表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豚のしっぽ 弥勒の決死圏シリーズ#05  作者: 柿ノ木コジロー
ソーダのおいしい喫茶店
5/42

01


 金曜日の昼下がり。

彼は彼女をお茶に誘った。



「コーダ?」

 トシエは、『あ』の形のまま口をひらき、不審げな表情でサンライズをみた。

「コード、じゃあなくて?」


「はあ」


 近くでみると、昔のアイドルみたいだな、全然別のことを思うサンライズ。


 子どもの頃好きな歌手がいた。

―― その人に似てるんだ、だからかな、こんなにときめくのは。


 女子どもが好みそうな白とピンクに満たされたフルーツパーラーに、二人はいた。

 ボビーは向かいの喫茶店に、ひとりで入っている。

 そちらの連れは日本経済新聞と週刊朝日のようで、窓ごしに気難しげな横顔がみえた。


 素直にMIROCの名刺を出して、彼女に直接アポを取ったのが昨日。

 そして今日はもう一緒にお茶している。

 全ての仕事が、こんなにスムースに動くといいのに。


 見る限り、彼女のリアクションはとぼけているという範疇ではない。

 知らない人間に知らないことを聞かれ、愛想笑いでごまかそうか、不機嫌になろうか迷っている、微妙なところのようだ。

 でも、トシエは本来性格がおだやかなのか、困ったように少し、笑ってみせた。

「ごめんなさい、ぜんぜん分からない」

 

 少しばかりスキャンしてみるが、意識の中にも?マークがいっぱいだった。

「コーダ、っていうのは」

 どこから説明しようか。


「音楽の用語で、『お終い』っていう意味なんだそうです。ただ……」


 やはりある程度までは正直に聞くのが、一番早そうだ。

「お聞きしたかったのは、ある人物の名前なんです。こういう名前の人に、聞き覚えはありませんか?」

「グループですか?」

「え?」

「何かの、歌手とか」

「いえいえ、違うんです」

「すみません」

「謝ることじゃあ、ないんですよ、こちらこそすみません。こんな所にお呼び立てして、しかも変なことお聞きして」


 トシエが、かすかに笑顔をみせる。

 ぷっくりした頬に片えくぼができた。


「マイロック、の方ってお聞きしたんで、てっきり福祉関係のお話だと思って」

「え? マイロック、というのが?」


 福祉関係だなんて初めて言われた。

 まあ、公共機関の中ではかなりマイナーな部類だし、やっていることは公共の福祉にも関係していると言えなくもない。


「はい、お名前からして何となく……今入ってるサークルの件かと」

「え?」

 サンライズ、つとめてさりげない口調で

「福祉関係のサークルに、参加されてるんですか」

「ええ」

 にっこりして彼女が言った。

「ついこの頃のことなんですけどね」


 心の中で舌打ちする。

 ファイルになかったじゃねえかよ、キサラギのヤツ。

 今度会ったらとっちめてやる。


「いや、そっちのサークルとは直接関係してないとは思います。まあ、広い意味では……」


 どんどん本筋から離れていく。


「ああ、分かった」

 トシエ、明るく言った。

「コーダ、っていうのが福祉サークルのことなんですね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