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戦国物語  作者: 羽賀優衣
第一章 美濃統一
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第十三話

松平元康と秀政は手早く丸根砦を攻め落とし、一度今川義元の本隊と合流した。

「元康」

「なんだ?」

「今更怖気付いたとかほざくなよ」

「言わない。一蓮托生。お前に運命を委ねる」

とか言いながら、失敗しても自分の地位を失わないように工作してるんだよ、この狸は

ずる賢いというかね

「で、首尾の方は?」

「上々だな。まぁ、後は任せろ。お前は情報を通さずに孤立させれば良い。それだけで充分だ」

秀政はニッコリと笑って、元康の肩を叩く。

そして、何か返される前に義元の本陣に入っていった。

「美濃より援助すべく参りました。織田攻めの尖兵としてご利用くだされ。

今後の今川家による天下に一つ貢献しておけば、俺の老後も安心なのでね」

冗談を織り交ぜ、義元の対面に立つ。

義元は余裕を見せてか、鎧どころか刀さえ帯びずに扇をいじっている。

冗談に笑う事なく厳しい面持ちで秀政に視線を向ける。

「全員席を外せ。こやつとだけ話したい事がある」

ほほぅ。

流石は父。

俺が来た目的を知っているのか。

しかも、それに合わせて行動してくれるとは。

実に良い人だ。

優しすぎるとも思うが。

優しいのは美徳だが、俺には不要だ。

血は継いでいるが、どうにも俺は父にも、同じ血が流れているが、兄にも妹にも似ていない。

まぁ、氏真は俺と同じ血であるとは認めないだろうが。

そして、俺も認める気はない。

氏真や桜と同じ血というのは苦痛だ。

あんな奴らと変わらないなど反吐が出る。

そんな事を思っていた秀政の脇をそれぞれすり抜けていく。

今川の将や親衛隊も一人残らず陣の外に出し、二人だけとなる。

義元と秀政はしばらく無言のまま見つめ合う。

空気が張り詰めている。

風すら止んだ。

虫の鳴き声は別の世界にあるかのように遠く薄く。

兵たちのざわめきは耳に届かない。

この本陣だけが隔絶された空間であるかのように時が止まっている。

「お前の母に会いに行く事になりそうだ。そんな予感がする」

先に口火を切ったのは今川義元。

小さくか細い声で秀政に聞こえるギリギリで呟いた。

「ほぅ。死ぬのか」

一方の秀政は顔色一つ変えずに淡々と言い返す。

とても肉親に言ったとは思えないほど無関心だった。

「…………」

俯いて黙った義元に秀政は無感情に言い渡す。

「俺は母を殺した連中の事を許すつもりはない。

必ず見つけ出して、俺の気が済むまで殺さずに嬲り、生きたまま気を失う事を許さずに両手両足を切断した上で街道に晒す」

義元は拳をギュッと握りしめた。

「まだ引きずっているのか…………」

「まだ?」

秀政は歪んだ笑みを見せる。

狂気の塊のような笑み。

見たものを震え上がらせる壮絶な笑みだ。

「俺の時はあれから進んでいない。

理想を語ろう。

俺は弱者であった母を殺したこの世界を許さない。だが、世界には生きなければいけない。

そうだ。

ならば、今の世界を一度完全に崩壊させ、新たに作り直そう。

もう二度と同じ悲劇を生まない世界に」

狂っている。

義元はそう思ったが、そう言う権利は自分には存在しないと口にはしなかった。

秀政は幼少の頃に母を殺されている。

今川の後継者候補として頭角を表し始めていた秀政に向けて放たれた刺客によってだ。

息子を庇って殺された。

おそらく氏真の近臣共の策略だったのだろう。

だが、今川家の当主であったわしは一切追求する事なく、この事件を隠蔽し、なかった事にした。

秀政の母の存在をなかった事にし、他の女が産んだ事にさせた。

当時、北条、武田との外交に力を注いでいて、国内の不安を外に漏らすわけにはいかなかったのだ。

それゆえに秘匿。

この直後に秀政は自ら分家の瀬名家の養子となった。

わしを恨んだだろう。

なぜ母を消した。

なぜ何も調べない!と。

「別に父上の事を恨んではいない。父上には尊敬の念を抱いている。

まぁ、あの時の判断は当時の立場を考えるに仕方ないだろう。と」

秀政は表情を変えない。

家を出たのだって、元々は家の安寧を願っての事。

家が嫌いなわけでも父を困らせたいわけでもない。

母を殺され少しばかり気が狂ったのとその後も命を狙われる事が続き、今川家中にいる事に身の危険を感じたからという理由もある。

ただ、許せない事は多い。

母の葬儀を行う事も禁止された事もそうだ。

ちゃんとした墓にさえいれる事は叶わなかった。

