はやくこっちにおいでよ。
外に出るのが恐い…。
窓を開けるのが恐い…。
私はもう何もできない…。
こうして日のあたらない部屋に閉じこもり震えてることしか……。
なんで私が……?
こんな目に……。
一ヵ月前……。
「行ってきまぁす!」
美希はいつもと同じように明るい声を響かせてドアをあけた。
「いってらっしゃい!気を付けるのよ!」
母、広子の声を背中に感じながら美希は自転車にまたがり走りだした。
早くしないと学校に遅れてしまうからだ。
「はぁ……」
美希は深いため息が自然とこぼれるのを感じた。
昨日の出来事が原因だ。 そのせいで夜なかなか眠れずに寝坊した。
昨日の放課後、一人の男の子から告白された。
美希はその人のことを名前くらいしか知らなかった。
隆史という同じ学校の人だ。
もちろん話したことなど一回もなかった。
「私、隆史くんのことよくわかんないから……。ごめんなさい……。」
断った。すると隆史は下を向き震えだした。
そして、
「絶対に許さないからな!」
そう言って走って行ってしまった。
最初は驚いて、なんで……?っと考え込んでしまったが、時間がたつにつれ恐くなってきた。
隆史のあの時の目は……本気だった……。
考えれば考えるほど恐怖に変わっていった。
自転車を20分ほど走らせやっと高校の校舎が見えてきた。
私の高校は普通の公立高校で偏差値が高いわけでもなく部活が活発でもなくとにかく普通だ。
家から近いからこの高校にしただけで別に高校などどこでもよかった。
もう時間がないっと、さらに自転車をこぐ足に力をいれると、校門の所に人だかりが見えた。
なんなんだろう……?と思い近くに自転車を止めた。
その人だかりの中に友達を発見して美希は話しかけた。
「何?何?どうしたの?早く教室行かないと遅刻になるよ!」
「美希……。」
いつもと様子が違う友達に、美希は疑問を感じ、人だかりの目線の方向に目をあわせた。
「え………??」
美希はその場に崩れ落ちた。
「なに……?あれ……………?」
校門の脇の壁に美希の写真が貼ってあった。
パッと見ただけでも20枚くらいはある。
美希が学校から家に帰る時の写真や、友達と話をしている時の写真……。
一番驚いたのが美希が自分の部屋で電話をしている写真があった。
家の窓の中には電話で話している私がいる……。昨日のことだ……。
いったいだれが……?。
美希はあまりの恐怖に座り込んだまま立ち上がることすらできなかった。
「おまえら何やってんだ!早く教室にはいれ!」
先生が怒鳴りながら走ってきた。
それを聞いた生徒達は散々になり教室のほうへ走っていった。
「美希……。」
友達が心配して横についていてくれた。
美希は写真を呆然と見つめたまま頭が真っ白になっていた。
「斎藤!斎藤!」
先生が美希の肩を揺らしながら美希のことを呼んだ。
「先生……。これって………。」
「わかってる。とにかく立ち上がって!職員室にいこっ!」
写真をビリビリはがしながら先生は美希を立たせた。
美希はふらふらと職員室に歩いた。
職員室についてもキョロキョロしたり、ソワソワしたり、落ち着くことができなかった。
今この瞬間も誰かがレンズ越しにシャッター音を立てて私のことを狙っているんじゃないか……。
「何でこんなことするんだろうなぁ〜〜…。誰か心当たりないのか?」
HRを終えた担任の小林が難しい顔をして美希に尋ねた。
「いえ、わからないです……。」
恐怖のあまりか、不安のあまりか、涙がぼろぼろこぼれ落ちた。
それから約10分、小林と話した。
だが美希の耳には小林の言葉が何一つ残らなかった。
「とにかく今後あんなことが起こらないように最前をつくすから。とりあえず今日はもう帰りなさい。親に連絡しとくから。」
「えっ……?でも……。」
「そんな状態じゃ授業に出ても頭に入らないだろ?いいから帰りなさい。気を付けてな。」
「はい……。」
美希は俯いたまま椅子から立ち上がり歩きだした。
ハァ〜〜…。
小林はため息を漏らして美希の家に電話をかけた。
「そっか。じゃあいつは今日早退するんだ。」
「そうみたい。ちょっとやりすぎたんじゃない?」
「何言ってんだよ!まだまだこれからだよ!頼むぜ!おまえの協力が必要なんだからな。」
「わかってる。これからも頑張るから!」
「ありがとなっ!…………愛してる。」
「私もだよ!」
二人はいつもより長くキスをした。
「じゃ次の作戦よろしく!」
「はい!」
美希は足早に家路をいそいだ。
早く家に帰ってこの恐怖からすこしでも逃れたい。
いつもより息切れをしながら自転車をこいでいた。
ヌルっ!
