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戦国物語  作者: 羽賀優衣
第一章 美濃統一
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第四話

秀政は真っ直ぐに駿河には向かわずに尾張に寄った。

自分の目で尾張織田家の家督争いの様相を見ておきたかった。

実際、信長の状況は芳しくない。

秀政の中では道三の娘婿である信長が国主になると道三が尾張に攻め込むことはなくなる。

それはそれでいいが、尾張は兵も弱く石高も高くはないが、商業は盛んだ。俺ならば手中に収めたい。

だから、信行が勝てばいいと思っていた。

しかし、一度信行と信長の小競り合いを見て、考えは変わった。

信長軍の一糸乱れぬ行軍には目を見張るものがある。

あれはうつけなどではない。

天下に名を轟かせる斎藤道三が認めただけのことはある。

あれはこの争いに勝つだろう。

今の今まで知られずにいた名将だ。

ただ不運はその才を理解するものが少ないことだけか

尾張も人材不足か

秀政は信長に一種の同情を抱き、尾張と三河国境まで来た。

この付近は今川と織田が争っているせいか荒れ果てている。

家は崩れ、廃墟とかし、田は兵たちによって踏まれ、民は長く続く戦に疲労しはてている。

「ひどいな……」

兵たちが略奪をしていくせいだろう。

農民たちは武器を持った秀政を異様なまでに警戒した。

「あっ、俺はなんもしねぇよ?ただの浪人さ」

と一言言うだけで信じてもらえるのが逆に悲しい。

そんな浪人に見えるのか俺は!

「あの子はどうしたんだ?」

なぜか村人たちと仲良くなった俺はふと目に留まった少女について訊ねた。

彼女は木陰に所在なさげに座り、混ざりたそうにこちらを見ていた。

「あぁ。あれは親が居ない孤児でしょう。わしらには娘っこ一人も養う余裕はないで」

「ふむ」

秀政は村人たちが「関わらん方がいいですよ!」と止めるのを無視して話しかけた。

「やぁ。元気?」

少女は話しかけられて驚いたのか目をパチクリとしている。

「……あなたは私を嫌わないの?」

「はぁ?」

「だって、私はこの村に来て女を犯した兵の子なんだよ?」

戦国時代は戦に負けた方の民は別の国の人間で同等の扱いをしなかった。

村の女が犯されたり売られたりするのは日常茶飯事だ。

ちなみに、俺の兵には略奪や強姦の類は一切禁じている。

破った者は誰であれ斬っている。

現にこの前、俺の重臣を一人斬った。

重臣だからと見逃せば、その規律は意味がなくなる。

だから、無情に斬り捨てた。

「それは君を嫌う理由じゃないな」

ポンと少女の頭に手を置く。

土で髪がパリパリする。

顔は汚れてはいるが、整った顔立ちをしている。

年も秀政より3、4つ下くらいだろう。

「でも、村の子たちは私を虐める」

「それは怖いのさ。今の世で誰かにそうやって当たらないと生きていけないんだ。心が弱い」

「……そうなの?」

「そうだ。それに対し君は強い。虐められても堪えてる。偉いことだよ」

「偉い?」

「ああ。俺はそう思うよ。君はその子達を憎んでないだろ?」

「私のお父さんがひどい事をしたんだから仕方ないもん……」

「そうかな?そうは思わないけど。親は親、子は子だ。でも、憎まないっていうのはねすごい事なんだ。心が広い優しい人間じゃなきゃできないんだよ」

頭を撫でてやると少女は照れたように笑った。

「笑うと可愛いじゃないか。やっぱり笑顔がいい。苦しくても笑っていればいつか幸せになれるんだ」

そう言って秀政は立ち上がった。

ここに長居する理由もないし、そろそろ発つ。

寄り道して駿河に着くのが遅くなったら悪いからな。

「じゃあな」

立ち去ろうとした秀政の裾を少女が掴んだ。

「行かないで」

少女は潤んだ目で秀政を見上げる。

「また一人になっちゃう」

「あー、そうか。…………じゃあ、一緒に来るか?」

「うん!」

「よし、一人旅は寂しかったんだ。名前は?」

「茜」

「俺は秀政だ。秀政って呼んでいいぞ」

秀政は少女が足に青痣を作っているのを見て、歩かせるのも悪いと肩車をするためにしゃがむ。

「ほれ、乗れ」

「え?……でも……恥ずかしいし……」

一丁前に照れやがって、このぅ

「ほれ、早く」

急かすと躊躇いながらも乗った。

確認して立ち上がる。

「軽いな。ちゃんと飯食ってるか?」

「一日一回ちゃんとキノコ食べてる」

あぁ、なるほど。

孤児だって言ってたな。

山ん中でキノコ探して食ってんのか。

道理で軽い。

でも、みんなこんな暮らしなんだろう。

別にこの子が例外じゃない。

「茜」

「?」

「走るから頭に捕まってろよ!」

「え?うわっ!」

急に走り出した秀政にビックリして茜が悲鳴をあげたが、すぐに笑い声に変わった。

「そうだ。笑え笑え」




宿に戻って茜を風呂に入らせ(まともな風呂は初めてらしく怯えていたが)食事をし(白米が出て来た事に感激していた)発とうと思ったが、茜が寝てしまったので、もう一泊する事にした。

