異常な異常なし
都市国家同盟は、言わずと知れた数多くの小国の集合体である。
北方大陸中央部にはかつて、主に二つの力ある王国が存在しており、
その二つに挟まれるように教国があった。それらの国々の南側には、
大小百以上の小国群が存在し、一部が外敵を退けようと同盟を結ぶ。
それが都市国家同盟の始まりで、発足当初十五か国だった加盟国は、
現在では六十四か国を数え、人口や領土だけなら中央部随一である。
但しそれは、王国や現共和国のような「まとめ役」を欠いている。
三年に一度開かれる、都市国家同盟大会議での議長が近い存在だが、
まとめ役というよりも調整役で、あまり大きな権限は持っていない。
王国や共和国で言えば、せいぜい伯爵領程度の国々が利権を求め、
足の引っ張り合いを続けていた。
つまり、見た目以上に一枚岩とは言い難いのである。
◆
都市国家同盟のひとつ、通称「悪徳都市」。
かつては「流通都市」と呼ばれていたが、素行の悪い商人が増加し、
犯罪組織がそれを後押しした結果、後ろ暗い資産の集まる国となる。
現在の王も彼らとのやり取りを好み、兵士も破落戸も大差がない。
この都市国家は不正なくして成り立たないのだ。
経済力なら都市国家同盟随一であり、気に入らない他国といえども、
無視するのには難しい存在のこの場所にある、古びた館。
そこにさらなる富を得ようと、複数の犯罪組織の長達が集っていた。
「第一段階の、王国への偽装商人送り込みは八割がた終わった訳か」
「準備出来た地域は、もう第二段階に移行させていく。
瘴気溜まりが出来やすいように、騒動を増やしていく予定だ」
計画としてはこうである。
王国へ、商人を装った工作員を都市国家同盟の諸国より送り込み、
表に出せない犯罪まがいの依頼も金額次第で引き受けている、
冒険者「もどき」に繋ぎを取って王国各地で騒動を起こさせる。
例えば暴行、例えば窃盗。突然の馬車の暴走などでも良い。
人々の不安は少しずつ瘴気を生む。
同時に町の外でも治安を乱すため、強い魔獣寄せの餌をばらまく。
餌につられた小型魔獣を餌とする中型、大型が王国に集まっていく。
当然騎士団は、町の治安と町の外の治安維持に奔走する事になる。
王国はかなり苛立つことになろう。
瘴気溜まりは、人間に限らず生物の悪感情が多い場所に出来やすい。
不安の種を王国にばらまき、そこに甘言をもって協力者を増やす。
悪感情に慣らされた者は、思考能力も低下し操りやすくなる。
こうして治安を乱していけば、自分達が潜り込む余地が出来る。
犯罪への備えが手薄になったところで、偽装商人達が足場を固め、
買収工作などで王国内に組織の拠点を同時に複数構築する。
◆
完璧ではなくとも、王国侵攻工作は順調に進んだ、はずだった。
最初の一報がもたらされたのが、多くの偽装商人達の帰還である。
「王都で『もどき』の連中に全然繋ぎが付かないんですよ!」
かつて「もどき」達の間で使われていた連絡網が消滅していた。
仕方なく領都や大きめの町で痕跡を探すが、突き止められない。
そのうちに、焦って自ら破壊活動を行った者達が捕まり出し、
派遣されたほとんどの者が撤退せざるを得なくなった。
現時点では、王国の街中で大規模な事件が起こせていない。
では、同時進行で行っていた魔獣の氾濫はどうなったのか。
最初の情報では相当数大型魔獣が王国内に侵入したと聞いていた。
王国外に生息している魔獣、その大多数が押し寄せたはずである。
しかしその後、犯罪組織側に全く魔獣絡みの情報が入ってこない。
王都周辺で大きな被害が発生した、とも聞こえてこない。
一月以上経って、工作員達からではなく市井の噂話で聞くところ、
「王都周辺で謎の大型魔獣変死体が大量発見されている」との事。
騎士団が死体にされたのではない。魔獣の変死体である。
王国各地の伝達塔、兼監視塔から、制式騎士団へ即時情報が入り、
多数の魔獣駆除の傍ら、干からびた魔獣が各地で見つかっていると。
氾濫工作の担当者は、予定通り魔獣寄せはまき終わったという。
だが迅速な騎士団や冒険者の対応と、妙な魔獣変死事件のせいで、
大きな混乱が見られないまま事態は鎮静化してしまったらしい。
魔獣の氾濫計画を続行しようにも、大量に魔獣寄せを使ったせいで、
王国外に生息していた大型魔獣はほぼ枯れてしまった。
元通りの頭数に戻るには、この先数十年かかるかもしれない。
犯罪組織の長達も、この異常さには声も出なかった。
どれだけ王国の治安は強固だと言うのか。拠点構築どころじゃない。
あちらで捕縛された連中から、工作資金も大半が没収されている。
金はまた稼ぎ出せるが、追加したところで無駄になるかもしれない。
都市ではなく田舎町に潜伏させても、拠点としての活動はしづらい。
第三者を介しているので指揮系統を担った者は無事帰還しているが、
犯罪拠点の大規模構築計画は、根本から見直さねばならなくなった。
彼らはまだ知る由もない。
「もどき」が王都や領都で活動しづらくなった夜間照明の普及も、
伝達塔が監視塔の役割を兼ねるようになり防災対策が向上したのも、
出発点が一人の未成年だという事実を。
「あぶれた者達は」「伝達塔の人達」「謎は深みにはまるばかり」
このあたりを読んでいただくと話も分かりやすいかと。
あ、干からびた魔獣は煮れば出汁ぐらいはとれるかもしれない。




