02
「いえ、じゃあなくて……」
(アンタのことらしいんだって)
サンライズ、とりあえずもう少しヒアリングを続けることにした。
「サークルのお名前は?」
「まつぼっくり、って言うんですよ」
トシエ、けっこうサークルのことが気に入ってるらしい。
身を乗り出してきた。
「でも、登録したのはつい最近で、まだほとんど活動はしてないんですけど」
「どんな活動を?」
「家庭から出る廃油で石鹸をつくったり、牛乳パックで紙をすいてハガキを作ったり、そういったものを売って活動資金にするんですよ。あと、ボランティア登録をして、体の不自由な方のご家庭に伺っておそうじや買い物のお手伝いとか……まだ私はそちらはやってないんですけど、あ」
あわてて口を押さえる。
「ごめんなさい、何だか、一人でしゃべっちゃって」
「いいですよ」
続きをうながしたつもりだったが、急に、トシエはぴたりと押し黙った。
「?」
目で優しく問いかけると、トシエ、初めておびえたような顔をした。
「何か……主人のことで、あったんですか?」
「いや」
あわてて、サンライズはカップを置いた。
「違うんですよ。ご主人とも関係ないんです。アナタご自身が、ご存知かもしれない人物です。その人を捜し出して、できれば保護したいのです」
「危険なんですか、その方」
どちらの意味で聞いたのか?
素直に心配しているようだ。
「いえ、ええと」
「徘徊される方なんでしょうか?」
「いや……どうでしょう徘徊とは言わないかも」
どうも調子がくるう。
保護、と聞いたので多分お年寄りを想像しているのだろう。
「まあ…早く見つけるに越したことはないんですがね」
MIROCの特務員というのは本来、非武装で犯罪を抑止更生させるのが基本だ。
サンライズのようにどちらかというと腕力に自信のない非力なエージェントは、このような時には相手をいかに言葉で説得して犯罪を思いとどまらせるかが重要な技術となる。
サンライズも交渉術の講座を一通り受けた後、追加で特殊交渉の講座も取り、社内の特務リーダーの中でも数少ない『ネゴシエイター』としてライセンス登録されていた。
だからローズマリーからもよくからかわれた。
「サンちゃん、『江連』のママをオレの代わりに口説いてよ、説得の神様に頼んでさぁ」
サンライズは微笑みながらも心の中では自らを叱咤し続ける。
―― せっかくステキな女性と一対一で向き合って会話しているのに、このていたらくは何だ。
どうしたんだよ説得の神様、今日は休業か?




