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戦国物語  作者: 羽賀優衣
第二章 復讐
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第二十九話

それから一ヶ月。

両軍は見合ったまま硬直状態にあった。

義秀は美濃勢の侵攻による尾張勢の撤退を待ち。

松平は尾張、三河の連合で今川を追い返そうと画策し。

織田は戦闘を避け、水面下で織田今川間の松平を除いた交渉を行い。

三者それぞれが各々の策を働かせながら、戦場を飾る。

今川の赤鳥は女の髪ではなく、戦場に立つただ一人、今川治部大輔を飾り立たせる。

美濃とも通じつつ、織田との交渉を進め、松平を潰しにかかる。

更には、伊勢の北畠をも動かした。

尾張が手薄なのを見た北畠氏が兵を動かした。

更に今川との密約を急いだ織田を焦らし、更なる譲歩を引き摺り出し続けていた治部大輔義秀は駿府からの一報を受けて、わりと対等な形での同盟を結んだ。

織田と今川が互いの当主の妹をそれぞれの一門に嫁がせる事で秘密裏に同盟が結ばれた。

織田の姫であった犬姫を今川一門で今川治部大輔義秀の義父である瀬名氏俊の息子である氏詮に嫁がせ。

今川の姫である桜姫を織田一門で犬山城主の織田信清に。

かつては争った仲であっただけに家臣団からは反対の声が大きかったが、無理やりに押し通した。

互いの姫を送りあった後に織田は松平との同盟を破棄し、撤退。

今川は美濃との同盟破棄後に岡崎城への総攻撃を仕掛けた。

織田の突然の撤退に混乱していた松平兵は次第に押され、やがて岡崎城は陥落。

三河が今川の支配下に戻り、松平家は、今川一門となり、形を残した。

義秀は松平家康の首を切りはしなかった。

一門として、重用する姿勢だ。

三河勢は降伏して、すぐに遠江の高天神城近くの城に入れられた。

一応の指揮官は松平家康で、軍監として白河国親が兵を連れて同行している。

武田晴信が同盟を破棄し、遠江に侵攻してきた。

この情報のせいで、義秀は岡崎陥落を急ぎ、織田との対等な関係での同盟を結ばぜるをえなかった。

また、この行動によって、武田義信と結婚していた今川家の姫である嶺松院は離縁させられ、相模の北条氏政に嫁いでいた晴信の娘、黄梅院も離縁した。

更には更に。

今川との同盟破棄に強く反対し、晴信と真っ正面から意見が対立した義信が東光寺に幽閉されるという事件に発展してもいた。

謀反の疑いあり、と見なされ捕らえられているのだ。

そのせいで今回の武田軍には最強を謳われる赤備えが同行していない。

その状況下。

軍事行動は全て国親に委任し、義秀は専ら隠密行動と他家への外交を指揮していた。

まずは、武田義信を救出し、飯富虎昌とその赤備え兵をこちらに引き抜くことを第一目標として、武田領での工作。

次に、三河での反乱分子が事を起こすまえに叩き潰す役割を。

三つ目には北条家の動向を探るために、間者を何人か放っている。

外交的には、前から計画していた北条と上杉の停戦、更には武田の代わりに上杉を加えた三国同盟を目標にせっせと文を書いている。

後は、尾張織田との友好関係の維持、京の天皇と将軍への貢物。

それらの行動をあらかた指示すると、義秀は屋敷の奥に向かい、日が暖かければ女の膝を借りて、昼寝をし。

天気が悪ければ、家臣の子供を集めて、文字を教えている。

小さな塾には義秀だけでなく、その正室である千鶴姫も参加している。

仲睦まじい夫婦となっている二人だが、義秀は考え事をする時はあまり千鶴姫の元へは向かわない。

というのも、もう先に姫を生んだ側室がまた腹に子を授かっている。

腹が大きくなり、目立ってきたこの頃はよく訪ね、声をかけている。

ちなみに、今や姫は5つになり、可愛らしい姿を見せている。

義秀は暇があれば、姫の前に顔を出し、一緒に戯れている。

正室、側室の間に不和というものはなく、実に良好な関係である。

夫婦仲良いのは良いのだが、姫の父は実に娘思いというよりかは、心配性だった。

かなりの頻度で氏康から手紙が届く。

要約すれば、

二人とも元気ですか?

特に千鶴は寒くなってきたが、慣れないと土地で風邪などひいていないでしょうか?

