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殿下の背景をキラキラさせるのが仕事です

作者: 城壁ミラノ

 殿下が、ご登場なさる――



 ご令嬢たちの前に――タイミングを見計らい――



 キラキラ魔法発動!!



 キラキラ〜〜〜〜



 殿下の背景が輝き出す


 黄金のように魅力的に星のように美しく


「きゃぁ~!」

「わぁ~!」

「殿下〜!」


 歓声は完璧に決まった証拠だ。


 殿下もキラキラ魔法に合わせて、白い歯を見せて笑う。

 完璧なコンビネーションで私たちは人々を惑わし魅了していく。


 しかし――私は悩んでいます、殿下……


 私はいつも、あなたの陰。あなたのキラキラした背景のさらに背後に控えて見えない存在。

 キラキラ魔法を発動させ、タイミングを見計らい消して、自分もそっと退場する。


 それだけの存在。


 私の役目は限られた者しか知らない。

 令嬢たちは私の存在さえ知らないようだ。


 最近では殿下にさえ、


「あ、ここに居たの?」


 などと言われる始末。


「キラキラ魔法があまりにも自然に私の背景を飾るせいだね」


 殿下は無邪気に笑った。信頼と安心の証。


「私にはリックの魔法が日々上達しているのがわかる、これからも頼むよ」


 と褒めていただけたが――


 あ、ここに居たの? という言葉は心にグサッと刺さり深く考えさせられた。


 確かに、私のキラキラ魔法は日に日に上達して最近では微動だにせず出せるようになった。

 これならいつでもどこでも殿下をキラキラさせて差し上げる事ができるだろう。


 そう、令嬢と二人っきりになった時などでも……


「頼むよ、リック」


 その時が来たのはそう先でもなかった。


 舞踏会の夜、美しい庭園、月明かりが殿下と令嬢を照らす――私は殿下にさえどこにいるか気づかれないまま柱の陰から――



 キラキラ魔法発動!!



 素晴らしいタイミングだった。

 雲が一瞬月を隠し再び月光が二人を照らす――月とのコンビネーション。

 秒単位のタイミングに合わせて殿下をキラキラさせることに成功。

 キラキラ魔法に合わせた殿下の笑顔を見た令嬢の瞳は大きく見開かれ、うっとりと閉じていった……


 二人のキス。


「おめでとうございます」


 そう思ったはずだった、そう言いたかった。


 しかし、心に浮かんだ言葉は口から出たのは、


「何をしているんだろう、私は……」


 虚しい呟きだった。



 私だって、殿下と同じ年で令嬢と恋を……こんなことをしている場合か?


 そんな邪な不満が胸を苛んだ。


 私だって、殿下には遠く及ばないのはわかっているが、悪くない美貌の持ち主だと言われたことがある。

 キラキラ魔法もレア魔法の一つで難易度は高い。それを使いこなし、キラキラの形、大小様々な大きさ、輝かせ方、魔法の範囲まで、殿下の要望に合わせて変えることができる。

 それだけに報酬も良いし伯爵家を継ぐ身分もある。


 しかし――令嬢たちからすれば……


 殿下の前では私など霞んで見えるだろうし、キラキラさせる私よりキラキラする殿下のほうが良いに決まっている……


 一生このまま孤独に陰から殿下をキラキラさせるのか


 結婚相手は家同士で決める政略結婚でなんとかするか……


 それを思うと……


「はぁ」


 こんな私から出てくるキラキラ魔法――


 いつからか湧き上がらなくなった達成感。


 殿下のお役に立てる喜び。


 私だけができるという特別な使命感。


 失くしてはいけないものを失くしていく感覚。


「お役を降りるべきなのか……」


 心の苦悩がキラキラ魔法に影響を及ぼす前に。



 役目を終えて部屋に戻り、今一度、冷静に考えることにしてみた。

 バルコニーからキラキラ輝く星を見上げながら――


「本物の星は美しいな……いっそ、殿下を輝かせる役目を任せたい……」


 本音が出てしまったのだろうか。


 誰かに任せるべきか、まだ私がやりたい――

 相反する気持ちの葛藤をどれくらい繰り返しただろう?


 私の瞳に夜空の星ではない輝きが映った。


 キラキラ魔法――!?


