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戦国物語  作者: 羽賀優衣
第二章 復讐
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第十九話

瀬名秀政率いる美濃勢が五百

飯尾連竜含む遠江の領主が六千八百。

計七千三百の兵を連れ、氏真配下小笠原氏が守る高天神城の周りに陣を敷いていた。

ただ、これは兵数を増すために非戦闘員も含んでいるので実際はもう少し少なくなる。

相手を威圧する意味合いを多く含んでいるので、今回はこれでいいのだ。

さて、本陣のそばには井伊家の陣が立っている。

瀬名秀政は白ではなく、真っ黒な

鎧と兜を付け、赤の陣羽織を羽織っている。

その表情はどこか余裕がなく、張り詰めているように見える。

白河国親を筆頭とする美濃からの配下が黒一色で重厚感を持って、陣の設営を急いでいる。

また、鉄砲隊を率いる新田は口笛を吹き鳴らして、他家の兵に目を向けていた。

「殿、どうかなされたのですか?」

その軍中でどこかおかしい瀬名秀政に国親が尋ねた。

「……いや、何もない。

そうだ。

竹中半兵衛との話はどうなった?」

「無事に成功ですが、よろしいのですか?」

「お前は連竜と同じような事を言う。

俺は自分の判断を信じている。

後悔はしない」

「それは失礼しました。

茜を安藤殿の養女にするよう打診したところ、承知されたので竹中半兵衛には安藤伊賀守の娘が嫁ぐという形で婚約を結びました」

「重畳だ。

これで竹中半兵衛を調略しやすくなる」

先日だが、秀政は茜を竹中半兵衛に嫁がせた。

竹中半兵衛の正室に茜をいれたのだ。

茜は葵を実家に戻す際に侍女として付けた。(葵が白海城にいる事が利治に発覚した為に強制送還を命じられた為、葵は実家に帰った)

そうして。

竹中半兵衛に触発されて学問を始めようした事もあってか、茜と半兵衛はなんだかんだで意気投合したらしい。

半兵衛が安藤殿を通じて、茜を嫁に欲しいと言って来たので、当然承諾。

ただ、茜には身分がない。

瀬名秀政の養女にするには年齢の問題があり、安藤伊賀守の養女として竹中家に嫁いだ。

「ところで、国親。

お前はいいのか?」

「は?」

瀬名秀政は穏やかな笑みを見せる。

「小夜と良い仲なのだろう?

