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私、愛されてない子なのかなと思っていたことが杞憂だったと発覚し、早1年。
歩くことが出来るようになりました。
あれだね!歩くって素晴らしいね!
ハイハイの時も自分で動けるって素晴らしい!って思ってたけど、やっぱり歩けた方がいいよね!やっぱ人間歩かなきゃだね!
二足歩行が基本よね!!
歩けるようになると、自分の部屋を出れるようになりました。
これで出来るよ、お屋敷探検!!!
私の視線が低いからかわからんけど、とにかくバカでかく感じるのよね、この屋敷。
まあ、貴族ならこれが普通なのかな。
どのくらいの地位かは知らないけど。
でも結構シンプルなんだよね。
無駄なもんがないというか。
スッキリしてて私は好きだけど、この家。
「リアお嬢様、お庭へ行きましょうか」
「あっち」
まだ通ったことのない廊下を指してルーエを見上げる。
ルーエは困った顔をしたけれど、私がどれだけ探検を楽しみにしてたと思ってるんだ。
そう簡単には負けないぞ。
「そうですか。まあ、少しくらいなら平気でしょう」
お、案外あっさり意見が通った!
やったね!
ルーエは手を引く私に仕方が無いといった感じで、私の思い通りにしてくれる。
部屋の扉を見つける度に、「ここは?」って聞く私に驚いているようだったけど、それは最初のうちで、何回か繰り返すうちに当たり前のように返してくれるようになった。
大抵が使われてない部屋だった。
暫く歩いていると下り階段に辿り着いた。
そういえば、ここ2階だっけ、と部屋を聞くのも飽きてきたし、私は1階へ降りることにする。
階段に近付くと「失礼しますね」とルーエに抱き上げられた。
まあ、確かにこの年齢じゃ自分で階段を下るわけにもいかないか。
「このままお庭に行きますか?今日は天気がいいですよ」
そう言われると外に出たくもなる。
なんせずっと屋敷の中だったのだから。
こくり、と頷く私を見てルーエはそのまま庭へと向かう。
降ろしてもらえなかったけど、結構歩いて疲れたのでそのまま大人しく抱っこしてもらってた。
庭に出るととても解放感があって気持ちよかった。
風や、空気の匂い、太陽の光が私に元気をくれるようだった。
ルーエはそのまま花がたくさん咲いているところに連れていってくれた。
ここは私の部屋から見える庭だったみたいで、いつも見る花が生き生きと咲いていた。
私は花を凝視する。
ずっと、気になってることがあった。
窓から見える花たちは、たまにキラキラ輝く何かが見えた。
最初は花に水やりをした時の水滴の光の反射かと思ったんだけど、なんかちょっと輝き方が違うというか。
キラキラが花に降り落ちてるというか。
とにかく、たまにではあったけど、花の上が輝いている時があった。
近くにくればわかると思ったんだけど、ジッと花を見てもキラキラは見えない。
「その花はファナといってこの時期が一番見頃なんですよ」
それからあちらは、と花の説明をしてくれるルーエ。
そんな中、視界の端に映ったキラキラにバッとそちらを見るがすでに輝きは見られない。
また視界の端にキラキラが見えた気がしてそちらを慌てて振り向く。
「リ、リアお嬢様?」
不審気な瞳をこちらに向けるルーエに、私は尋ねた。
「あれ、なあに?」
「え、あれはファナの」
「あのキラキラ、なあに?」
ルーエの言葉を「ううん」と頭を振って遮って尋ねる。
私が指さした方に視線を向けるもルーエは不思議そうな顔をしている。
キラキラはすぐ消えてしまうから、新たに見えたキラキラを指差して見るもやっぱり首を傾げられてしまう。
キラキラが、見えないの?
「リアお嬢様、あの辺りがキラキラしているのですか?」
「うん」
「私には見えませんね……」
眉をハの字にした表情を見せられてしまえば、何とも言えなくなり「そう」とだけ返した。
あれは、一体何なのだろうか。
* * *
「それにしてもリアお嬢様は成長が早いですねぇ」
頬に手を当てて、困ったような感心しているような、そんな表情と声色でルーエはお母様のお膝に座る私を見た。
お父様とお母様に会ってから、明らかに会う頻度が増えた。
最初こそ戸惑っているみたいだったけど、今では慣れてしまったようで、お母様の膝に座っていてもお母様は特に戸惑う表情は見せない。
と言ってもあまり表情を変えない人なので雰囲気で感じ取るようになった。
お母様は表情こそ変わらないが纏う雰囲気が変わるのだ。
それに気付いた時、感心した。
なんでと聞かれてもそう感じるからとしか答えようがないが、表情よりも明確に感情を読み取ることが出来るので、逆にお母様は感情豊かな人だと思う。
ちょっと困った、困った、すごく困った、みたいな強弱すら感じ取れるのだ。
いやはや不思議な人だなぁ、我が母ながら。
そんなことを考えながら両手でクッキーをサクサク食べる。
うん、おいしい!ぼろぼろ零れるけど、ちゃんと小さなおててで落とさないようガードしてます。だいじょぶだいじょぶ!