では、健康を祈っています

ということだ。

これを受け取った義秀は苦笑をこぼせざるを得なかった。

娘が大好きなのだなぁ、と伝わってくる文面だった。

『共に息災です。

夫婦仲は実に良好で、姫のように素晴らしい女性は自分にはもったいないと引け目を感じるほど、支えてもらっています。

雪の肌に、花のように美しい顔立ちであり、世に稀な美女。

足して天女のように広く細かな気配りのできる心。

私は男ですので、女には弱いものですが、『一顧傾人城再顧傾人國』の通りになってしまうかもしれません。

なので、惚れ込みすぎないよう心掛けているのですが、姫の魅力はおさまることを知らずに時と共に増していて、少々困っています』と書いて筆をおいた。

北条からの使者に土産と一緒に持たせて、帰らせた。

純粋に自慢をしたかったのもあるが、氏康へのご機嫌とりだ。

さて。

義秀は書き終えると、千鶴の元へは行かずに側室の秋の所で涼みに向かった。

秋というのは二人いる側室のうち、身籠っていない方だ。

「あら、殿。

今日はお早い訪問で」

「まぁ、面倒ごとは国親に任せてあるからな」

「武田が攻めてきたのでしょう?

そんな適当でいいのですか?」

「構わん。

国親にやらせておけば間違いはない。

あいつが敗けるのなら、仕方が無い。

俺が指揮をとっても勝てないってことだ。

俺よりもあいつの方が優秀だからな」

「随分と白河殿を信頼されているのですね」

「まぁ、血の繋がりよりも俺はあいつの方が断然信頼できる。

国親は俺にとって変え難い存在だからな」

「まぁ。

もしかして、私は殿を取られてしまったのでしょうか」

「別に男色の趣味はない」

「でも、羨ましい

私も殿にとってかけがえのないものになれたらば、良いのに」

「はははっ、お前は大事だよ」

「そんな事思ってもいないくせして。

仮に本当でもそれは道具としてでしょうに」

秋は膨れて、わざとらしく言った。

「そういじけるな。

それよりも、武蔵の旧友にちゃんと伝えたか?」

「勿論。

でも、彼らを集めてどうするのですか?

無法者の集まりですよ」

「だからだろう。

法に縛られない裏側で動かすにはああいう連中がちょうどいい」

「まったく。

昔の仲間を随分と下に見るのですね」

「俺はあいつらを仲間なんて思ったことはないよ。

駒であれこそ盟友ではない」

「私も?」

「秋は違う。

恩人であり、俺の大切な女だ」

「まぁまぁ。

そんなはっきりと言われたら照れますよ」

「だったら、照れる様子を少しは見せたらどうだ?

秋には命を救われてるからな。

あいつらと同じには扱えないだろう。

それに、俺がこうしてここにいるのは秋のおかげでもある」

「そんな大層な事は何もしていませんよ」

「お前からしたらそうでも、俺にとって違う。

まぁ、そんなことはどうでもいい。

来月、鷹狩に行く。

お前もついて来い」

「鷹狩に?」

「ああ。お前と千鶴と一緒にな。

小田原の方に行く。

先に許可は得てある。

同行すれば、良い」

「しかし、鷹狩に女を伴うのは如何なものかと」

「鷹狩は遊びだぞ。

女を連れていた方が楽しかろう」







武田の侵攻を何とか退けた白河国親が駿府に帰還すると、驚いた事に武田義信との名乗る気品ある顔立ちの青年が滞在していた。

まさか、と思って聞き正せばあの甲斐の虎の嫡男であるという。

武田晴信が出陣している隙を狙って、脱出させたらしい。

しかも、飯富虎昌までついて来ている。

彼の兵である赤備え兵は脱出の際に戦闘を行ったらしく、数は減っていたものの迫力は相当なものだった。

武田に対する切り札を手中に収めたわけだ。

「武田晴信、強敵ではあるが勝てぬわけではない。

彼の失策は外交にある」

と義秀は言う。

「彼は領土拡大のために幾度も同盟の破棄を行っている。

そのせいか、他勢力からの信頼に欠け、周囲に敵を作りがちだ。

今でさえ、今川、北条、上杉の三つに囲まれている。

美濃の斎藤とは友好的であるものの敵を増やしすぎ。

組まれたら手が回らない。

北条と上杉が北関東を巡り、争っている今ならば、大丈夫だがそこがまとまってしまえば、武田は終わる。

ゆえに。

我々が行うべきは駿相越の同盟。

それがならなかったとしても、甲斐の正当後継者である義信は駿府にいる。

大義名分は十二分。

武田晴信を隠居させ、義信に家督を譲らせる」

正当であり、勝機もあると述べ、

「しかし、今川は三河を併合したばかりでまとまりが弱い。

だが、武田はより崩れやすい。

都の名門公家の血が入っている義信は甲斐の田舎者にとって天子に等しい。

あいつがこちらについた事は少なからず動揺を与える。

加えて、最強が寝返った。

今川につく輩は多少なりいる。

すれば。

甲斐を取ることは可能だ。

まずやるべきは信濃を奪う。

甲斐は後回しだ。

先に信濃勢を寝返らせ、北条と共に甲斐を突く」

行動案を提唱する。

「意義あるものは言うが良い」

静まり返った広間に義秀の声だけが通る。

「異議なし。

では、各々に指示を出す。

名を呼ばれたものは俺の前に出よ」

義秀による武田家攻略が動き出す

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