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WONDER WORLD  作者: 紗々
第1章:ファイリアル
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リンチャ村 Ⅲ

「やあレイア、いつも配達ご苦労さん。サービスしてやるよ」

「わあ、ありがとう!」

 こぢんまりとした村の広場は、すっかり祭で賑わっていた。レイアはルークと子供達を連れ、挨拶がてら出店を廻ることにした。貰った飲み物を、全員に渡す。

「カイルは?」

「どっか行った。そのうち戻ってくるよ」

 肩をすくめて答えるルーク。やっぱりよくわからない二人だな、とレイアは思った。それだけ、お互いを信用してるってことなのかな。

 赤い茶髪が特徴的な村人の中では、金髪のルークはどうしても目立ってしまい、たくさんの人が声をかけてきた。特に女性は、ちらりとルークの金髪に目を遣り、通り過ぎた後に振り返って、その顔を二度見していく。

「あら、レイア。そちらのイケメンさんは?」

「シャナ!」

 動きやすそうなドレスを身につけた女性が、レイア達のところにやってきた。肩まで伸びた赤毛は、手入れが行き届いていて、いつ見ても艶がある。

「ルークだよ。旅の途中なんだって」

「へえ」

 シャナと呼ばれた女性はまじまじとルークを見る。

「…どうも」

 ルークがはにかんだように微笑んで言うと、シャナはあら、と口に手をやった。

「男の子なのに綺麗な顔してるのねえ」

 心なしか頬をピンク色に染めている。それに気づいた子供達が囃し立てた。

「シャナねーちゃん、顔まっかー」

「惚れた?惚れた?」

 シャナは益々顔を赤くし、照れくさそうに、このマセガキ共、と口の中で呟くと、開き直ったように、大袈裟にふんぞり返って言った。

「ええ、ええ、惚れちゃいましたとも。悪い?うちの村のなんてムサイのばっかなんだから」

「確かに」

 レイアも噴き出した。ルークが説明を求めて視線を送ってきたので、紹介する。

「彼女は村長の娘さん。この後祈りの舞を披露してくれるの」

 へえ、とルークは感心したように言った。

「綺麗ですね。衣装がよくお似合いです」

「ふふ、お上手ね。ありがとう」

 ゆっくりしてってね、と言い残すと、優雅に腰を振って去っていった。

 再び歩き出しながら、レイアはまじまじとルークを見た。シャナは村一番の美人だが、これまで村のどんな男に言い寄られても、まったく取り合わなかった。その彼女が赤面するなんて――

「そういえば今日は何の祭?」

「へ?」

 不意にルークが質問してきて、レイアは我に返った。

「あーっと…豊作を祈るお祭りだよ。ルークの故郷ではやらないの?」

「そうだね…」

 ルークは曖昧に微笑んだ。



 大方店を見て回ると、5人は広場に出た。中心にあるステージから、波紋を描くように長椅子がいくつも設置されており、普段は集会に使われたり、村人達の憩いの場になったりしている。今夜は祭りのために装飾が施され、華やかな風景に変わっていた。

「よし、行くぜ野郎共!」

 唐突にエドが拳を振り上げて言うと、残りの2人、ベスとミックも「おう!」と彼に倣った。そして、

「ちょっ…」

 レイアが止める間もなく、3人で駆け出した。

 ルークに待ってもらうよう言い残し、レイアは3人を追いかけた。とは言え相手は子供、あっという間にベスとエドの首ねっこを捕まえた。ミックは捕まらなかったものの、2人が捕まったので立ち止まり、おろおろしている。

「キャロルが来るまで、私達と一緒にいるって約束したでしょ!」

「キャロルねーちゃんが来てからじゃ、遅いんだ!」

 2人は、必死に手足をばたつかせる。あまりに切羽詰ったように言うので、レイアは少し気になった。

「…どういうこと?」

「何だっていいだろ!離せよ!」

「あたしたち、キャロルおねーちゃんを驚かせたいの」

 意地を張るエドに代わって、ベスが説明しようとする。レイアがつかんでいた手を放すと、2人は暴れるのをやめた。

「キャロルおねーちゃんにいっつもお世話になってるから、お礼がしたいんだって、」

 ベスはそう言ってエドを見る。

「…エドが」

「お、おれじゃねーよっ!」

 顔を赤らめて全否定するエド。あらら、耳まで真っ赤。

 ベスが、意味ありげにレイアに目配せする。さすがのレイアにもその意味は理解できた。

「驚かせるって…何するつもり?」

「それは、レイアおねーちゃんにも言えないかなあ」

「なんでよ」

「レイアねーちゃん、うっかり喋っちゃいそうだし」

 ミックが鋭く指摘した。うっ、とレイアも言葉に詰まる。確かに周囲にはうっかり者だとよく言われてたけど…まさか、こんな小さな子にまで言われるとは。

「大丈夫、危ないことするわけじゃないから」

 ベスが慌てて言う。そうだよ、とミックもエドも頷く。

「おれたちだって、ねーちゃんたちが思ってるほどガキじゃねーんだからさっ」

 レイアは少しだけ驚いていた。この3人は、レイアも一緒に遊んであげていたから、小さいころのことはよく知っている。喧嘩に負けた時エドが泣いて悔しがったことも、初めて祭りに連れて行った時のベスが、恥ずかしがっていつまでもレイアの傍から離れなかったことも、ミックが一人でトイレに行けなかったことも。いつの間にこんなに成長したんだろう。

