異世界は電波が繋がりにくくて困る
ゲートをみていて考えた妄想。ぱーっと書ききりました。
俺が勇者として異世界に召喚されたのは、およそ2年前のことだった。
当時高校生だった俺は、ある日拉致同然に剣と魔法の世界『ラウベル』へと転移してしまったのだ。
困惑する俺に、ラウベル最大の国家ルメアの国王は直々かつ丁寧に説明してくれた。
「おお勇者よ! そこの木箱に入った50コルをくれてやるから、ちょっと魔王を倒してくれんか?」
思わず「あ゛あ゛?」と返答してしまった俺は悪くない。
しかしながら、状況を理解するにつれ反感も治まっていく。
異世界ラウベルは末期であった。魔王軍は幾つもの国家を滅ぼし、人々は餓えて絶望し、それこそ異世界の高魔力保持者を召還するまでに追い詰められていたのだから。
よく読むネット小説のテンプレでは召還した王や貴族が傲慢であったりするのがお約束だが、勇者召喚が彼らにとっても苦渋の決断であり俺に終始親切にしてくれたのも大きい。俺は悩んだ末、魔王退治の旅に出ることを受け入れた。
旅の仲間は3人。ござる口調の戦士、物腰柔らかなお姉さんの賢者、そしてお転婆の姫助だ。
姫助はルメア国のお姫様だが、なかなかのお転婆娘であった。当初戦士と賢者だけを伴って旅に出るはずだった俺にこっそりと合流し、説得を試みる俺達を口八丁手八丁で丸め込み、結局旅の最後までついて来やがった。
そして、魔王を倒したのが一ヶ月前。ルメア城に戻った俺は、いよいよ日本に帰還する運びとなる。
ルメア国首都郊外、鬱蒼とした森の中。大きな魔法陣が魔法使い達によって展開され、いつでも異世界への門は開ける状態にされていた。
準備を待つ俺と、見送りに来てくれた関係者達は向かい合う。
「勇者よ、よく頑張ってくれた。どれだけ言葉を尽くしても感謝しきれんぞ」
「アンタにも世話になったな、ルメア王。これから大変だろうけど頑張ってくれ」
「うむ。お主も頑張るがいい。きっとお前は大成するぞ」
握手する俺と王様。未だに魔王との戦いの傷跡が残るこの世界、これから王は色々な苦労をするのであろう。
俺も出来れば残っていたい。だが、戦うしか能がない俺にはもう出来ることはない。
これから先は彼らの戦いなのだ。異邦人である俺は、俺の人生に改めて向き合わねばならないのだ。
「この世界のことはご心配なさらず。きっと復興してみせます」
賢者が微笑んで約束する。
並大抵の仕事ではない。頭がいい賢者がそれを理解していないはずがないのだ。
それでも尚、彼女は俺に心配させまいと笑ってくれている。思わず目頭が熱くなった。
「これでお別れとは寂しいでござるな。元気に過ごすでござるよ」
剣を背負った戦士があっけからんと別れの言葉を告げる。こいつとの別れに湿っぽいのは似合わないであろうことは、互いに承知していた。
「まったく、バカ娘はどこにいったのだ。すまないな勇者殿、あれはあれで悲しんでおるのだ」
困った様子で頭をかく王様。
姫助は、結局俺の送還儀式にやってこなかった。
「いえ、いいんです。……別れが辛くなってしまう」
俺はずっと、姫助に惹かれていた。そしてきっと、彼女も……
しかし俺は日本人で、彼女は王族なのだ。決して相成れぬ関係。出会えただけでも奇跡だった。
「勇者様、準備が完了しました」
「あ、はい」
見送りの面々に一礼し、魔法使いに頷き返す。
「門が開くのは30秒ほどです。急いでお潜り下さい」
「30秒、ですか」
「はい。それ以上は魔力が保ちません。2年周期で訪れる魔力増加現象に合わせた儀式ですので。今回を逃せば、次は更に2年後となります」
躊躇っていてはいられない。それがかえって、俺にとっては救いだった。
あまり猶予があっては、後ろ髪を引かれるばかりだろうから。
「門を潜る瞬間、故郷のことを強く思い浮かべて下さい。象徴的なものを」