「きゃ!」
タイヤが滑った。
別に雨が振ってるわけでもないし、地面は乾いてるし。
「なに?もう!」
美希は地面に目をやった。
「え……?何これ…………?………………血!?」
血のような赤い液体が地面に零れていた。
「なに……?きみが悪い……。」
美希はなんだか不気味に感じた。
その液体は道路全体につながるようにして流れていた。
美希は思わずその液体を見渡した。
「……………………………何これ?………………………………………………キャーー!!」
美希は自転車に飛び乗り思いっきりペダルをこいだ。
恐怖のあまりパニックをおこしていた。
ただ必死に自転車を走らせた。
「誰よ!誰なのよ!あんなこと書くの!」
あまり思い出したくない。
しかし頭の中をグルグルと回っている書かれていた言葉。
ミキコロス
「ハァハァハァ……」
。
息切れをしながら家のドアを開けた。
「美希!どうしたの?具合でも悪いの?早退だなんて。」
先生から電話でなにも聞いていないらしい。
ただ早退させるとだけ伝えたのだろう。
「なんでもない。」
「なんでもないことないでしょ?早退までして!」
「なんでもないから!」
「ちょっと美希!」
お母さんの声を無視して階段を駆け上がり自分の部屋に入った。
そしてすぐに外から誰も見てないかを確認してカーテンを荒っぽくしめた。
ベットに倒れこむように飛び乗り、布団を頭からかぶって、ブルブルと震えていた。
これからのことを考えると吐き気がする。
なにか楽しいことを考えようとしても、今日の出来事が邪魔をする。
コンコン!
「美希!ちょっといい?」
お母さんが部屋をノックしている。
美希は重い体を起こしてドアを開けた。
「なに?」
「どうしたの?顔色悪いわよ!なにがあったの?」
お母さんの優しい気遣いも今の美希にはうっとしいだけだった。
今日起きたことを思い出したくなかった。
「また今度話すから。今ほっといて。」
「でもねぇ〜〜……。」
「大丈夫だから。」
「わかったわ!じゃご飯できたら呼びにくるから、ゆっくり休みなさい。」
「ありがと。お母さん。」
ニコっとお母さんが笑い、ドアをしめたその時、
ガシャーーン!
「キャー!!」
美希はその音に驚き悲鳴をあげた。
窓を何かが突き破ってきた。
それを見た瞬間、体が硬直し震えが駆け抜けた。
「いぬ……。」
白目をむいた犬の死体が目の前に転がっていた。
窓のガラスが所々に刺さり、背中にはナイフが刺さっている。
「ひっひっ……。」
美希は言葉にならない声を出し、そのまま気を失った………。
ガチャ!
「なんだよ!気絶してんじゃん!犬くらいで。」
「とりあえず縄で縛るよ!動けないように。」
2時間後。
「う、う〜〜ん……。」
「おっ!気が付いたな!」
美希は目の前にいた男を見て声をあげた。
「隆史くん!」
「今日は大変だったな!全部オレがやったんだよ!」
「えっ……。隆史くんが……??なんであんなことを??」
「告白を断ったからだよ!」
「そんなことで?私にあんなことしたの?私がどんだけ恐かったかわかってるの?」
「じゃおまえはオレの気持ちわかるか?」
「それは……」
「まぁそんなことはいいや!もう一人協力してくれた人がいるんだよ!」
「え……?誰……?」
ガチャ!
美希は目を疑った。
「お母さん!」
「ごめんねぇ〜〜美希。協力しちゃったの。」
「まさか………。お母さんが……?そんなの嘘よ!嘘に決まってる!」
「嘘じゃないの。道路に赤いペンキまいたのは私。」
「そんな……。なんで隆史なんかに協力して私を……??」
「愛する隆史の頼みだから。」
「そんな〜〜…。」
「こいつどうする?」
「殺しちゃおっか?もうバラしたからつまんないし。」
「だな!じゃ死んで!」
「やめて!やめてよ!お母さん!お母さん!助けて!お母さん!」
美希の首に隆史の手がまとわりつく。
隆史の手がギュっと筋張んで、10秒後、暴れていた美希はぐったりと倒れた。
そして隆史と美希の母は長いキスをした。
「広子。こいつうめといて。」
「わかったわ。隆史。」
その日から広子の元に毎日のように広子の写真が届いた。
買い物している時の写真。家にいる時の写真。
トイレや風呂の写真まで。
広子は精神的に追い詰められていた。
この写真には謎が多かった。
どこにカメラがあるか…?
なぜ私を狙うのか……?
そしてすべての写真の裏にはBY美希と書かれている所だ。
美希が死んでから2週間後。 隆史は死んだ。
誰かに首をしめられたという。犯人はつかまっていない。
そして美希が死んでから約一ヵ月後のある日……。
広子は部屋に閉じこもっていた。
外に出るのが恐い…。
窓を開けるのが恐い…。
私はもう何もできない…。
こうして日のあたらない部屋に閉じこもり震えてることしか……。
なんで私が……?
こんな目に……。
ガシャーーン!
誰がが窓を突き破りはいってきた。
その人物を見て広子は目が丸くなった。
「美希!」
無言のまま広子の元に近づく美希。
青白い手が広子の首にのびてきた。
「美希!やめて!ゆるして!」
泣き叫びながら美希に怒鳴った。
それでも美希はやめない。
美希の冷たい青白い手は広子の首をしめていた。
「美希……。苦し……。」
美希の紫の唇が動いて、男のような低い声が聞こえた。
「お母さん。
はやくこっちにおいでよ。」
「ぎゃぁぁあ!」
ぜひ感想ください(*^o^*)