そして、俺が埋めた母の遺体を、恐らくだろうけど、氏真が暴いた事は決して許さない。

氏真も今川家の人間としての重圧に耐えかね、あのような事でそれを和らげていたのだろう。

「父上、俺は別に今すぐ復讐を完遂しようなんて思ってはいませんよ」

刀を抜き、義元に背を向ける形で今川の旗を一つ袈裟斬り。

そして、首だけで義元の方を見る。

「ただ、少なからず今川に影響は出ましょう。

なので、隠棲されよ」

「隠棲か……」

「そう。父上がいると俺としてもやり辛い」

嘘をつけ。

と小声で聞こえないようにこぼす。

わしがもし氏真を守ろうとするならば、わずかな感情の乱れもなくわしを殺すだろうに。

こいつは嘘がうまい。

ただ、口から出る事、その多くが嘘で真実が見えない。

感情を露わにせずに面を被り続けておる。

だが、復讐の話は事実だろう。

隠していても声に滲んでいる。

長い年月で煮込まれ濃くなった憎悪が。

「で、父上。話とはこれだけか?」

秀政は先程とは打って変わった人の良い笑顔で微笑んでいる。

「いや、もう一つ」

義元は重たげに顔を上げる。

「桜の事だが、あいつを美濃の斎藤利治に嫁がせようと考えている。

どう思う?」

「下策」

秀政は笑顔のまま一言で切って捨てる。

「斎藤利治なんぞすぐにすぐに失脚する。それなら斎藤龍興の方がよほど効果はある」

自ら毒を体内に取り込んだのだ。

蝮の弟という毒を。

すぐに消えるだろう。

または傀儡になるか

どちらにせよ、龍興と組んだ方が後々有利にたてよう。

「まぁ、なんでもいいけどさ。相手は選んだ方が良い。

この世の中を生き残れそうな奴にしておきなよ。

婚姻関係にあっても滅ぼされたら意味がないんだから」

秀政は笑みを消して陣の外に向かって歩き出す。

「織田信長なんていいと思うけどね」

皮肉を一つ残して立ち去る。




1560年6月9日

元康は再び兵たちを連れて前線へと戻った。

鷲津砦を攻めるらしい。

一方の秀政は義元の本隊と一緒に動いている。

目を離すと何をしでかすかわからないから手元においておくとの事だ。



12日正午前。

今川軍は桶狭間で陣を張った。

近くの民家が酒を持ってきたや元康の鷲津砦陥落の報せに湧いていた事があり、酒宴となった。

この時、義元の本隊の数は8000。

その内2000は秀政が連れてきた美濃兵。

各戦場に部隊を送ったせいで主軍の守りが薄くなっていた。




13時ごろ

急に雨が降り始めた。

秀政は一旦部隊に戻り、雨を凌ぐ為に木の下に入るように指示し、自分は親衛隊を連れて本陣へと戻り、義元と酒を飲み交わす。



14時ごろ

雨が止み、視界が開き始める。

直後、義元の本陣近くに織田の兵が現れたとの報告が入り、義元が酒を投げ捨て、兵を叱咤激励。

戦勝に戦勝が重なり、油断をしていた義元の兵は信長自らが先陣を切る勢いに押されていく。

「これはこれはまさかですね」

秀政は本陣の外で刀を抜いて、本陣に何かを伝えようと走ってきた今川兵を斬り捨てる。

そして、血がべったりと着いた刀を手に本陣の幕を切り裂く。

秀政と親衛隊が義元とその旗本衆に刀を向ける。

「義元以外は殺せ。だが、義元は捕らえろ」

秀政の指示で親衛隊が義元を守ろうと刀や槍を構えた旗本たちを一刀で肉塊へと変えていく。

「父上、旗本衆や本隊の兵を寄せ集めで固めたのは失敗でしたね。

兵数が必要なのはわかりますが、本隊は精鋭で構成すべきだった」

目の前で何が起こっているのかいまいち理解できていない義元はゆっくりと秀政を見る。

「裏切ったのか……」

「いえ、裏切りではありません。

最初から俺は誰の味方でもなく、ただ自分が正しいと思う事をしているだけです」

「これが正しいと!?」

「はい。今川は少しばかり大きくなりすぎた。

俺が喰うには些か量が多い。

なら、ここで肉を削ろうかなと思いまして」

「お前……上洛を進めたのは……」

「駿河にこもられては面倒ですから」

「秀政……お前」

「恨みたければどうぞ。ただ死なせはしませんよ。

交渉材料になっていただく」

そう言った秀政の肩を親衛隊の一人が叩いた。

「ん?終わったか。織田の兵に戦闘終了を叫ばせろ。俺らはこの戦場から離脱する」

秀政は部下に義元を縄で縛らせ、自分の馬を隠した方へ早歩きで去っていった。


これで第一章は終わりです

次からは一応第二章になります。


感想やご意見はもらえたら嬉しいです


とりあえず、ここまで読んでくださりありがとうございましたm(_ _)m

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