マナーは守ってるぜ!
それにしても、お母様の膝の上は気持ちいい。
温かくて柔らかくて、花のようないい匂いがして、この妖精が母親だなんて私は未だに信じられませんよ。
よくお父様はこの妖精さんを落とせたな。
視線を感じて顔を上に向ければ、お母様が私を見ていた。
んー、なあに?
「リアお嬢様はまだ1歳になられたばかりだと言うのに歩くことも話すことも出来ています。まだたどたどしいところはありますが、それでもこれだけお話が出来るのはすごいですよねぇ」
そんな誉めても何もありませんよ。
だって私、元は二十歳すぎの女ですし?
これぐらい出来て当然というものじゃん?
寧ろ本当なら普通に話せるんだけど、そこは1歳児らしくたどたどしくしてるのよ?
本当はもっとすごいんだからね?
にやける顔を抑えるようにクッキーを口に運ぶ。
まあ、誉められるのは嬉しいってこと。
「……そうね」
私のお腹に緩く回っていたお母様の腕がきゅっと抱え込みが強くなる。
お?!お母様から抱き締められるとか萌えるんですけど!
「あっという間に大人になっちゃいそうですね」
ルーエが困ったように笑うから、いけないことのように思えるじゃないか。
いいじゃん早く大人になった方が。
早く大人になりたいよー!
あ、でも子ども時代も思いっきり楽しみたいけどね。
あ、もしかして早く大人になっちゃうのは寂しいとかそういうこと?
「……うん」
お母様の雰囲気から私の考えは当たりなのかな。
これは甘えてもいいということだろうか。
私は抱え込まれているお母様の腕に甘えるように頬を摺り寄せた。
そんな昼下がりのひと時。
* * *
さて、私は今日も元気いっぱいです。
お屋敷探検、お庭でお花鑑賞、絵本を読んでもらったり。
まあ大体そんなものなんだよね、やることといったら。
それでもお屋敷はまだ全部把握出来てないし、お庭の花もまだ全部覚えてない。
字はまだ読めないから絵本を読んでもらいながら、お勉強中。
ルーエは私が字を読もうとしてるだなんて思ってないだろうな。
まだまだやることはいっぱいだ。
そういえば、このお屋敷の使用人さんたちとも交流が出来るようになってきた。
まあ、挨拶程度なんだけどさ。
お屋敷探検の時に遭遇した使用人さんにはおはようございますって話し掛けるようにしてる。
最初はびっくりしたような様子だったけど、最近ではみんな笑顔で挨拶を返してくれるようになっていた。
でもさ、やっぱお嬢様なんだなーって思うのは、私と廊下で遭遇する使用人さんはみんな端によって礼をするんだよね。
「リアお嬢様、お庭に行きましょうか」
ルーエの言葉に私は頷くと二人で廊下を歩く。
庭に行く前にお屋敷探検が日課だ。
私があっちこっちといつも違う廊下を通って道を覚えようとする。
すると前方にお父様を発見した。
こんな昼間に珍しい!
「あら」というルーエの声に恐らくお父様の帰りを知らなかったのだろう。
なんだかレアの場面に遭遇したせいか、妙にテンションが上がってお父様に抱きつきたい気分になった。
私が走って足にくっつけばあの無表情も崩れるだろうか。
是非とも崩させたい!
思わず駆け出した私。
30メートル程の距離でも私には遠い。
それでも走ってあそこまで行こうとした私に気付いたルーエが「リアお嬢様!」と呼んだ。
けど、無視して走る。
お父様はその声にこちらを振り向いた。
目を瞠ったところを見ると私が走ってることに驚いているのだろう、ちょっと笑いそうになる。
だけど、そんな余裕も横から飛び出た影によって、失せた。
「あ!」
私の声か、彼女の声か、それとも二人ともなのか。
真っ直ぐ走っていた私と、交差する廊下から走っていた使用人の少女が、運悪く衝突した。
「リアお嬢様!!」
「リア!」
悲鳴のようなルーエの声と、驚きと心配を混ぜたような低いお父様の声が聞こえた。
ぶつかった時の右肩の衝撃と、前に転んだ時の床にぶつかる衝撃に一瞬何が起こったのかわからなかった。
それでもとにかく体を起こして前を見ればそこにはいつの間にかお父様がいた。
「大丈夫か?」
立たせて確かめるように私を触るお父様。
あれ?これってセクハラ?
