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豚のしっぽ 弥勒の決死圏シリーズ#05  作者: 柿ノ木コジロー
安い八百屋に来たトシエ
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04



 あきれたように、キサラギがたずねた。

「で、申し込んだんですか?」


「うん」


 この件に関わり始めて四日後。

 サンライズは、給湯室で歯をみがきながら答える。

「今から行ってくる」

 洗面台に向かい髪を直し、ネクタイが曲がってないか確かめてからフロアに戻って手早く支度、ボビーとシヴァに声をかける。

「頼んだよ、シヴァ。1530帰社予定。じゃあ行くかボビー」

「ラジャー」


 特務課の乃木課長@シゴト大好き有休大嫌い人間が寄ってきた。

「出かけるのか? サンライズ」

「はい、現地調査です」

「違いますよ」

 キサラギが言いつけた。

「デートですってば」

「なにぃ!?」


 埒があかないから、彼女に直接アポをとったのだ。

 そうしたら意外にも

「……お茶くらいなら」

 はにかみながらもそう言った彼女。


「まだまだオレ、いけるかも」


 自慢げにそう言いのけるサンライズに、残って音声モニタを担当するシヴァがぽつりと洩らした。

「オバサンキラー」


 ボビーは軽めのメイクを再チェック、彫りの深い顔をややのっぺりさせて、少し離れたところから上司らの動向を見守る係だった。

「乃木さん、おシゴトですからね」

 渋い顔して見送っている乃木に、わざわざそう言い残し、サンライズの後に続いた。


 実際に会ってみようと決めたのは、初めてみた日の翌日に行った『スキャン』の結果だった。


 駅前で知人と話に興じている彼女を、少し離れた所でバスを待っているフリしながら、サンライズは彼女の思念を読みとろうと試みた。


 面白いくらい、何も兆候はなかった。

 すがすがしいくらい、一般的なオバサンだ。

 しかも、雑多な思考が次々と、遠くからスキャンしてもまるで立体パッチワークのように積み重なっているのがわかった。

 心配しているほどの頭痛は起らなかった。


 彼女とは相性がいいのかもしれない、ふと思ってしまう。


「でも一度くらいは直接話を聞いておかないとな」

 つい声にうれしさがにじみ出るリーダーに、ボビーがやや冷たい視線をあびせる。


「とか言ってリーダー、けっこうああいう趣味なんじゃないんですか?」

「どういう」

「ぽっちゃり系」


 自分でも意外だったが、まったく異論がない。

 彼は明るくうなずいた。

「かもね」

 足取りが軽い。

 反対に、ボビーの足どりは重くなったようだった。


 地下鉄の階段を駆け降りるサンライズ、しかしその時にはすでに目は真剣に前を向いていた。


 ふと気になったこと……小さな声がこう囁いている。


―― あまりにも、意識下の景色がきれいすぎる。


 それが唯一、しこりとなって心の片隅にこびりついていた。

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