表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Short Short Circuit

玉の輿に

作者: 境康隆

「えっ? 玉の輿じゃない?」

「そうよ。ふふん、いいでしょ」

 女は友人の素直な声に、機嫌良く答えた。女は友人とカフェの席に座り、己の余裕そのままに、熱い紅茶をゆっくりと喉に運ぶ。

「何処で掴まえたのよ? そんないい相手?」

「何処って、このカフェよ」

「カフェ? このカフェで向こうから声かけてきたの? それとも自分から?」

「向こうからよ。決まってんじゃない」

「決まってなんかないわよ。何でそんないい相手が、向こうから声かけてくんのよ。おかしいじゃない?」

 友人の祝福とやっかみの混じった声。それが女をとても気分よくさせる。煽られれば煽られる程、その煽りが作り出す気流で体が浮いていきそうだ。

「失礼ね。私だって声ぐらいかけられます。同じ趣味の人が集まるカフェだからね。声は元々かけられやすいの」

「いいな。私も通い詰めようかな。あっ? それじゃ、あの子はどうするの?」

「一緒に連れていくわ。だって、それが縁だったもの」

 女はそう言って席を立つと、友人と別れた。


「で、何? あんな派手な式挙げておいて、もう別れたの?」

「だって、退屈だったんだもん」

 女は友人の率直な声に、不機嫌に答えた。やはり以前と同じカフェで、友人とお茶を囲んでいる。苛立ちを表したのか、いつもより大きな音を立てて紅茶をすする。

「同じ趣味の人だったんでしょ?」

「そうよ。でも、それ以外は合わなかったの」

「ふぅん。せっかく玉の輿に乗ったのに」

「幸せってのは、そういうのじゃないわよ」

 友人の疑問の声に反発する為か、女は殊更悟ったように言ってみせる。

「よく言うわ」

「あら、本当よ。慰謝料だってもらってないのよ。もちろんこっちも払わないし」

「本当? 欲ないわね」

「あ、でも。養育費はもらえるわ。一生遊んで暮らせる程のね」

「えっ? 子供なんていないじゃない。どうして?」

「一緒に連れていったタマが、向こうの子供を産んだからね。同じ趣味の人でよかったわ。まさに――」

 タマの輿ね――

 女がそう言うと、カフェに連れてきた飼い猫が、ごろんと足下で転がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