「俺も柄になくはしゃぎすぎたな。わざわざ無理言って食事を豪華にしてもらうなんて。国親が知ったら驚くな」

茜にいいもの食わせてやろうと白米にしてもらった。

その分、きっちりと料金は取られたが、茜の笑顔で帳消しにしておこう。

どうやら俺は妹のようなものができて嬉しいらしい。

俺には一歳上の兄と2つ下の妹がいるが、兄は何かと癇に障るやつだし、妹は生意気で反抗期な上に関わると面倒ごとになる。

だから、茜という旅の同行者が恋しいのだ。

そんな事を考えながら、宿の者に出かける事を伝言してくれるように頼み、街に出た。

茜の着物を買うためだ。

旅をするのにあれでは逆に目立ってしまう。

泥だらけでツギハギだらけ。

茜にはまだ言ってないが、今川義元に会いにいくのにあれでは不便だ。

最も湯帷子で行こうとしている俺が格好について言える義理はないが。

「湯帷子でいいよな」

ふざけて十二単とか買ってもいいが、どこで売ってるかわからないし、着せ方も知らない。それに旅をする格好ではない。

あと、予算的にキツイ。

俺の羽織の色と同じ水色の女物の湯帷子を買って、さっさと宿に戻る。

「あっ、おかえりなさい」

「起きたのか。早いね」

そう言いながら秀政は湯帷子を渡す。

「く、くれるんですか!?」

「その格好で旅はできないからね」

「ありがとうございます!一生大切にします……」

「いや、着てくれよ。着てもらうために買ったんだから」

「そ、そうですね!」

「着替えたら教えて。外にいるから」

女の子の着替えを見る趣味はないからね。

見たいけど。

「着替えました」

そう聞こえたので部屋に戻る。

「おぉ」

風呂に入って綺麗になり、着物も変えた茜は美人ではないが美少女だった。

黒の短かい髪に整った顔立ち。人形のように綺麗だ。

「どうでしょうか?」

「綺麗だよ。驚いた」

「そ、そうですか!良かったぁ……」

心底ホッとしたらしく胸をなでおろして居る。

「明日、宿出ても大丈夫?疲れ残ってる?」

「いえ、大丈夫です!体力だけが取り柄なので!」

「そう。じゃあ今日はゆっくり休みな。おやすみ」

秀政はまだやる事があるので先に茜を寝かせて再び宿を出た。

三河に入る際の関所を通る為に許可をくれという旨の書状を前もって送って置いたのだが、返事にこの宿まで送り届けさせるとあった。

それを待っている。

「秀政、久しぶり」

少しぽっちゃりした青年が秀政を見つけて駆け寄って来た。

「元康!お前が来たのか!」

松平元康。

今は今川義元に使える将だが、松平家はかつて三河を治めていた現在は家で今川家に隷属している。

その現在の当主だ

俺とは旧知の仲だ。

ちなみにこの松平元康。

後に徳川家康と改名するが、今はまだ松平元康と名乗っている。

「聞いたぞ。瀬名の姫を嫁にしたらしいな。趣味悪いぞ」

瀬名というのは今川家の分家である。

その瀬名家の姫が松平元康に嫁いだのだ。

「義元様の命だ。逆らえまい。これで秀政は義弟だ」

「年下の義兄なぞいらん。しかし、まぁ、逆らったら俺みたいに国外追放だしな」

ははは、と秀政は笑う。

「いやぁ、まさか追放なんてありえないと思ってなかったから、あの時はやりすぎたな」

過去の自分の行いを振り返るが、全く悔いるようはない。

「やり過ぎなんだ。家臣たちの前で義元様を馬鹿呼ばわりしたり、田舎貴族だなんて言ったら怒るに決まってる」

「そうだな。俺でも怒る」

「なんでそうわかってて言ったんだよ」

「言いたかったからさ。後で土下座して謝ったんだけど、氏真が諫言したらしく見事国外追放になったけど。まぁ、他にも理由はあるが」

ま、おかげで今の俺があるわけだけどと皮肉る。

「そう言えば聞いたぞ。長良川の戦いで大功をたてたらしいな!」

「ん?ああ。三河まで伝わったのか」

「義元様はお前は放逐した事を後悔してたよ。『あやつ実は鯛であったか』ってな」

「釣り逃がした魚は大きいぞ」

「おおよ。だが、氏真様は気に入らなそうにしてたがな」

「氏真は俺を嫌ってるからな。家督を取られるんじゃないかと怯えてる。別に老大国今川の家督なんぞ欲しくもない」

「だが、天下の一番近いのは義元様だ。武田・北条と手を結び、三河・遠江・駿河の三国を支配する今川家こそが天下に手を伸ばせる位置にいる」

「染められたか、元康。今川が京に上るには尾張織田・美濃斎藤・近江の六角・浅井を潰さねばならん。織田を潰せど、斎藤家の稲葉山城、六角家の観音寺城、浅井氏の小谷城は天下に名高い城。落とすのは容易ではあるまい。これでは何年かかっても上洛なんぞできない」

「だが、美濃も尾張も国内で争っている。今が好機であろう」

「そうだな。だからこそ、俺がここに来てる」

「?」

「今川にとっての好機は俺ら斎藤家にとっては不利でもある。それをなくす為に交渉の席を設けた」

「なるほど」

「その話はいいとして早く関所の通過許可証を寄越せ」

「そう言うな。久々の再開だ。飲まないか?」

まだ俺もお前も十代だろうに飲むのか?と秀政はからかいながら、元康を連れて街の中に消えていった。




空が明るくなるまで酒を飲みふけった元康は若干酔っていた。

あれだけ飲んでこれしか酔わないのだから酒には強いのだろう。

だが、秀政はもっと強かった。

「義元様は松平を潰そうとしてる!その上で裏切らんように親族の瀬名家の姫を妻にさせおった!」

「松平家独立の道は潰えたか」

「そうよ!憎きは義元。だが、松平はこれしきで終わらん!」

「ふむ。元康よ、俺に一案ある。乗らんか?」

「なんだ?」

「松平家を再興させた上で今川家と対等になる方法だ」

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