表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国物語  作者: 羽賀優衣
第二章 復讐
24/41

第二十四話

瀬名秀政と朝比奈泰朝が大井川を挟んで対陣し、両方の先陣が激突したのは、朝日が昇ったときだった。


瀬名秀政方 飯尾連竜

朝比奈泰朝方 由比正純


この両者の軍が先陣だった。

この時。

秀政は戦の状況ではなく、自分が下した判断について考えていた。

美濃を捨て、桶狭間では織田の勝利になるよう工作したりとして来たわけだが今となっては全てが自分に不利な状況を作り出している。

当時は氏真が持っているすべてのものを奪った上で嬲って殺すことだけを目標とした故に、今川の勢力拡大を拒んだがあそこで織田信長を義元に倒させておけば良かった。

濃尾平野を有する尾張は東海から覇を成す上では必ずや必要となる。

三河、遠江、駿河を合わせた石高は尾張一国とそう差はない。

また、尾張と美濃は関東、東海と中国、近畿を結ぶ重要な地点でもある。

あの二国を手中に収めることができれば天下に手をかけた状態になりつつあると言える。

あそこで信長が倒れ、義元が尾張を奪取後に毒殺でも何でもして、適当に家中の混乱を生じさせ、十二分に掻き乱した後に介入すれば良かったのだ。

そうすれば、本来の俺の勢力基盤である美濃を容易く手に入れることが出来た。

それに織田信長と親交があり、似ていると彼に評させた俺ならば織田の遺臣を取り込むことも可能だろう。

尾張さえ氏真から奪えれば、後はそう難しくなかった。

何でそう考えが巡らなかった。

今川がでかくなれば、その分手間が増えるとしか思えなかったのか

馬鹿だ。

余計に無駄な手間をかけている。

だいたい、まだ義元を生かしているのは危険だろう。

今や、桶狭間で何があったのかを知っているのは俺の親衛隊の一部と国親に義元だけだ。

国親たちが漏らすことはないが、義元は違う。

ただ、曰く罪滅ぼしとやらで黙秘を貫いているに過ぎない。

彼を生かしておいたおかげで俺は今川に復帰し、大衆に義元が俺を支持していると認識させることはできたが、いつ覆るかわかったものではない。

駿府を占領後すぐにでも殺さねばならん。

余計な事を話される前にすべて消さねば。

桜も邪魔だ。

どこまで掴んでいるのかは知らないが、非常に厄介なことにあいつの所には鶴がいる。

あの女が居る限り、俺の企みは知られていても不思議だとは思えない。

殺しておきたいが、俺に鶴は絶対に殺せない。

桜を消そうとすれば、鶴が邪魔をする。

だから、始末は難しくなる。

まずは引馬城に捕えられている松葉を放免し、泳がせてみるか

それとも早々にどこかの家との婚約を結んで、追い出すか

そうだな。

それがいい。

付いていく侍女には鶴以外を選ばせればいい。

よし。

まずはこれだな。

駿府に入ってからの事を決めた。

次は目の前の戦に集中せねばな。

おそらく先鋒は負けるだろう。

だが、全くの問題はないどころかそれを願っている。

飯尾連竜が自ら志願し、負けたとなれば後で責任を追求することができる。

それに、そろそろ頃合だ。

「飯尾隊が敗走しました」

伝令の声を聞き、秀政は頷く。

そう。

それでいい。

だが、風は向こうに追い風となった。

すぐに戻るだろうが。

「第二陣の井伊殿より由比正純を捕らえたとの報告!」

直虎か

今回もいい働きのようだ。

連竜の所領のいくばくかを井伊領にさせよう。

おかげで勢いは消せた。

再び流れは中心に戻った。

「合図だ。

鐘をならせ」

太鼓ではなく鐘だ。

太鼓だと聞き逃す可能性があるが、鐘ならば戦場に響き渡る。

「敵の岡部元信隊が我が方の旗を挙げました!」

岡部正綱隊、安部元真隊、朝比奈元長隊、朝比奈信置隊といった比較的大きめの領主が続々と寝返りを始める。

調略は簡単だった。

彼らは氏真よりも義元を慕っている。

その義元が秀政を支持したのだ。

彼につくのが道理だ。

合戦の初期段階で勝敗は決している。

戦とは運任せでやるものではない。

事前にどこで雌雄を決するかを見定め、敵を調略し、こちらの勝利条件が揃った舞台を用意する。

氏真側にはそれをやる余裕がなかった。

また、大勢は既に決していたと言ってもいい。

北条と武田はこの内戦に不干渉を貫く事を決めていた。

その中で義元が瀬名秀政を支持するとなれば、氏真は一気に不利になり勝ち目は薄くなった。

裏切りは連鎖する。

敵が有利と知り、最初の一人が裏切れば、次々と我先にと寝返る。

この戦は特にそれが顕著に出てしまった。

岡部元信や安部元真が寝返ったとわかり、朝比奈泰朝に率いられた総勢七千四百の内、三千は寝返り、二千は勝手に戦場から離脱した。

半数以上の兵に棄てられた朝比奈泰朝はまだ若い。

氏真や秀政と同い年だ。

朝比奈氏は今川家の重臣の家ではあるが、氏真の寵愛のおかげで今の立場を持っている。

それをよく思わないものは多く居るだろうし、氏真や秀政のような今川一門であるならばまだしもたかが一家臣の家の24の若造が総大将であることを不満に思う者は少なくなかった。