「はい。---じゃあ皆、さようなら!」
笑顔で別れを告げ、魔法使い達が異世界の門を開く。
目の前に現れる巨大な鏡。円形のそれは思ったより大きく、直径10メートルはあるかもしれない。
俺は走り出し、強くイメージした。
(故郷、日本のイメージ。日本を象徴するもの……)
真っ先に思い浮かんだのは、東京に存在する赤い鉄塔。
東京タワーを想像しながら門を一気に潜り抜ける。
---そこにそびえ立っていたのは、あまりに巨大な深紅の塔だった。
青い空と強いコントラストを描く、赤い鉄の塊。異世界の建築技術では絶対に作れないであろう、人類の英知の結晶。
周囲には鎧姿の俺を驚いた目で見つめる人々。懐かしい日本の服装に、俺は帰ってきたことを強く実感した。
「お、おいなんだあれ?」
「プロジェクションマッピングって奴?」
「ちげーよ、あの鏡、宙に浮いてるぞ」
「とりあえず動画撮っとくか」
観光客と思しき人々が俺と、その背後に浮かぶ門に携帯電話を向ける。
どうしたものかと思案した時、背中に衝撃が走った。
「お、おい誰だ!?」
振り返り、驚愕する。
「私もこっちに住むわ!」
「姫助ぇ!?」
俺の背中に体当たりしやがった正体は、ルメア国の王女、姫助であった。
大きな風呂敷を背負い、日本に乗り込んできた彼女に俺は困惑する。
「おい何やってんだ! 早く戻れ、門が閉まってしまうぞ!」
制限時間はもう10秒を切っている。猶予はない。
無理矢理押し戻そうとするも、姫は全力で抵抗した。
「もう決めたの! 私もニホンで暮らすわ!」
「そんなこと---んっ」
強引に唇を塞がれる。
思わずファーストキスの衝撃に、俺の頭は真っ白になった。
そんな脳裏で、うっすらと考える。ああ、もう遅い。目の前にいる姫助のせいで見えないが、きっと門は閉じてしまっただろう。
ぷはっ、と唇同士が離れる。
「何よ、私じゃ不満?」
「そんなことは、ないけど」
「なら、なら私を---」
潤んだ瞳で俺を見つめる姫助。
俺もその美しい瞳から目を離せない。
おおおっ、とよく判らないままに歓声をあげる日本人達。
いけー! 押し倒せー! と無責任にはやし立てる異世界人達。
…………あれ、と首を傾げる。
「って、おい!?」
俺の大声にきょとんとする面々。
何故か異世界人達が、こっちに来ていた。
「ちょ、皆!? 門閉じるんだろ、なんで日本に来てるんだよ!?」
「まあまあ、落ち着いて下さいな」
冷静になるように促す賢者。この時点で感覚的にだが、もう1分は経っている。
しかし異世界人達に慌てる様子はない。何故かと不審に思い、彼らの視線を辿る。
門が、依然とそこに鎮座していた。
「……30秒ルールは?」
結局、門はその後数時間たっても消えることはなかった。
賢者を初め魔法使い達が調べたところ、このような結論に至る。
「どうやらこのトウキョオタゥワーは、魔力溜まりの座標と一致しているようです。そのせいで無尽蔵の魔力が門に供給され、半永久的に儀式が維持されてしまったらしいですね」
魔力溜まり。宇宙に数カ所しか存在しない理論上のみのポイントらしいが、まさかのそれが東京タワーと同じ場所に存在していたそうだ。
迷惑になるからと魔法使い達は門を消す為必死に解析するも、どうにも消えてくれない。やがて日本人達が集まってきて、ついには警察がきた。
「君、これはなんだね! ……いやマジでなんだこれ!?」
「これはですね、ええっと……こらお前ら逃げるな!」
いそいそと門の向こう側へと退散する異世界人達。姫助もこっちで暮らすとか言いつつ逃げていきやがった。
そして一人パトカーで連行される俺。無様である。
取り調べにて、俺は異世界での経験を包み隠さず話した。
まったく信じていなかった警察側も、東京タワーの門にカメラを差し込むなどして何かしらの超常現象が発生していることを認める。
