02
「どうしたの、これ」
「ダンナさんから、もらったんだ」
サンライズは、叱られた子どものようにうなだれている。
ボビーは、じっくりとそれを眺めた。
イタリアン・レストランの店内、ボッチチェルリの壁画を背景にしたテーブルの前で、幸せそうな中年のカップルが肩を寄せ合って、カメラに向かって笑っている。その脇には、数人のボーイと、便乗して集まったまわりの客たち、いっせいに何か叫んだかのように、口を丸くあけて楽しげな表情をみせていた。
「コーダ・デル・マイアリーノ」
彼が急につぶやいた。
ボビーは眉をあげる。
「こぶたのしっぽ? それがどうしたの?」
「あの人はさ、つかの間でも幸せだったんだよな」
ボビーが写真を返し、サンライズはまたじっと写真の中の人をみつめた。
「どれが本当の自分なのか、わかったんだよな」
己に言い聞かせるような、しかし説得しきれていない自信のない口調だった。
今度はボビーは答えずにだまって聞いていた。
「最後には、とにかく自分を取り戻してはいた。そして、笑っていた」
愛おしげに、写真の中の彼女に指をのばした。触れるかどうかのあたり。
「ねえ、サンライズ」
しばらく彼が動かなかったので、もう一度呼びかける。
「……ねえ、タカオ」
写真を手にしたまま、彼はぼんやりと顔をあげた。
「アナタが、そう信じていられるなら、彼女は十分幸せだったはずよ」
彼は長いこと考えてから「そうだね」と答えたが、また目をおとした。
ボビーは優しくたずねた。「彼女のこと、聞いていい?」
第一印象? そうだね、悪魔というよりは、逆だろうな。
かと言って、天使ではなかった。
あれは、そう……
「マドンナ、かな」
曲はすべて終わり、いつか二人の周りは、いつものざわめきに満たされていた。
了




