04
二人は、村上淑恵のアパートへ向かった。
表からボビーに見張らせ、サンライズは慎重にドアチャイムを鳴らす。
少し間をおいてから再度鳴らしたチャイムにしぶしぶ応えるように、ようやく男がドアを開けた。
髪がキューピーのように尖っているが、キューピーに似ているのはそこだけだった。
偽NTT職員が言っていたように、かなりコワモテな感じがする。
しかし、彼は汗のように全身から恐怖を発散していた。
「どちらさん?」
声は低く、たぶんいつもの彼の声ではない。
サンライズでなくとも、彼の恐れはすぐに勘づくだろう。
「MIROCから伺いました、アオキと申します」
ダンナの頭の中に灯りのように文字がついた。
(コイツか)
あまりにもはっきりした意識の声、サンライズはついその声に答えないように、かなり気をつかって話を続ける。
「以前、奥さまからある人物についてお話を聞かせていただきましたが……今、奥さまはいらっしゃいますか」
(いないって言えオレ)「おりません、出かけてますが」
「お戻りは」
(トシエが元に戻るなら、助けてくれれば)「さあねえ……ちょっと、遠くの親戚までね、急な見舞いで出かけたんで」
「どちらまで、おでかけですか」
(医者はいい、って言いやがってアイツ)「あのねえ、」
ダンナはコワモテ路線でいくことに決めたようだ。
「あんた、何の用なの? 今忙しいから帰ってくんないか」
「分かりました。奥様にお願いした件がありますので、また伺いたいのですが」
「こっちから連絡するよ、都合ついたら」
今日はいったん引き揚げるしかない。
どちらにせよ、彼女は数日は動けないだろう。
ダンナの頭の中に浮かんだ光景がフラッシュした……トシエが足を引きながら、帰ってきた。どうしたんだトシエ、だいじょうぶか? うん、ちょっとケガ、でもだいじょうぶ、一週間くらい寝てれば治る。押し花休むって連絡しなきゃ。そう言って見せてくれた傷を、サンライズもダンナの目を通してみる。化膿しなければ、確かにあと三、四日もすればふさがるだろう。
「ひとつだけ、最後に教えてください」
そう言うと、目の前の男がびくっとした。
見た目よりずっと、気の小さい、優しい男なのだろう。
「金曜の晩は、どこかにおでかけになってませんか」
「え」
(電話がきた、すぐに宅配便で封筒、キーとメモを見たトシエ、『海老名サービスエリアに夜11時半までにお願い。最初は用賀駅、田園都市線の、判る?』)
「遊びにかい? 遊びになんて行けるわけないだろ。大事な用事では出たよ、夜連絡があってさ、茨城のおばさんちから、キトクだからって」(車を運転して、いつもみたいに駅のロッカーに寄って、トシエはカギ開けて荷物取って)
「夜オレが送って行ったんだ、イ、イバラキまで。なんなら電話してくれよ、イバラキに」(どうしようどうしよう、オレは約束しちまった。言わないって)
「すみません……お取り込み中のところ」
本心から彼はそう言って、失礼しました、と玄関を出た。
ドア越しでも、ダンナが声をころして泣いているのがわかった。




