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戦国物語  作者: 羽賀優衣
第二章 復讐
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第十八話

遠江に屋敷を構える領主たちを訪ね、姫の文を渡し、去る。

それを幾度も繰り返し、今川家家老飯尾連竜の屋敷に着くまでは順調だった。

飯尾連竜に文を渡し、読むのを待っていたら、いきなり捕縛されたのだ。

襖を勢いよく開け、入ってきた男たちに組み敷かれ、身動きができなくなった。

「何の真似だ!」

俺はわけがわからず、吠えるが狐のような顔をしている飯尾連竜は扇子で口を隠し、声を立てて笑った。

「姫様が言うには、わしたちが竜宮丸様と通じ、謀反を企てているらしい」

連竜は俺の眼前にしゃがみ込む。

「身を粉にして今川に尽くしてきたわしを疑うなど侮辱もほどほどにすべきですぞ。

それに混乱している遠江に竜宮丸様に密通している輩がいるかもしれないと不要な火種を撒くなど愚かしい」

連竜は俺の額に扇子を当てる。

「わしは思うた。

桜姫は竜宮丸様を慕っておられる。

わしらにこんな物を送りつけ遠江の情勢を悪化させるのは、竜宮丸様が介入する隙を作る為なのではなかろうか」

「違う」

「そう言われても、何かを企んでいるなら指摘されたとて白状するとは思えん。誤魔化すだろう。

ゆえにしばしの間、牢に入っておれ」

連竜は立ち上がり、男たちに俺を連行するように指示した。






瀬名秀政は飯尾連竜の居城である曳馬城に滞在していた。

美濃の領地には殆ど兵を残さず、三河を経て遠江に来ていた。

「……若様、本当によろしいので?」

飯尾連竜は彼の後ろに立ち、秀政の顔色をうかがうように尋ねた。

「何がだ?」

聞かれた方はどこか不機嫌そうに庭を眺めている。

「美濃で培った地位を捨て、ここで謀反を企てるなど失敗の方が確率としては上でしょうに後戻りをできなくしてしまったことです」

「ふん、そんなことか

人は辛いことに当たる時、逃げ場があればそこに逃げ込む。

俺もただの弱い一人だ。

背水の陣を敷かないと動けない

だいたいな、失敗するような事態に陥っているのなら、首謀者の俺は捕らえられている。

結局、美濃の領地なんて意味がない」

実験場としては意味があったけどな、と言葉に出さず自分の中で呟く。

「それで、味方はどれほどに?」

「今のところ、遠江の大半は俺に味方すると言ってきた。

特に井伊は積極的だな。

当主を氏真に殺され、家を潰されそうになっているだけあって俺にすべてを賭けるつもりらしい」

「なら、8千程度……駿府側に北条の援軍が来たら相当厳しい……」

「それなら、手は打ってある。

安房の里見と下野の宇都宮、上野の由良に使者を送って、北条の軍がこっちに出たら、その隙に挙兵するよう取り決めてある」

「しかし……武田の横槍は?」

「おそらくない。

越後の上杉がそろそろ動く。それに合わせれば、武田の介入はない」

ちなみにこの年。

1561年、八幡原の戦いが上杉と武田の間で発生している。

第4次川中島の戦いとも呼ばれるこの戦があったおかげで結果から言えば、駿河には武田は来れなかった。

「障害はない。松平は動けない。

西三河がまた動き出しているからな。

俺が立つことを受けて寝返りを検討し始めた輩を無視して軍を進めはしないだろう」

石橋を叩いて渡るの語源と言われている松平元康は当然慎重派だった。

それゆえに、ここでの出兵を見合わせた。

また、三河国内で一向宗が不穏な動きを見せ始めたために国を開けられなかったという理由も大きい。

「後顧の憂いなし。

全兵力を結集し、高天神城を落とす。

次いで駿府に向かう」

瀬名秀政は飯尾連竜に一切の視線を向けず、ぼんやりと庭の池に映った自分の姿を見ている。

「それでは!即刻出ましょうぞ!」

「待て。高天神城の近場の領主には呼びかけろ。