氏真本人が出てくれば、話は変わっていただろう。

しかし、彼は戦場に姿を見せていない。

だから、この結果が生まれている。

それには当然、朝比奈泰朝も気が付いている。

ゆえにすぐに撤退という指示を出したのだ。

ここで戦うよりかは一旦は引き、氏真様を大将に再び戦場に赴こう

そう決めた。

秀政からすれば、敵はまともに戦わず引き上げ、味方は膨れ上がった。

その大軍を連れて、駿府へ一直線に向かう。




秀政はそれから程なく駿府城を完全に包囲した。

一匹の蟻でさえも抜け出せないだろう硬すぎる囲いだった。

城内の朝比奈泰朝は既に諦めていた。

負け戦であることは確実だ。

それにこうなっても尚、氏真様は戦う気がない。

城内の士気も低い。

これでは、すぐに落ちる。

そうわかってはいるが、大将は氏真なのだ。

彼の決定を皆が待ち望んでいる。




秀政は朝比奈泰朝や氏真に対して使者を送った。

降伏を促す内容の書簡を持たせてだ。

詳細な内容としては、

1、朝比奈泰朝は遠江及び駿河を混乱させた責任を取り自害する事

1、今川の家督を無条件で瀬名秀政に譲り、駿府城より退去する事

1、掛川城は直轄領とし、氏真は領地を持たず客人扱いとする事

1、以降、無用な争いを起こさないと誓う事

1、上記のこれらを全て認め、無血開城を行う事

1、氏真は子が生まれた場合、出家させ寺に入れること

こんな感じだ。

城内の実権を朝比奈泰朝が握っているだろうから一二にもなく突っぱねるだろうと考えていた。

が、氏真は朝比奈泰朝の自害だけは除いてはくれないかという提案をした。

家騒動が始まって以来、初めて彼が自分から動いたのだ。

秀政としては迷わなかった。

承諾した。

というよりも、元々自害させる気なんてなかった。

が、一応は提案しておく必要があった。

何はともあれ、秀政は一万四千ほどの軍勢で駿府に入城した。

すぐに領内全域に御触れを出した。

氏真は隠居し、名を『今川秀政』と改めた瀬名秀政が家を継ぐと発表したのだ。

北条と武田に対する外交も再開した。

北条に対しては秀政が佐竹や宇都宮と言った反北条の関東の諸侯との間に結んだ密約を破棄することで、変わらず同盟関係の継続が成されたのに対し、武田は厄介だった。

義信と個人的な友好関係を築きつつあるも、国主である武田晴信はどうだろうか

上杉との同盟を結ぶ事は中止し、今までの友好関係を維持するだけに収め、刺激する事を極力避けた上で甲斐に塩や魚を送ってはいるもののどうにも反応が良くない。

ここいらで結び付きを強固にしておきたい。

それにはやはり婚姻が手っ取り早いが秀政としては正直やりたくない。

というか、秀政の縁者は多くはない為、武田に母が違うとは言え姉が嫁いでいる以上はここでもう一枚の手札を切る訳にはいかない。

今後の進展に関わってるくるのだ。

だが、桜の年齢からしても少々厳しいものが出てきている。

20前半までには必ず何処かに入れなければならない。

それを過ぎると行き遅れと思われて、向こうに不快感を与える場合がある。

秀政としては、上杉に嫁がせたかったのだが、武田の手前でそれをやったら確実に潰しに来るだろう。

今はまずい。

秀政がはしゃぎすぎたせいもあり、桶狭間の戦いで中枢に居た人間をほとんど失い、国家としての組織が壊れた状態である今川は秀政が当主になっても変わらず不安定なままだ。

挑発したくはないと思いつつも、してしまうのが秀政の悪いところだ。

先の高天神城の戦いで捕らえた裏切り者を武田に送り返します。という旨の書をわざわざご丁寧に送り付けた。

「欲に目が眩んで裏切るような輩はいつまた裏切るかわからないので武田に返します。

どうぞ適当に用いてやってください」

という内容だ。

これは武田晴信の琴線に触れたのかなんなのか。

それとも若いのに堂々と喧嘩を売ってきた事を評価したのか

面白い!だが、気に食わん

と言って、義信に秀政について聞いたという話が駿府に届いた。

ちなみに返還はしなくていいと言われたので、そのまま登用した。

それに加えて、下野の抵抗も激しくなり、越後の龍も動き出したので表面上は友好的な関係に成りつつある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