 このタイミングで。信じられないが間違いない。


 見えたのは貴族街の屋敷からだった。

 誰の? ここからではわからない。

 駆け出していた、キラキラ魔法を目印に。

 近づくほどにわかった、完璧だと。

 辿り着いたのは、


「確か、シード伯爵の屋敷」


 二階のバルコニーに居る令嬢が魔法を発動していた。


 立ち尽くして見惚れていると目があった。

 気づかれてしまった、私が今さら誰かに気づかれるとは思わなかった。


「あっ、怪しい者ではありません!」


 声は届かなかったかもしれない。


 貴族の礼をしてみせると、令嬢も礼を返してくれた。

 ほっとして笑うと笑顔を返してくれた。


 キラキラ魔法ではっきりと見えた――


 初めてといっていい。個人的な令嬢とのやりとり。


 胸が高鳴っていく、初めての感覚。


 令嬢が魔法を消してバルコニーから姿も消した。

 恥ずかしさに隠れてしまったのだろうか?

 そうだとして、もう出てこないとしても――

 この場から動けなかった。


「美しい人だった……」


 キラキラの背景がよく似合う。


 私のキラキラ魔法で飾って差し上げたくなった。

 明るくなってからまた会いに来ようか。

 そう迷っていると、門に人影が近づいてきた。


 さきほどの令嬢だった。

 近くでみても可愛らしく美しい人。好奇心に満ちた瞳と笑顔。


「こんばんは」


 挨拶を交わしてから、


「私はアルバートン伯爵家の息子、リックという者です」


 安心させるために急いで自己紹介をした。


「殿下の……側近をしております」


 他に言いようがなかった。



 キラキラ魔法で殿下の背景をキラキラさせています。


 ――などと、言えない。


 極限られた者だけが知っている、他言無用の秘密でもあるし。


 キラキラの背景は、殿下自ら輝いている。

 人々は皆そう信じてもいるのだから。

 目の前の令嬢もきっと……


「殿下の側近の方……」


 こんな方、居たかしら? というように小首をかしげた。


「リック様、はじめまして。私はルシアと申します」


 ルシア嬢も私の存在を知らない……


「どうぞ、お入りください」


 ショックと招かれた喜びが混ざったまま。

 ルシア嬢について行き庭にあるベンチに腰掛けた。


「リック様、私に何かご用でしょうか?」


 突然訪ねて来たことを説明しなければ。


「ルシア嬢、あなたの魔法を見て思わず来てしまいました。城のバルコニーからでもわかるほど美しいキラキラ魔法でしたよ」


 ルシア嬢は嬉しそうに笑った。


「褒めいただけて嬉しいですわ。私、殿下のキラキラ魔法に憧れて必死で習得しましたの」


 殿下のキラキラ魔法……やはり……


「殿下の側近の方に褒めていただけるなんて!」


 喜びにキラキラした瞳が眩しすぎる。


 私の暗く沈んでいく気持ちなど、かき消すかのように――そうだ、彼女に後継者になってもらうか?


「ルシア嬢。今から話すことは秘密にしてください」

「……わかりました」


 彼女の顔つきが神妙になった。


「実は、殿下の背景を飾るキラキラ魔法は私が出しているのです」


 意を決して打ち明けた真実。


 ルシア嬢の瞳がまた大きく開かれた。

 私の姿を上から下まで見直している……陰のように黒い髪、黒い瞳、側近が着る黒いスーツ。何の印象にも残らないだろう。


「リック様が、キラキラ魔法を」


 確認するような呟きだった。


「そうです。今までずっと私が殿下を輝かせる役目を担ってまいりました。幼少期にキラキラ魔法を発動させることができてからずっと」


 思えば長かった……


「そのためだけに私は……殿下のお側に、いいえ

 後ろに居ました。キラキラ魔法の陰に……!」


 私になど興味ないだろうと思いつつ。

 誰かに知ってほしかった。

 その想いが急に溢れ出してしまった。

 涙で瞳がキラキラしそうだ――気づかれないようにそっと顔をそらすと、


「リック様が殿下を……知りませんでしたわ」


 ルシア嬢の驚きの声が静かに聞こえてきた。


「キラキラ魔法の陰に居たなんて、一度も気づきませんでした」

「それは……」


 純粋に驚かれて思い出した。

 私が誰にも気づかれないことは大事なことだったと。


「嬉しいお言葉です。役に徹することができていたということですから……」


 役目に対する自尊心が蘇るのを感じた。


 ルシア嬢に顔を向けることもでき、もう一度キラキラする瞳を見た。


「リック様、どうか、あなたのキラキラ魔法を見せてくださいませ」


 願われた次の瞬間には魔法を発動してみせていた。


「凄い! どうやって発動したのかわかりませんでしたわ」


 自分を取り巻くキラキラ魔法を見まわしてから、ルシア嬢は私のことも不思議そうに見つめてきた。


「最近では、瞳を対象に向けるだけで発動できるまでになりました」

「瞳の動きだけで? 凄いですわ!」


 いつ以来だろうか?


