ。故に……



「この一撃で決着をつけよう」


「ああ。いつでも」



 勝が放つのは自身の奥義。


 魔力を剣に込めて、全身にその余波を流し、ただ一撃をもって敵を割断する魔剣の一撃。



「魔偽審断、必滅秘剣」



 誓うは必殺、放たれる一撃は天を裂いて、地に堕ちる彗星のごとく。



「双天絶衝・奥伝」



 応じて和仁もそれにふさわしい技を切った。


 奥伝。


 すなわち奥義をもって真正面から勝の技を迎え撃つ。



「天覆魔境」


「破神夜砕」



 決着。


 どちらに軍配が上がったかは語るに及ばず。


 ただ、満足げな二人の表情だけが見ていた少女たちの心に残った。








「あの三人娘、私の弟子にしたから」


「は? いきなり何言ってんのお前」



 後日というか、次の日。


 いきなりそんなことを言われた和仁は目を点にした。


 そんな彼の様子に頓着する風も無く瑞葵は、和仁に作らせた昼ごはんに舌鼓を打っている。


 男特有の、冷蔵庫にある物と冷ご飯を利用して作ったチャーハンは、その味の安っぽさはともかくとして、和仁が作ってくれたというそれだけで彼女のお気に入りになったらしく時折振る舞う事を彼に要求していた。


 また今回、和仁が引き起こした諸々の事に関してそれで手打ちにするとしたのは、最初は自分からこの一軒に手を出したという彼女の引け目からの物だったが、それはそれとして事件関係者の一員である和仁に筋目を通すため生徒会の三人について言及したのだ。



「市井の魔法使いなんて放って置けるわけないでしょうに。見つけてしまった以上、面倒を見るか記憶を消すかするのが筋。あの三人なら手元に置いておいた方が使い出がある。そう判断しただけの事。お分かり?」


「いや、俺はいいけど、サルはそれでいいって言ってるのか?」


「当然。……というか彼は最初からそのつもりだったみたいよ。私を魔力タンクとして利用としたのは、はなからそういう面もあったみたい。流石よね貴方の友人。腹が立つくらいキチンと計算してこの騒動を起こしてくれてるんだから。……陰陽寮に対する報告書の原案まで出してくるとは思わなかった」



 そう言いながら瑞葵はため息を付いた。そして近くにあったカップに入っているわかめスープを一口すする。



「陰陽寮が何かは分らんが、取りあえずめでたしめでたし?」


「表向きはね。ただ……これから少し忙しくなりそう。弟子なんて取ったの初めてだし、いろいろとやらなきゃいけないことが多いみたいだから。しばらく、貴方にかまってあげられないけど、大丈夫?」


「ああ、俺は大丈夫」


「そっか。それじゃあ、そういう事だから」



 言い終わると瑞葵は再びチャーハンに取り掛かった。少し寂しげな様子だがその理由が和仁にはわからない以上、下手な慰めも意味がないと判断し自分の分のチャーハンを盛り付けて、瑞葵の目の前の席に座る。手を合わせて食べようとしたとき、不意に電話が鳴った。



「……」


「どうぞ?」



 目で瑞葵に確認すると、ジト目になりながらも許可を出す。それに冷や汗を流しながら出ると、相手は昨日の喧嘩相手だった。



「なに、勝」


「昨日の礼だ。そういえば言っていなかったと思って」


「いいよ別に。今度、何か奢ってくれ」


「ああ。勿論」


「それだけ?」


「ついでだ、奢ってやる日も決めとこう。来週の土曜でどうだ?」


「分かった。楽しみにしてる」


「ああ。こっちもな。それじゃ、学校で」


「ああ、学校で」



 淡々と電話を終えて、さて飯だ。


 そう思ってスプーンを取った。その時、瑞葵のジト目が目に入る。また、不機嫌になりかけているときの様子に、和仁の手に緊張が宿った。


「なんだよ」


「べっつにー。楽しそうねって思っただけ」



 そういった瑞葵の言葉に首をかしげるしか和仁には出来なかった。しかしそれは当然だ。彼女が抱いた嫉妬は男同士の友情に対して抱いたもので、だからこそそれを悟られることを彼女自身嫌っている。流石に男にとられたとあっては女性としての沽券にかかわる事だから。


 瑞葵はその理由を決して口に出さなかった。







新しいヒロインの話だと思った?

残念、男友達のお話でしたー。

という第四章でした。

次章はちゃんとヒロインのお話を書きますので、許してください。

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