日本側の調査に伴い、俺の待遇は面白いように変化した。
一日目は独房のような殺風景な個室だった。
二日目はいきなり豪華なホテルの一室となった。
三日目はよく判らない偉い人が謝罪やら挨拶やらで頻繁に訪れるようになった。
そして四日目、冴えないスーツ姿の男が俺にあてがわれた部屋を訪れる。
「やあ、すまないね窮屈な思いをさせてしまって。ええと、勇者君と呼んでおこうかな?」
「ご自由に。それよりラウベルの人達に何かしてないだろうな」
「とんでもない! 彼らは良き隣人だよ! いやあ君もラウベルで頑張ったみたいだね、日本人として誇りに思うよ!」
胡散臭い男の言葉に、違和感を覚える。
「隣人?」
「うむ、そうなんだよ。どうにもあの門は魔法使い達にはどうしようもないらしくてねぇ」
双方の政治屋が色々と話し合った結果、どうやら日本とルメア国はこれからも付き合うことを選んだらしい。
まあ、そう判断する心当たりは色々とある。怪我が数秒で治癒する魔法薬、瞬時に他の場所へと移動出来る魔法。他にも地球には存在しない驚くべき魔法技術が、異世界ラウベルには山ほど存在する。
日本側としては、これを見逃す手はないであろう。
逆に、日本は異世界ラウベルの復興を全力で支援するつもりだそうだ。既に現地調査として自衛隊ヘリが異世界の空を飛び、海外支援派遣の部隊編成が着々と進んでいるらしい。
地続きなのに海外支援とはこれいかに。
「我が国の自衛隊は災害復興などでこれまでも経験を積んできたからねぇ。きっとラウベルの力になれると確信しているよ。はっはっは」
「はあ……」
何かおかしなことになっている、と微妙な顔になってしまう俺。
「これからは君も忙しくなるぞ。姫様が日本の案内人に君をご指名だからね、日本とルメアの架け橋として頑張ってくれたまえ!」
それから1年後。
俺はルメア国王城にて、姫助の助手として文章と格闘する日々を送っていた。
「あーもう! ニホンの経済規模でかすぎるのよ! こっちが束になっても敵わないなんて無茶苦茶だわ!」
「人口からして桁違いだからな、こっちの世界人口が少なすぎるってのもあるけど」
城の執務室にて、パソコンと睨めっこをする俺と姫助。
ブルーライトとの死闘の日々が、俺達の新たな生活風景であった。
「物理医学が浸透して、こっちの人口も増加傾向なんだろ?」
「むしろ問題になるレベルで爆増中ね。まあ魔王との戦いでごっそり減っちゃったから、必要なことなんだけれど」
日本からタワーゲート(東京タワー元に出現したことから、いつしかそう呼ばれるようになった)を潜ってやってきたものは、まさに多岐に渡る。
高度な医学。効率的な農業技術。重機とゴーレムがそれぞれの得意分野を活かし合いながら土木工事を進め、シールドマシンが海峡横断トンネルを穿つ。
日本とゼロ距離に開かれた国境は、あまりに潤滑に異世界への浸透を促していた。
「日本も少子化少子化と問題になっていたが、最近じゃ景気が良くて人口も増え始めているらしいな」
「こっちだって売れるものはガンガン売ってるもの。そりゃ景気も上向きになるわ」
異世界では需要の少ない石油やその他資源、魔法薬やアイテム。もっとも儲かる商売・仲買業を独占できる立場となった日本は異世界の道具を地球世界各国に輸出することで莫大な利益をあげていた。
魔法医学も認可されはじめ、大きな病院では『外科』や『内科』と並び、『魔法科』が開設しているそうだ。厚生労働省が発表する平均寿命も、大幅に上方修正されたとか。
「表向きは友好関係だけれど、経済面では大戦争よ。こっちも必死で日本円を確保しているんだから」
「その一環が、俺に任された観光事業だろ? この世界の宿屋は使いにくかったし」
民間の観光客も多く、異世界ラウベルへと訪れている。確保の難しい日本円を入手する手段として、ルメア国もこの事業を積極的に推進していた。