あいつを美濃に置いてきてしまっていいのか?」

「……主君に忠義を誓うことこそが武士としてのあるべき姿。

女に執着し、主命に逆らうなどありえませぬ」

「だがな。

あいつは少し前に前野の被害にあっている。

国親、お前は出来る限りあいつの近くにいるべきだ。

孤児を育てるという仕事をこなすにも手伝いはいる。

俺に従って博打をするよりも好きな女と暮らしたいとは思わないのか?」

「考えたことは幾度か。

小夜が前野に襲われたと聞いた日には自分が彼女のそばに一生居られればどんなに良いかと思いはしました。

けれど、殿に従うことこそが我が人生。

それなくしては私は私でないのです」

「わからんな。他人のためにその人生を捧げるのか」

「殿はわからないでしょう。

為すべき事がある方は他人に従う生を送りはしないゆえ」

「為すべき事か……

どうだかな。俺には案外何もないのかもしれんぞ」

「私は殿を信じておりまする」

国親は即答した。

それが秀政にはキツかった。

一途な信頼は時に人を抉る。

「……その信頼には全身全霊を以って応えねばな。

ああ、そうだ。

国親、飯尾連竜に悟られないように井伊の当主を本陣に連れて来い」

「承知」

国親が去ると、瀬名秀政は倒れこむように椅子に座った。

「さて、どうやってこの城を落とすか……」

目の前に広げられている高天神城の図に目を向ける。

現在、秀政は小高い山の上に立っている高天神城に対して鶴翼の陣を敷いている。

その形に合わせて、地図上に軍勢を模した駒がおかれている。

敵は山頂。

こちらの陣形は一望しただけで把握される。

動きもすぐに察知される。

また、山の斜面は急で既存の通路以外からは攻め登るのは難しく、それに加えて防衛に適した曲輪の配置がされている。

小規模の城ながら中々に堅い。

流石に高天神城を制するものは遠江を制すると言われるだけある。

秀政としては今ここでいたずらに兵を消耗したくはない。

できれば、城の内から切り崩したい。

今やっているように敵の兵站を断ち飢えさせるのも魅力的だが、それには時間が足りない。

のんびりとしていたら、敵に加勢がくる。

朝比奈氏の掛川城はここから近い。

彼らの軍は準備が整い次第出陣する可能性は多いにある。

ただ、城代の朝比奈泰朝は駿府に居る。

その分、少しばかり準備は普段よりも遅れるだろう

それを期待しても、この城攻めに時間をかけてはいられない。

「出来れば10日以内で落としたい……」

調略で落とせればそれに越したことはない。

敵将を内応させられたらどんなに良い事か

俺が遠江に来る前に飯尾連竜に命じてはおいたのだが、小笠原氏の家臣は中々どうして律義者揃いだった。

彼らは非常に強く結束していて、噂程度では疑うことをしない。

実例が出れば変わるのだろうけれど。

「仕方ないな」

そうポツリとこぼした所に陣幕の外で国親の話し声が聞こえた。

どうやら連れてきたらしい

「殿、連れて参りました」

「ご苦労。お前はそこに。井伊の当主殿はそちらに座られよ」

地図の乗った机を挟んだ対面に井伊家の女当主を座るように促す。

それにしてもだ。

長い黒髪を一つに束ねた女はどこか自信がなさそうに視線をあちらこちらへ漂わせている。

そして、落ち着くためにか一旦息を吐いた。

「お初にお目にかかります、井伊家の井伊直虎と申します」

座らずに地面に膝をつき、名乗った。

「堅苦しい挨拶はいらんし、俺はその椅子に座れと言った。

床に座れなどとは言っておらんぞ」

「は、はい」

秀政が少々不機嫌になったのに慌てて、直虎は席についた。

「どうだ?軍中で風当たりが強いと聞いたが、問題はないか?」

「……」

「ふむ。

では、軍中の中で誰が一番お前を毛嫌いしていると感じた?」

「はい?」

「だからだ。誰が一番お前を嫌っていると聞いたんだ」

井伊直虎は困惑した表情を浮かべる。

「……なぜ?」

「それはお前が答えたら教えよう」

自分を嫌っている相手を告げろ、と言うのも中々酷な話だ。

井伊直虎が渋るのも当然だ。

「…………大沢基胤」

「宇津山城主か!他には?」

「浜名重政」

もう吹っ切れたようで、今度は躊躇をしなかった。

「では、理由を教えようか。

俺が今から言う策こそが解答だ」

そう言って、考えていたことを国親と直虎に説明する。

話の最初から直虎の顔色は優れない。

当然だ。

彼女にとって好ましい話ではないのだ。

「ただな、これを実行するとだ。

確実にお前の評判は悪くなる。俺の策だったとしても、嫌悪感を持つ者は居るだろう。

もし、この策に乗ってくれるとしたら、井伊直虎。

俺はお前を長く重用しよう。

自分の名を顧みずに主君に忠誠を誓い、行動したとなれば俺もそれに報いなければならんからな。

さて、どうする?

お前次第だ。

この策を取るも取らないもお前の判断に委ねよう」

性格が悪い。

と国親は思った。

ここで断ることなんてできない。

断れば、それは主君に対する忠誠が低いまたはないことを示す。

秀政が今川を制した後には追放か左遷だろう。

家を残す為には従う他ない。

「……やりましょう」

「そうか!良く言った!」




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