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戦国物語  作者: 羽賀優衣
第二章 復讐
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四十話

織田との同盟はなった。

三人の尽力は凄まじく、その功績は義秀によって高く評価された。

今川家中では、義秀についで国親、氏詮、家康の順で序列としてある。

その後には武田勝頼、飯尾義広、芦川光隆、馬場美濃、高坂弾正などが続く。

そして、義秀が後継者として指名しているのは現在5歳になった千鶴の息子である龍王丸。

息子を支える人材は豊富で、隠居しても安心できる体制を整えていた。

また、織田との同盟にあった京の都に築造した今川の屋敷。

そこに足利将軍を迎え入れ、その側に小田原にいた今川氏真を送った。

歌人の彼にとって京は憧れの土地であるから、快く承諾してくれた。

ちなみに、義昭は京を追われ、毛利の元へと逃げている。

同時に、朝廷に大量の献金を行い、義秀は将軍と同位である従三位中納言を授かっている。




一方の関東では、北条氏康が亡くなった。

それと時期を同じくして、北条氏と敵対しつつあった古河公方足利義氏の兄である足利藤政によって殺害されている。

源頼朝公を奉った鶴岡八幡宮に訪れた際に銀杏の木の影から飛び出した藤政によって刺され、死亡した。

もちろん、犯人はその場で斬り殺された。

家中は幾つかに割れた。

氏照派、氏邦派、氏規派の三つ。

氏照は武蔵、氏邦は上野を地盤とし、そこに居城を持っていた。

氏規は伊豆の韮山城を居城とし、水軍を握っている。

その三人が対立を始め、争いが起こった。

ただでさえ混乱している北条氏を更に追い詰めたのは、やはり今川義秀だった。

将軍義高を利用して、自らを鎌倉公方に任命させたのだ。

鎌倉に赴任すると称して、三万の大軍を引き連れ、北条の領内に侵入した。

「殿。

これはいくらなんでも横暴が過ぎます」

国親がそう言って宥めるが、義秀はまともに聞く耳を持たない。

「俺の息子が北条を継ぐべきだ。

継承権はある。

何ら問題はない。

また、将軍の命に従う事も罪ではない」

そう言って、誤魔化し、数の暴力で氏規を降伏させ、その勢いのまま小田原を占拠した。

小田原は三勢力の三つ巴となっていた為、どこも手を出せない状態で拮抗していた。

故にあっさりと奪われた。

三万の大軍であり、内通者があり、構造に詳しい。

これだけの条件があれば、さほど難しくはなかっただろう。

小田原に入城し、上杉と改めて同盟を結んだ。

上野下野を上杉領とする代わりに、鎌倉公方就任を認めること。

これが条件だったが、謙信はあっさりと呑んだ。

あの男の興味は奥州と北陸に移ったようで、関東は後回しらしい。

おかげで今川は一気に動けた。

家康に二万の兵を与え、氏照討伐を。

氏詮に一万の兵を与え、里見家と協力し氏邦討伐を命じた。

様々な分野で氏康と同じ制度を用いていた今川が北条に代わっても大きな問題は生じなかった。

義秀は箱根で篭っている。

温泉にて療養中だ。

小田原で全体の指揮を取る国親はどうにも違和感を拭えずにいた。

あまりに急すぎる。

今川義秀のやり方は内側からじっくりと崩していくはず。

今回は外からの大きな圧力をかけることで、押し出している。

雑だ。

何かがおかしい。

まるで時間制限があるかのように思える。

急に義秀が息子二人を小田原に呼び、現場を見せ始めたことも変化の一つ。

他には、合議制を導入した。

今までの当主による独裁から当主に国親、家康、氏詮、勝頼の四人を加えての合議。

改革が一度に集中しすぎではないか?

不自然だ。

改革をするにしても、もう少し情勢が安定してからにすべきだろう。

今行ったことで少なくない混乱が生まれている。

それを知っていながら、当の本人は温泉旅行だ。

温泉に怪我の療治と言っていたが、果たして怪我などしていただろうか?

記憶にない。

では、何のために。

もしや、体の何処かが悪いのか?

