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バレンタイン

作者: 白山 日菜



明日は彼と付き合って初めてのバレンタイン。仕事が終わってから2人で会おうって話になっている。



今日は仕事の帰りに彼用に美味しいと評判のお店でチョコレートを買った。これで準備は万端。



意気込んで帰りの電車に乗ると、彼からメールが来ていた。優先席付近ではないので、スマホを覗く。



明日、手作りのお菓子が欲しい



…はい?


もう市販の用意したって返信すると、



そんなー(;_;)



と、すぐにメールが来た。



喧嘩にならないよう当たり障りのない返信をし、メールは終了。私は1人で住んでいるアパートに帰った。








帰宅してご飯を食べてベッドにダイブする。枕に頭を乗せて天井を見ながら彼からのメールを反芻した。



…手作り、ねえ。



独り暮らしをしているのにも関わらず、私は料理が大の苦手である。レシピを見て、材料もきちんと計量しているものの、見た目は無様で味は微妙の代物を作ってしまう。



普段は自分しか食べないから失敗しても問題ないが、あげるとなると失礼だ。



何より謎なのは、彼は私の料理の下手さを知っているのに、このような要求をしてきたことだ。



以前どうしても、とせがまれて彼にペペロンチーノを作った。それはレシピ通りに作ったのに色も味もやたら濃く、ベーコンは丸こげで、お世辞にも美味しいと言えなかった。出来上がったペペロンチーノを見た彼の顔が引きつっていたのは言うまでもない。



初めてのバレンタイン、いい思い出にしたい。



下手でも作って持って行って、市販のと選んでもらおう。



私はベッドから降りて上着を羽織り、近所の遅くまでやっているスーパーに向かって自転車をこいだ。











翌日、仕事が終わってから、待ち合わせ場所の駅まで行った。改札口の前にスーツをきっちり着ている彼がいた。



合流し、2人でイタリアンレストランに行き夕食を食べ、独り暮らしをしている彼が住んでいるマンションへ行く。



いつ来ても汚い部屋だ。足の踏み場がある今日は綺麗な方だ。



私が先に入浴し、上がってから彼がお風呂に入る。その間に2種類のチョコレートをテーブルの上に置いた。



お風呂から上がるなり、彼はテーブルの上のチョコレートに気付いた。髪を拭きながらチョコレートの前に座る。



彼は明らかに素人のラッピングの方のチョコレートをすぐに手にし、包装を開け出した。中から出てきたのは不恰好なトリュフ。



昨夜スーパーで、トリュフを作るキットを購入し、余計なアレンジを一切加えずに作ったが、このように歪な形の

物が出来たのだ。もちろん味もあまり良くない。



「あんまり美味しくないから、無理して食べなくていいよ」



私の言葉を聞かず、彼は不恰好なトリュフを口に入れた。美味しくないはずなのに、とても嬉しそうだ。



「予想通り微妙な味」



飲み込んでから彼が言った。



「私が美味しいチョコを作れないってわかってて、手作りがいいって言ってきたんでしょ?文句言わないでよ」



「俺のこと思いながら一生懸命作ってくれたんだろ?その気持ちが欲しくって頼んだ」



「え?」



唐突な発言に、頬が熱くなった気がする。そんな私をよそに、彼は続けた。



「お前最初は手作り断ったじゃん。でも作ってくれたってことは、俺を喜ばせようと思ったんだろ?それだけで俺は幸せだ」



にこにこしながら2つ目のトリュフを手に取る彼。…やばい、嬉しすぎて心臓がドキドキしてる。



不恰好で美味しくない食べ物なのに、作る時の気持ちでこんなに喜んでもらえるとは思わなかった。



たまには手作りも悪くないかな?








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