03
通信が切れてから、ボビーはしばらく窓の外をながめていた。
駅に近いとはいえ、平日のこの時間は人通りも少ない。
二階からマスターが降りて来た。
「ああ……よく寝た」
ランチタイムにはそれでも二、三組の客がくる。そのお客をさばいてから片づけをボビーに頼んで、一時間程昼寝をするのが彼の近頃の楽しみだった。
「おはようございます、マスター」
「おはよう、ケイちゃん」
名前も聞かず、刑事だからケイちゃんでいいよな、と勝手に付けられた名前だったが、ボビーはそれなりに気に入っていた。つかの間の場所にふさわしい軽い名前だ。
「ホシは動いたかい?」
「いえ、」ケイちゃんはにっこりした。「今日はぜんぜん」
「何だか、浮かない顔だねえ」
「はい……同僚がちょっとへばってるらしくて」
「なんだって」
今度はマスターが心配そうな顔になった。
「ケイちゃんの同僚ってことは、やっぱりいい男なのかなあ」
「まだコドモですよ」
「オレから言わせりゃ、ケイちゃんだってまだコドモさあ」オレなんて、ここでもう五〇年近くここで店、やってんだぜ、そう言いながらグラスをみがき始めた。
「この前を通りかかる人間も、ずうっと眺めてきてさ」
手を休めずに、窓の外をみる。
「大人も通るし、コドモも通る、男も女も……何も考えてないヤツも、訳ありなヤツも」
そのワケありを追いかけているケイちゃんに、にやりと笑ってみせた。
「ここを通るヤツなら、たいがい覚えてるんだぜ、オレは」
冗談でしょ、とボビー、笑ってみせる。が、意外にも真面目な顔で
「いや、ホントに」グラスを棚に戻した。
「こう言っちゃ何だが、オレ、暇人だからよ」
通行人ウォッチが唯一の楽しみなのだと。
「ためしに昨日誰が通ったか、聞いてみるといいや」
「少し前でも?」面白半分に聞いてみた。
「多分、だいたいね」
にやりと笑って、カウンターの下から端のめくれたような大学ノートを出した。
「夜寝る前にね、覚えてる限りここに書き出してるんだよ」頭の体操だよ、と笑って言ったが、ボビーにはふとひらめいたことがあった。
動揺を隠して聞いてみる。
「先々週の土曜日に、足が痛そうな女の人が手紙か何かを出しに、ここを通りませんでした?」
リーダーとふたりで海老名サービスエリアに行った日だ。