寝返りを促せ。

それと、味方内では井伊谷に必ず使者を送っておけ。

あいつらを先陣とし、他が続く」

「それは……如何なものかと。現当主は女なのですぞ?そんなものの兵に名誉ある一番槍を与えると?」

「だから、どうした?」

「どうした?女に先を取られるのが屈辱でないとでも!?男の前に女が立つなど言語道断でしょう!!」

「そうか。

じゃあ、お前が先陣を切れ。井伊の軍勢は本陣に置く。

それでいいな」

「え?う、承りました!」

飯尾連竜は、いつになくあっさりと聞きいれた主君にどこか引っ掛かりを覚えたが、自分に先陣が与えられたことに喜び、そのことは特に気にしなかった。

「では、下がれ」

「はっ!」

飯尾連竜が居なくなると、瀬名秀政は近くにあった大きめの石を池に思い切り投げ入れた。

波立った水面の輪郭を歪ませた瀬名秀政を鬼のような形相で睨みつける

「……なぜ嗤う!」

自分に対して、怒鳴りつける。

飯尾連竜は見えていなかったが、瀬名秀政には見えていた。

もう一人の自分が嘲るように笑みを向けていることに。

あたかもお前のやってることは無意味だとでも言わんばかりに。

『そう。自分でもわかってるんだろ』

頭の中で声が響く。

『こんな無意味なことをして、ただの復讐のくせに事を無駄に荒立てて、それで何も変わりはしないと知っているくせに』

『氏真を殺したところで満足はしないだろうが。

母上が死んだの誰のせいだ?

お前だ。

お前が弱くみっともないからだ』

『それに気付いている。

いて、なおも氏真を恨んでいる。

確かに母上の死に氏真は関わっている。

あいつが居なければ母上は死ななかったからな。

でも、氏真に対してそこまでの憎悪はないんだろ?

お前はただ憎しみを自分の外に持たせたかっただけだ』

『憎悪で自分が潰れるのが怖かったんだろ。

だから、こうして吐き散らしてる。

自分を偽って、他人に感情を向けている』

『桜は可哀想だよな。

ただ、お前が弱いが為に自分が敬愛する兄に嫌われていると思い込んでこうして動いている。

本当は桜が母上の名を出そうと一切問題はないのにな。

お前はそれに耐えられないから、認められないから、こうしてあの男を捕らえたんだろ?』

『結局、自分の為だ。

復讐なんて名義を被ったところで中身は変わらない。

醜い。

醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い。

実に低劣であさましく醜悪でもあり下賤だ』

あえて意味を重ねてくることが逆に腹立たしい。

『汚いくせに民の安心して暮らせる世を作るなんて言い逃れをしやがる。

余計に醜い。

滅びの道を歩む愚者はいずれ気付く。

自分の浅はかさに、無能さに、そうして自らの行いを悔いる。

ゆえに前に進める。

お前がそう言ったよな。

だが、お前はどうだ、浅慮の愚者よ。

気付きすらしない』

瀬名秀政はただ俯いて何も言わない。

これは自分が作り出した幻想なのだ。

大事を行うに際して臆しただけの事

そう言い聞かせ、耳を傾けないよう心がけた。

『嫌な事は耳を塞ぐか?

お前は氏真と同じなんだよ

所詮ただの凡愚だ』

『いや、お前が周りに担がれてる事だけは違うか?

氏真は朝比奈親子という盟友がいるものな。

お前は一人だ。

お前はただ利用されてるだけ。

どうせ捨てられる。

お前が嫌う今川義元の血にしか価値はない』

秀政は無表情で庭の木の枝をへし折り、それを手に水面を思い切り叩きつける。

跳ね返った水が体を濡らすが構わずに叩く、叩き続ける。

しばらくして、体力の底を迎えた時、

水面は空に見える月だけを映していた。

三日月が嘲笑っているように見えた。


話の展開が遅くてすいません^_^;

これからは話がちゃんと進みますよ!

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