01
しばらくは、動きがなかった。
シヴァは作戦課の机を借りたまま、黙々と、宅配便の背後を探っていた。夜中もずっと働いているようだ。
パソコンに向き合っている時は、うっすらと笑みを浮かべて楽しそうにキーを叩いている。
しかし、
「ねえ、サンちゃん」
作戦課副主任の八木塚、通称メイさんがサンライズのデスクにやってきた。
「シヴァちゃんだけどさ、」
彼女はシヴァが大のお気に入りで、近頃彼が近くで作業しているのがうれしくて仕方ないようだった。が、今日は深刻な顔をしている。
「サンちゃんから言ってくんにゃい?」
「何て」
「少しは何か、食べるように」
「食べてないの?」
うん、と言ってから更に声を低くする。
「それに、寝てないのにゃ、ほとんどさ」
ずっとまかせっきりにしていたサンライズ、あわてて様子を見に行く。
シヴァは、いつものうれしそうな顔で端末の前にいた。
「シヴァ」
サンライズが呼びかけると
「まだ」
前をみたまま、それだけ答えた。
「ちょっと、休めよ」
シヴァは、このオジサン頭をどうかしたのか? みたいな目でサンライズのほうに目をむけたが、またすぐに端末に目を戻した。
「シヴァ」
少しきつい言い方に変えた。
「命令だぞ、休憩をとれ。十五分」
「いやだ」
会ったばかりの頃の彼を彷彿とさせる。シヴァは反抗的な目をこちらに向けた。そんな目つきに負けずにサンライズは更に固い声を出した。
「聞かないと、チームから外す」
シヴァはこちらを睨みつけたまま、言った。
「リーダーは、あの人が好きなんだろう?」
「何だって?」ついスットンキョウな声を上げた。「誰?」
「ユキミダイフクなオバサン」
もう勝手なあだ名がついてやがる。
「護りたいって、言ってたよね」
「ああ……言った」
「ならボクのジャマをしないで」
なかなか手掛かりが見つからない苛立ちだろうか、いつになく強い口調だった。
「シヴァ」
彼は、優しく呼び掛けた。彼の肩が少し緊張したのが分かる。
「頼む、」
そっと、肩にふれた。
「彼女も大切だけど……それよりもオマエの方が心配だから」
「ぜんぜん、出てこないんだ。調べても調べても」
「そういう時もあるさ」
いつの間にか、シヴァの手が止まっていた。しばらくたってから、小さな声がした。
「ごめんなさい、リーダー」
「こちらこそ、悪かった」
ログアウトしてから、黙ってそっぽを向いたまま、シヴァは席をたった。
メイさんが、大きくため息をついてから、彼に言った。
「いい子だにゃあ」
「ああ」
「いらにゃくなったら、こっちにちょうだいにゃ」
「やだよ、要らなくなんない」
ケチ、とののしりながらも、メイさんはほっとしたように席に戻った。