それならば、急くのも納得が行く。

時間がないのだろう。

何にせよ、確認を取らねばなるまい。




義秀は箱根ではなく、駿府に戻っていた。

供の者はいない。

いないのではなく、目を盗んで出てきた。

彼らは義秀が駿府の奥に居ると思っているだろう。

だが、実際は千鶴たちの居る奥ではなく、秋の住んでいる屋敷を訪問している。

「久しく」

隅々まで掃除の行き届いた埃一つ見当たらないやたらと綺麗な廊下。

四季の花が植わっている庭。

池に鯉が泳ぎ、橋を渡った中島に小さな東屋が建っている。

そこに二人は居た。

「追放した女に何の用かしら?」

「そういう皮肉はいらないよ。

ただ謝りに来ただけだ」

義秀は池で跳ねた鯉を眺めているが、その姿が酷く疲れて見える。

「俺の寿命とやらはもう半年はないそうだ。

天下は取れない。

どころか、半分も行っていない。

面白い世界を見せてやると言っておきながら、この様だ。

それを詫びにな」

「構わないわ。

元から期待してなかったもの」

「そうか。

なら、いいんだ」

「でも、そうね。

あの世で私を楽しませてもらおうかしら」

「は?」

「一人で死ぬのは寂しいでしょう。

私も一緒に死んであげるわ」

「どうせなら殺してくれないか?

病で苦しんで死ぬより馴染みの女に殺される方が甘美だ」

「それを言うのなら、私はあなたに殺して欲しいのだけれど」

「心中か?」

「そうよ」

「じゃあ、今じゃないけど一緒に死のう」

「いいわ」

「だが、二月待て。

その間に引き継ぎをしなけりゃならないからな。

まずは親父のとこに行って、次に家臣どもに言わねばならん」

「そう。

では、大人しくここで待ってるわ」

「残り僅かな命だ。

そんな俺と共に行動してくれても良いではないか?」

「そう頼まれたら断れないわ」

「では、早く動くとしようか。

臨済寺だ」






臨済寺には武田信玄と今川義元が居る。

この時代を代表するにふさわしい二人は義秀の病を本人から聞き、唸っていた。

「息子が父より先に死ぬとは不幸者め」

「そうは言うが、親父よ。

これはあれだろう。

時代が俺を選ばなかったということだ。

仕方あるまい」

軽い調子で言った義秀に信玄が訊ねる。

「一つ聞きたいが、今後はどうしようと考えていたのだ?

わしらはお前の夢に惹かれた全貌を明かしてくれても良かろう?」

「そうですね。

言いましょうか」

義秀は少し言葉を切って咳をし、続けた。

「簡単に言えば、俺は関東を平定後に、足利将軍を呼び、殺害するつもりでした。

その後、日の本ではない新たな国として関東東海甲信に及ぶ国家樹立が最終目標と言ったところです。

その後は、奥州と北陸討伐ですかね。

まぁ、今となっては夢ですよ」

「息子にはやらせないのか?」

信玄の問いに笑みを浮かべる。

「俺が目指した国は姉弟が対等であり、血筋に縛られない国です。

ですが、無理です。

俺の夢を継ぐものはいません。

息子に継がせた時点でそれは俺の中で崩壊します。

しかし、俺の子でないものに国を渡したとなれば、それもまた乱の元となりましょう。

故に無理なのです。

まぁ、それは建前というやつですが」

「では、本音とは?」

「俺の横にいるこの女との約束でして。

面白い世界を見せてやるとかつて誓ったんですよ」

義元が顎に手を当てて、秋を眺める。

「初めて見る顔だ。

わしに紹介しておかんか」

「最期ですし、紹介しましょう。

今は秋と名乗らせていますが、元の名は千秋と言い、俺の恩人であり、共犯者であり、初恋の相手ですよ」

小さく秋が頭を下げる。

「では、時間もないのでこれにて」




駿府に戻り、休まずに小田原に向かい、重臣を集めた。

そこで病のことを告げ息子の龍王丸を元服させ氏秀と名乗らせ、当主にすると言った。

ただし、まだ幼いため国親が後見役となり、色々と教えること。

政治は合議に基づくこと。

「あと一つ」

色々と告げて、最後に発表する。

「俺は病ゆえ隠居し、駿河に移る。

感染症であるから城で暮らさず、別でだ。

俺が去り次第、今川義秀死去の報を各国に出せ。

そして、喪に服すを理由に織田と里見、上杉とはもう一度停戦を。

国親が指揮を取るように。

では、これにて」

そして、いつものごとく。

皆が何かを言う前に退出して消えてしまう。

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