ただ問題は多く存在する。治安の問題や風習・文化の差異によるトラブルも多発していた。
「ことあるごとにあっちこっちをパシャパシャ写真で撮るの、あれはやめてほしいわ」
「日本人からすれば魔法世界の全てが新鮮だからな……観光客には観光マナーについて注意するチラシでも作るか」
「棒の先にカメラを付けて自分を撮るのも、それなりに苦情が来てるわよ」
「なんかすまん」
今日も勇者と姫は多忙であった。
「さて、と。あとはこれを送るだけだわ」
段ボールに書類を張り付け、姫助は大きな装置の扉を開く。
装置には堂々のS○NYという文字。ピポパポとタッチパネルを操作していると、姫助は突然声を上げた。
「あーっ! ちょっと、電池が切れてるじゃない!」
「あ、すまん。買い忘れてた」
「今日中にニホンマンガのサンプルをバルロス帝国に転送しなくちゃいけないんだから! ちょっとコンビニで魔力電池買ってきてよ!」
「へいへーい。地属性と火属性の単三電池四本ずつだったっけ?」
魔力のない人間でも魔法の使える魔石技術。それを規格化したのが魔力電池である。
これまで専門家しか出来なかった魔石の交換作業が、素人でも簡単に行えるのは大した進歩であろう。最近では炎や冷気を纏う魔法剣にも、魔力電池が採用されているそうだ。
剣の柄に乾電池を入れる……まるで玩具の剣のようだ、と俺はクスリと笑ってしまった。
「ついでに疲れたから甘いもの! タケヤブの里買って来て!」
「はあ? エノキの山に決まってるだろ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎつつ、コートを羽織り城を出る。
コンビニまで徒歩で片道15分。7時から11時までを偽りの謳い文句とするチェーン店は、門を越えてルメア国にまで出店していた。
「はぁー、寒ぃ」
季節は冬、いよいよ寒さも厳しくなってきた今日この頃。
それでもやはり子供は風の子というべきか、獣人の子供達が外で固まって遊んでいた。
「日本の子供は最近外で遊ばないっていうしなぁ。こういう点はこっちを見習わないと」
微笑ましい心持ちで獣人の子達を眺める。
「いけっ、勇者イリス!」
「僧侶アーレイ、回復魔法を使うんだ!」
「うわっ、戦士ギイハルトが途中でパーティ抜けやがった!? 今まで食った強化アイテム返せ!」
携帯ゲーム機であった。
「携帯版ドラグーンクエスト7か……剣と魔法の世界でファンタジーRPGってどうなの」
異文化交流の闇を垣間見た気がした。
「しゃーしゃらいしゃせー」
「これください。あ、領収書も。名義は姫様で」
「ありゃりゃーしたー」
買い出しという重要任務を終えた俺は帰路を急ぐ。
「おや、勇者殿ではござらんか」
「ん?」
声に振り向けば、そこには戦士がいた。
「おー、おひさー! 元気してたか?」
「ぼちぼちでござる。先日、北のドラゴンを狩ってきたでござるよ」
「ああアイツか、被害報告が来てたからな。助かったぜ」
「いやいや、これも仕事でござる」
機械と魔法が交わるこのご時世でも、戦士は変わらず頑張っているようだ。彼の様子は出会った頃となんら変わりはない。
「冒険者って仕事は案外変化もないみたいだな。何か困ったことはないか?」
「興味本位でニホン人が魔物に挑んで、遭難したり怪我をしたりすることが最近多いでござる」
「……すまん」
「しっかり注意しておいてほしいでござる。この辺の魔物はジエータイが駆逐したので安全でござるが、死人が出てからじゃ遅いでござる」
日本人観光客の多いこの町は、安全確保の為に自衛隊が害獣駆除を積極的に行ってきた。何気に自衛隊初の実戦である。
その時、戦士の懐からピロピロピロピロと音が鳴った。
「おや、ちょっと失礼するでござる」
取り出したスマートフォンを操作する戦士。通話ではないようなので、訊ねてみる。
