06
「銃を、下に」
「できないの」村上淑恵に戻った女は、しゃくりあげながら言った。
「ターゲットを撃たなければ……暴こうとした人……あ、あなたを」
「なら、撃ってくれ、ここを」
彼は自分の胸を指した。防弾チョッキを付けていてよかった。だが次の言葉に青ざめる。
「近くにいたら、頭を狙う、って」
淑恵は泣きながらも、手元がぶれていない。
しかし、まだ引き金をしぼりはしなかった。
「アオキさん、お願い」記憶は戻ったらしい。
「助けて、お願い。ワタシ、こんなこと……もうイヤ」
「わかった」
多分彼が撃たれても、彼女は『コーダ』に戻ることはないだろう。この場で覚醒した、村上淑恵のままでいられるはずだ。
そうは言っても、ただの村上淑恵の前に自分が死んで転がっていたら、彼女は果たしてどうなってしまうのだろうか?
まず落ち着けよ、オレ。
サンライズは大きく息をつく。そして、声を出した。震えていない、いい兆しだ。
「トシエさん、よく聞いて。いい?」
「うん」
「引き金をひく前に、まず、一度息を吸って」
彼女が、ゆっくりと息を吸うのがわかった。
「ゆっくり吐いて」
はあ、と息を吐いている。しかしさすが、銃は微動だにしない。
「そうしたら、頭の中にイメージしてみて」
「どんな?」
「ええと、まず腕の力を抜いて」
「うん」まだ、腕は下がっていない。
「それから、どうすれば?」
「待って、少し考えさせて」
自分も手をあげたままだったのに気づいた。腕がだるくなってきた。
突然、彼女が涙を目にためたままおかしそうに笑いだした。
「分かったぁ」
「何が」
「コブタのしっぽ」
急に出て来た言葉に、彼はきょとんとする。




