玉の輿に
「えっ? 玉の輿じゃない?」
「そうよ。ふふん、いいでしょ」
女は友人の素直な声に、機嫌良く答えた。女は友人とカフェの席に座り、己の余裕そのままに、熱い紅茶をゆっくりと喉に運ぶ。
「何処で掴まえたのよ? そんないい相手?」
「何処って、このカフェよ」
「カフェ? このカフェで向こうから声かけてきたの? それとも自分から?」
「向こうからよ。決まってんじゃない」
「決まってなんかないわよ。何でそんないい相手が、向こうから声かけてくんのよ。おかしいじゃない?」
友人の祝福とやっかみの混じった声。それが女をとても気分よくさせる。煽られれば煽られる程、その煽りが作り出す気流で体が浮いていきそうだ。
「失礼ね。私だって声ぐらいかけられます。同じ趣味の人が集まるカフェだからね。声は元々かけられやすいの」
「いいな。私も通い詰めようかな。あっ? それじゃ、あの子はどうするの?」
「一緒に連れていくわ。だって、それが縁だったもの」
女はそう言って席を立つと、友人と別れた。
「で、何? あんな派手な式挙げておいて、もう別れたの?」
「だって、退屈だったんだもん」
女は友人の率直な声に、不機嫌に答えた。やはり以前と同じカフェで、友人とお茶を囲んでいる。苛立ちを表したのか、いつもより大きな音を立てて紅茶をすする。
「同じ趣味の人だったんでしょ?」
「そうよ。でも、それ以外は合わなかったの」
「ふぅん。せっかく玉の輿に乗ったのに」
「幸せってのは、そういうのじゃないわよ」
友人の疑問の声に反発する為か、女は殊更悟ったように言ってみせる。
「よく言うわ」
「あら、本当よ。慰謝料だってもらってないのよ。もちろんこっちも払わないし」
「本当? 欲ないわね」
「あ、でも。養育費はもらえるわ。一生遊んで暮らせる程のね」
「えっ? 子供なんていないじゃない。どうして?」
「一緒に連れていったタマが、向こうの子供を産んだからね。同じ趣味の人でよかったわ。まさに――」
タマの輿ね――
女がそう言うと、カフェに連れてきた飼い猫が、ごろんと足下で転がった。