 凄いという称賛が自分に向けられたのは――


 喜びとともに役目に対する誇りが戻った、完全に。


 久しぶりだ、自然と笑顔になれたのは。


 感謝の気持ちを込めてルシア嬢を見つめていると、


「よろしければ、私にも教えていただけませんか?」


 控えめながら真剣に願われた。

 彼女になら――


「もちろんです、喜んで!」


 喜ぶルシア嬢と同じく気持ちが急いだが、


「ですが、今夜はもう遅いです。暗闇のほうがキラキラ魔法は見やすいですが、それはシード伯爵の許しを得てからにしましょう。明日、明るくなってから改めて屋敷を訪ねてもよろしいでしょうか?」

「はい。お待ちしています!」




 翌日、約束の時間に行くとシード伯爵と奥方が出迎えてくれた。


「ようこそ、リック殿。魔法を教えてくださるそうで、娘のわがままを聞いていただき感謝申し上げるよ」

「どうぞ、ごゆっくりなさっていってくださいませね」


 シード伯爵家と我が家は伯爵家同士知り合いで、幸いすんなり歓迎していただけた。

 まずは落ち着いて屋敷に入れたが、ルシア嬢の部屋に案内され少し緊張した。


 初めて入る令嬢の部屋――


「リック様、今日は、よろしくお願いいたします」


 ルシア嬢も緊張しているようだ。


「よろしくお願いいたします」


 照れ笑いを交わして、用意された椅子に向かい合って座った。


「これが、私の読んでいる魔法書です」


 気を落ち着かせて持参した本を開き、自分流の魔法の扱い方を一から説明していく。

 真剣に本を読み話を聞くルシア嬢。こちらも真剣にキラキラ魔法の全てを教えたくなった。

 自分の後継者にするためではなく、純粋に上達してもらい喜んでもらうために――

 そういう思いで教えて差し上げていると、自分もキラキラ魔法を楽しめた。初めて習得した頃のように。


 初心に帰って一緒にレッスンしてから、休憩のため庭のテーブルに招かれた。


 初めて、令嬢と二人きりでお茶をいただく。


「リック様、お味はいかがですか?」

「とても、美味しいです」


 レッスンの時は自然にできたのに、ぎこちない返事と動作になってしまう。

 それを解決するためにキラキラ魔法をだした。もちろん、ごまかしだけでは無く、ルシア嬢が喜んでくれそうなケーキを輝かせることで意味を持たせて。


 ルシア嬢はキラキラした瞳でケーキを見てくれた。


「キラキラ魔法は、明るいところでは陽の光の影響を受けるので眩しくなり過ぎないようにする必要があります」


 輝きを微調整してみせると、ルシア嬢は真剣な顔になった。


「学ぶことが沢山ありますわ」


 次のレッスンの約束を交わした。


 それから二度三度と会ううちに、お茶の時間も自然体でいられるようになっていった。

 ルシア嬢のおかげで進退の悩みはすっかり消えて殿下の背景をキラキラさせる役目は引き続き担っている。


 令嬢たちのために殿下をキラキラさせることも、もう大切なお役目の一つと受け入れることができる。

 殿下の開いた茶会の庭園、美しい令嬢たちがいても目が探すのはルシア嬢――


「リック様、ごきげんよう」


 殿下のご登場を待って、さりげなく立つ私を見つけて笑顔で歩いてくる姿、キラキラさせて差し上げたくなる。

 しかし、今は我慢して。


「ルシア様、殿下がいらっしゃいますよ。見ていてください」


 私の横を通り過ぎていく殿下を目で追って。

 ルシア嬢と令嬢たちが集まり、客人の視線が注がれ、殿下が足を止めたタイミングで。


 キラキラ〜〜


 今回も完璧だった。

 皆の歓声からわかる。

 何より、ルシア嬢の喜んでいる笑顔から。


 さりげなくまた二人になった時に、


