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07

「コブタのしっぽ。こないだ教えてもらったのよ、イタリアン・レストランで」

 彼女は高揚した口調で続けた。


 先日の映画の帰り、ダンナが珍しく、カアチャン飯食ってこうぜ、って言ってくれた。新宿のイタリアン・レストランを予約しておいてくれたの、内緒で。

 おいしかったわぁ。ボーイさんもみんな陽気で、愛想がいいの。

 私たちのテーブルにきてくれたアマデオ、私が後ろ髪をちょこんと縛ってたのをみて、オオ! これはそう、日本語で何て言う? コーディ、かわいいコーディね、日本語でなに?

 ポニーテール、仔馬のしっぽ? 

 そこでダンナが言ったの、これじゃあ、短すぎる。

 仔豚だよコブタ。イタリア語で何ていうの?

「コブタは、マイアリーノね」

 コーダ・デル・マイアリーノ、コブタのしっぽだ。

 そう言ってダンナが笑った。

 私たちが楽しそうに笑ってたので、アマデオも「ひどいね」なんて言いながらも、言い方が気に入ったみたいで、

「とてもチャーミング。私もホラ、同じよ、ラコーダデルマイアリーノ」

 そう言って、自分の縛った後ろ髪も見せてくれた。

 記念に写真を撮ろう、ということになった。

 お店の人が今どきあまり見かけない、使い捨てカメラを出してきた。

 ちょうどまだ数枚フィルムが残ってる。これで撮りましょう。社員旅行で使ったはいいんですが、あと少しのフィルムがもったいなくて置いてあったんです。

 終わるまで撮ればいい。それから現像に出そう。

 そう言ったの。


「そのまま、ほかの物を撃って、弾が無くなったらアナタを狙えばいいのよ」

 笑顔のまま、少しだけ銃口をずらし、一発。そして

 次の一発は、どこから飛んできたのか。

 笑顔のままの彼女の頭を真横から撃ち抜いた。

『コーダ』ではなく、ムラカミ・トシエはそのままエニシダの茂みの中にふっ飛ばされ、そこで息絶えた。


 SATが駆けつけた時も、彼はまだ淑恵のからだを抱いていた。

 どんどん冷たくなっていく彼女を、少しでも温めたかった。

 公園の中の明かりが、一斉にともった。

 草むらから虫の鳴き声が、最初はかすかに、そのうちに競いあうように聴こえてきた。

 ついにストレッチャーと、ジッパー付きのバッグが到着し、彼女を連れ去った後も、サンライズはじっと、黙ってその場につっ立っていた。

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