「…わかった」

 レイアはため息をついた。3人の目を見る限り、何を言っても無駄なようだし。

「今日は祭りで大人の人もあちこちにいるから、大丈夫でしょ。困ったことがあったらすぐ言うんだよ?」

 何より、せっかく彼らが誰かのために何かしたいのなら、協力してあげたいと思った。自分の親友のためなら、尚更。

「ありがとう、おねーちゃん!」

 3人は満面の笑みで、彼らだけが知るどこかへ駆けていった。



 騒ぎが起こったのは、それから少し経った頃だった。

 広場には、これから始まるシャナの踊りを見るために、ほとんどの村人が集まってきていた。レイアとルークは椅子に座って、出店で買ったものを食べながら、長椅子が村人で一杯になるのを眺めていた。辺りは薄暗くなり始め、広場の周囲に円状に設置された松明に火が灯される。

 だから、最初は広場の喧騒に紛れてしまっていて、出店の一つで悲鳴があがったことに誰も気づかなかった。そこから火が出るのが見え、ようやく誰もが疑問を感じ始めたころ、村人の1人が叫ぶのが、レイアの耳にも聞こえた。

「賊だ…!賊が襲ってきた!逃げろ!早く…」

 叫び続ける彼の声は不自然に途切れた。燃え上がる店を背景に、不穏な黒い人影がわらわらと現れる。たちまち広場はパニックになった。

 レイアとルークもすぐに広場を離れようとした。しかし――

「…えっ?」

 炎の壁が2人の退路を塞いでいた。多くの村人が同様に立ち往生している。よく見れば、火の中に出店の骨組みが見える。広場の円周に沿って連なっていた店が、広場全体を囲む炎の輪と化していた。

「…全部の店に火が燃え移っちまったのか…!」

 村人の一人が舌打ちした。直後、背後で悲鳴と怒号が巻き起こる。振り返ると、賊が広場になだれ込み、村人を襲い始めていた。賊はみな体格の良い男ばかりで、逃げ場を失った村人を次々に攻撃する。炎に照らされた顔が下品に歪んでいるのが見え、レイアは炎の近くにいるのにもかかわらず、寒気を覚えた。

――人を襲ってるのに…どうして、笑ってるの?

「あぶないっ!」

 ルークに引っ張られ、レイアは慌てて飛び退く。今までいたところに出店の屋根が焼け落ちてきた。

「…あ、ありが…」

 礼を言おうと振り返ると、ルークがそれを手で制した。

「俺の傍から離れないで」

 言うや否や、ガキン、と硬いもの同士がぶつかり合う音がした。いつの間にかルークが剣を構え、賊と対峙している。剣と剣で押し合っていたかと思うと、不意にルークは力を抜き、相手がバランスを崩したところを斬りつけた。

 すぐに次の賊が襲ってくる。2人がかりで来たところを、1人を蹴り飛ばし、もう1人を剣で一突きにする。その次も、その次も、ルークは鮮やかに倒していく。しかし、だんだん疲労の色が見え始めた。

「くっ…数が多すぎる…」

 レイアはそれを見守ることしかできず、もどかしく思った。火はいっそう勢いを増し、一向に消える気配がない。このままじゃみんな、焼け死ぬか賊に殺されてしまう…。

 その時、突然レイアの頭に大量の水が降ってきた。

「レイア?!」

「…レフィ兄!」

 火の消えた出店の焼け跡に、レフィストがホースを持って立っていた。背後に、工事現場の男たちが続く。

 レフィストはレイアに何か言おうとしたが、賊をまた1人蹴り飛ばしたルークが、それを遮って叫んだ。

「…早く村の人達を外に!」

 その言葉を受け、男たちは各々工事道具を手に、広場の中心に向かって駆けていく。レフィストは、訝しげにルークとレイアを交互に見て、何やら複雑な表情をしていたが、結局、

「…お前も早く逃げろよ」

 それだけレイアに言い残し、男たちについて行った。炎の壁の周辺に立ち往生していた村人達は、我先にと火の消えた場所から逃げ出していく。

「レイア…ロト神様のところに案内してもらえる?」

 レイアがぼんやりとレフィストを見送っていると、ルークが言った。

「ロト神様の力を借りたいんだ」


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