「だいじょうぶです」
しっかりとお父様の顔を見て告げれば安堵した瞳を見ることが出来た。
お父様の感情は瞳に出やすいことに最近気付いた。
目は口ほどに物を言うってやつですね!
「申し訳ございません!!」
ルーエが私に何か言おうと口を開いたのを視界に入れた瞬間、横から叫びにも近い声が聞こえた。
見れば、先程衝突した使用人の少女が肩を震わせながら、跪いて頭を下げていた。
「わたしもごめんなさい。だいじょうぶですか?」
トコトコと2、3メートル程しか離れていない少女の前まで歩き、跪いてる彼女の視線と合うように屈む。
びくり、と震えた体はゆっくりと頭を上げた。
「だいじょうぶですか?」
目の前の私に驚いている彼女にもう一度問えば、「は、はい」とだけ返ってくる。
私にとっては跪いて謝ってる貴方にびっくりですけどね。
これが私のお嬢様の立場なのかなー。
立って、と促せば「いや」とか「でも」という否定的な言葉が彼女の口から出てくる。
立って、ともう一度強く言えば、はいっ!と素早く立ち上がって背筋をピシッと伸ばしてる。
「あし、あかい。いたいですか?」
少女が立つと目線が彼女の太ももになり、自然と膝に目がいった。
恐らく転んだ時に絨毯に擦ったのだろうそれは、赤くなっていて、ちょんと触れば熱を持っていた。
「リリッ、リアお嬢様!?」
慌てたようにドモる少女は私に膝を触られて、後退った。
これは地味に痛いやつだわ。
ジンジンするんだよね。
「リアお嬢様は大丈夫なのですか!?」
先程からお父様もルーエも静かだったが、急にルーエが動き出した。
そういえば視界に入った時、二人ともぽかん、としていたような?
ああ、私の行動が予想外だったのかも。
1歳児は泣くのが普通でましてや他の人を心配することなんてないもんね。
喋ってたことにも驚いたのかもだけど。
普段こんなに喋んないしね。
振り返ると私の前に膝をつき、腕を取ったり足を見たりしている。
「だいじょうぶ」
ほんとはちょっと肘がジンジンしてるんだけど、ここで余計なこというと彼女に青い顔をされちゃうかもしれないしね。
まぁ、それはルーエもなんだけど。
「貴方は何をしているのです!」
ルーエが叱るように大声をあげるのを初めて聞いて、私は目を丸くした。
ルーエでも怒鳴ることがあるのね。
「も、申し訳ございません!!!」
頭をこれでもかってくらいに下げている少女に私はルーエのスカートの裾を引っ張る。
「ルーエ、おこらないで」
「リアお嬢様……」
私の言葉にルーエは困ったよう眉をハの字にした。
「ルーエ、とりあえずリアに怪我がないかちゃんと見ろ。君は仕事に戻れ」
淡々と指示を出すお父様を物珍しく思いながら、私はルーエに抱き上げられ、自室へと戻ることになった。
いや、大袈裟でしょ。
転んだだけなんですけど。
まあ人と衝突してしまったのは危ないかなって思うけどさ。
私は自室でルーエにドレスを脱がされていた。
薄いワンピースみたいな下着一枚になりながら、ルーエが私に怪我がないか見ているんだけど。
「ひぃ!リアお嬢様怪我しているではありませんか!」
私の肘の擦り傷に気付いたらしい。
いや、悲鳴上げなくても。
さっきの少女の膝と同じ怪我ですが。
「ちょっとヒリヒリする」
「なんで早く言って下さらないのですか!」
「ごめんなさい」
いつもと違うルーエに萎縮していると、ルーエは溜め息を吐いた。
「メイリィ様にそっくりですわ」
いきなりお母様の名前を出されてキョトン、とルーエを見上げる。
「メイリィ様は治癒師をしていらっしゃるからか、ご自分の怪我には無頓着なのですよ。いつも武人達の凄い怪我を治されているから、大抵の怪我はこの程度大丈夫くらいにしか思っていらっしゃらないのですわ。私から見れば大怪我ですのに」
もう、と憤慨するルーエにお母様は治癒師だったという事実を知る。
いつもお父様もお母様もお屋敷にいないけど、お父様は魔導師の仕事があるから仕方ないとしても、お母様については不思議だったんだよね。
そっかぁ、治癒師かぁ。
ルーエが使用人の中で治癒魔法が使えるものを呼び、肘を綺麗に治してもらってる間、私はそんなことをぼんやりと考えていた。