「太陽の光とリック様のキラキラ魔法が調和して、殿下が素敵に輝いていましたわ〜」


 と称賛をくれた。


 また涙が出そうな嬉しさと自信がみなぎってきた。


 そんな日常にルシア嬢とのレッスンが組み込まれていった。レッスンの時間は殿下と行動する私の予定に合わせていただき、夜は常識的な時刻で長居しないように。

 ルシア嬢のご両親も私を信頼してくださっている。

「娘にはレッスン以外の時でも会ってやってください」と言われて嬉しかった。

 私の家族は令嬢にキラキラ魔法を教えていると話すと全て心得たような顔をしていた。

 私含めて皆が願う通り、ルシア嬢とは魔法のレッスンだけでなく、打ち解けた友人としても共に過ごしだしている。

 初めて話した庭のベンチに自然と並んで座り、なにげなく話をして笑いあえる。

 キラキラ眩しい青い空の下で、ずっとこうしていたい――しかし、いつか終りが来る。終わらないでほしい。


 儚い願いを知らず、ルシア嬢は夢中でキラキラ魔法を出している。


「はぁ、まだ指先を少し動かす方法でしか出せませんわ。瞳の動きでなんてまだまだ……」


 残念がるルシア嬢には申し訳ないが私は安堵した。

 魔法のレッスンが続けば一緒にいられる時間が長くなるから。

 そんなズルいような内心など知らずに、ルシア嬢は笑いかけてくれた。


「リック様は本当に素晴らしいですわ」


 キラキラした尊敬の眼差しをくれる、それに同じ眼差しを返す。

 私たちは尊敬しあい高めあう仲になっているから。

 私のほうが教える側というのももうあと僅か……


「そのキラキラ魔法を私だけでなく、令嬢の皆さまにも教えて差し上げれば喜びますわよ」


 突然の提案に驚いた。


「ご令嬢方に?」

「ええ。私たちはキラキラしたものが大好きですの。自分自身もキラキラ輝けたら夢のようですわ〜!」


 ルシア嬢はキラキラした笑顔をはじけさせた。

 可愛らしさに見惚れていると、


「私は自分でできますけれど、他の方は……リック様にキラキラしていただけたら、きっととても喜ばれますわ」


 本気でそう言っているのがわかった。

 意外な話――私のキラキラ魔法が令嬢たちを喜ばせるとは。

 確かに、ルシア嬢の反応を見れば間違いないだろう。

 キラキラ魔法にそんな使い方があったなんて……


 今までの私なら、それで令嬢たちと "お近づき" になろうとしたかもしれない。


 しかし、ルシア嬢に出会った今の私は――


「喜んでいただきたいですが、キラキラ魔法は秘密の魔法ですから」

「そうでしたわね、私も秘密にしないと」


 慌てて身を引き締めるルシア嬢に、私も改まって向かい合った。


「殿下にはこう言われました――キラキラ魔法のことを教えていいのは殿下の親族と側近、それから私の親族と、後継者となる者と、そして、一番大切な女性にだけだ、と――」


 ルシア嬢は私を見つめた。

 思いがけない告白になってしまった、けれど、瞳はそらせなかった。

 真剣な想いを伝えたかった。


「ルシア、あなたは私にとって誰より大切な女性です」


 キラキラ魔法で彼女を輝かせる――


 ルシア嬢は驚いてキラキラ輝く自分を見回してから、こちらに顔を向けた。


「リック様……」


 キラキラした瞳が見つめてきて。

 彼女の顔に笑顔が浮かび、指先が動いた。

 キラキラ魔法が私を輝かせてくれて――その中で


 私たちはキスをした。


 気持ちが落ち着いた後でルシア嬢は教えてくれた。


「城に向けてキラキラ魔法を出していた時、殿下に気づいていただけたらなんて思っていたんです。ですが、キラキラ魔法に気づいて会いに来てくださった方がリック様でよかった……私の運命の人です」