「携帯電話、買ったんだな。鎧姿に似合わないなぁ」
「これがなかなか。日本企業と冒険者ギルドが共同で作ったスマホアプリが実に便利でござる」
戦士がスマホの画面を見せてくれる。そこには魔物の出現分布や冒険に関する便利情報がリアルタイムで更新されていた。
「来年からはルクシュの武道大会もネット中継するらしいからな。出るんだろ、応援してるぜ」
俺も勇者だった頃、旅の途中で武道大会には参加した。決勝戦で戦った相手が人間に変身した魔族だったのも、今となってはいい思い出である。
「世界中に見られるとは、恥ずかしいでござるな」
朗らかに笑う戦士だが、彼は知らない。
勇者パーティの一員として世界を救った戦士は日本でもファンが多く、ニヤニヤ動画では戦士まとめ動画などもアップロードされているのだ。
「何故か勇者まとめ動画はないけどな!」
「な、なんの話でござるか勇者殿?」
「いや、すまない。なんでもない」
戦士と別れ城への道を進んでいると、再び懐かしい顔に出会った。
「おーい、賢者ー」
「あら。こんにちは、勇者君」
にっこりと微笑む賢者。相変わらず美人のお姉さんである。
「さっき戦士にも会ったし、今日は懐かしい顔と出くわす日だな」
「ふふっ。さっきニホンの研究所から戻ってきたんです。すぐに戻らなくてはならないのですけれどね」
「凄いな賢者は。あっという間に物理学もマスターして、地球の科学者と一緒に研究しているんだから」
「いえ、私など。ニホンにも沢山凄い人がいて、私も日々勉強です」
俺は戦慄した。この賢者が未だに勉学に励まねばならないとは、学問とはまこと底無し沼であるらしい。
「最近はどんなことやってるんだ? 東京タワー門の安定化についてだっけ?」
「それに関しては一段落しました。最近では量子テレポーテーションについての魔法研究ですね」
なにそれちょっとよく判らない。
「ええっとですね、素粒子というものを科学的手段で扱うのが現状では困難だったのです。そこに魔法を介入させることで情報伝達に応用したり高性能な演算装置を……」
「もう一声簡単に頼む」
「……携帯電話に圏外がなくなるかもしれない研究です」
「科学の力ってすげー!」
魔法科学ですけれどね、と賢者ははにかんだ。
「色々と話し込んでいて、遅くなっちまったなぁ」
姫助、怒っているかも。戦々恐々としつつ城へと急ぐと、道中で香しい匂いに足を止めた。
「屋台か。これはまた、異世界に似合わないものを売っているな」
そこで売られていたのは、日本名物タイヤキであった。
「ご機嫌取りにこれも買っていくか。寒いし」
メニューの羅列を読み進める。定番から奇抜なものまで、なかなかに品揃えは充実していた。
「俺は……つぶ餡でいいや。姫助はリリメルの実が好きだったよな」
この世界特有の果物を使ったクリームを使った新商品。新商品、実に魅惑的な単語だ。
そういえば市場では「398円」などの、印象操作な値段も見受けられるようになってきた気がする。
商法まで異世界に進出しているらしい。
「一応本人に訊いておこう、あとで文句を言われてもたまらん」
携帯で手早くメールを打ち込む。
『鯛焼き買ってくけど、お前の分はリリメル餡でいい?』
送信ボタンを押すも、すぐさま送信失敗の表示が映る。
画面上部を見れば、アンテナアイコンが不通を表示していた。
俺は溜め息を吐く。
「やれやれ、異世界は電波が繋がりにくくて困る」
つぶ餡とリリメル餡を購入し、城に戻る。
「鯛焼きは餡以外ありえない」という姫の主張により、リリメルクリーム鯛焼きは俺が食べる羽目となった。
日本と異世界が交流する作品は幾つかありますが、どうしても争いやすれ違いが発生しがちですよね。そうしないと物語として成立しないのですが。
もっと平和的に、国家規模で日本と異世界が交流するのも面白そうだと思うのです。