 キラキラ魔法が引き合わせてくれた――


「ルシア、あなたこそ私の運命の人です」



 この幸せ……

 キラキラ魔法に影響しないようにしなければ。

 いや、殿下も恋人がいて幸せなのだから国中をキラキラにしても問題ないかもしれない――

 城での待機中にそんな浮かれたことを考えていると殿下がいらした。


「リック、エリザとの婚約が決まったよ」

「それはおめでとうございます!」


 エリザ嬢、あの月夜のキスの相手。完璧なタイミングでキラキラ魔法を出す役目が報われたようだ。


「近いうちに婚約発表をすることになる。そこで私だけでなくエリザもキラキラさせてほしい。発表のタイミングで上手く頼むよ」


 お二人をキラキラさせる。

 それを聞いて、ルシアが浮かんだ。


「殿下、その大役は私ともう一人、キラキラ魔法を使いこなす者に任せたいのですがよろしいでしょうか」

「キラキラ魔法を使いこなすのか、どんな者だ?」

「私の一番大切な女性です」


 殿下は驚いてから笑顔になった。


「リックにも見つかったのか」

「はい」

「ぜひ、頼むよ!」



 さっそく、ルシアに話すと彼女は見たこともないほど緊張した顔つきになり黙り込んでしまった。

 ハッとした。

 私にとって殿下は親しい人でもあり、キラキラ魔法を使う役目は日常。だが、ルシアにとって殿下は王族であり、キラキラ魔法を使う役目は初めてのこと。


「突然のことですまない、どうか、お願いしたい。君を大切な人だと殿下に紹介したいし、婚約発表の役目は君と二人で果たしたいんだ」


 両手を握って強く願った。


「君以外にいないんだ――だけど」


 令嬢は自分をキラキラさせたい、それを思い出した。


「キラキラ魔法をお役目に使いたくないならそれでいいんだ。私は君がキラキラしてくれていればそれでいいし、殿下とエリザ様は一人でも輝かせられるから」


 自分とルシアをキラキラさせてみせると、


「二人でしましょう」


 力強い返事が返ってきた。


「せっかく、リック様に教わったのですもの。私も殿下とエリザ様をキラキラさせたいですわ」


 ルシアはいつものキラキラした瞳を向けてくれた。




「キラキラ魔法の使い手だけあって、キラキラした美しい令嬢だね」


 ルシアを紹介すると殿下は褒め称えてくれた。


「ルシア。君にはエリザをキラキラさせるのを頼もうか」


 そう命じた殿下は少し首をひねった。


「しかし、君は私の後ろに居ても目立ってしまうかもしれないな……婚約発表パーティーに出席する令嬢たちにまぎれて魔法を出せるかな?」


 人に紛れて。難しい役目になるかもしれない。


 私はルシアならできると信じているが……

 彼女と瞳が合った。私の思っていることが通じたのか力強くうなずいてくれた。


「かしこまりました。殿下、お任せください」


 これ以上ない頼もしい言葉。

 殿下も信頼した笑顔でうなずいてくれた。


「任せるよ、二人とも」


 私も身を引き締めて彼女の隣に並んだ。



 婚約発表の時――

 私はいつも通り殿下の後ろにスタンバイした。

 ルシアは怪しまれないように、いつも通り親しい令嬢たちと一緒に並びスタンバイしている。

 エリザ嬢の左ななめ後ろ、近すぎず遠すぎない位置だ。


 ルシアに気を取られていると、殿下が歩き出した。

 いつも通り何の合図もなく。私もしっかり役目を果たさなければ――!


 殿下がパーティー会場の中央に到達するタイミング。



 キラキラキラ〜〜!!



 婚約発表という舞台に合わせてキラキラは盛大に会場の広さに合わせて範囲は大きく。

 完璧に上手くいった。

 パーティー会場に響き渡る歓声と拍手が教えてくれる。

 だが、いつもと違い緊張は続く。


 次は――


「皆さま、今日はお集まりいただきありがとうございます」


 殿下の発表が始まった。

 皆の視線が殿下に向いた、ルシアの視線も。


「私、レオンハートは婚約いたしました! 相手は――」


 誰もが息をのんで動かない、ルシアも。


「リオーネ侯爵家の令嬢、エリザです!」


 一斉にエリザ様に視線が向いた、ルシアも。


 その瞬間――



 キラキラ〜〜!!



 エリザ様がキラキラと輝きを放った、とても美しくヒロインの彼女を照らす輝き。


「わぁ〜!」

「きゃぁ~!」

「おめでとうございます!!」


 完璧なタイミングだった。

 それはいつものように歓声が教えてくれた。

 誰にも気づかれずに。

 ルシアは瞳の動きだけで魔法を出した。

 感動で私は泣きそうになった――まだだ。


 エリザ様が殿下の隣に向かっている。

 私とルシアの役目もまだ残っている。

 お二人が並んだタイミングを見計らって、二つのキラキラを混ざり合わせ、形を変えていく。


 殿下とエリザ様の背景に大きなハートのキラキラが完成!


 会場を包む大歓声――私とルシアのコンビネーションも完璧なことを教えてくれた。




「ルシア、凄いよ!」


 二人きりになって感情を抑えきれなくなった。

 抱きしめると彼女の体は緊張が解けて震えだした。


「よかったですわ。上手にできて」


 瞳はキラキラしていて満足そうな笑顔がみれた。


「完璧だったよ!」


 パーティーの後の殿下の称賛も蘇ってきた。


『最高の演出だったよ! 私だけでなくエリザも完璧なタイミングでキラキラしてくれた!』


 エリザ様も感動の涙を流して微笑んでくださった。


『とても光栄で幸せな瞬間でしたわ』

『私とエリザをこれからもキラキラさせてくれ、二人とも』


 これからはルシアと二人で――


「これからも殿下とエリザ様をキラキラさせていこう」

「はい、喜んで」

「愛しています、ルシア。私と婚約してください」


 私たち二人の婚約は密かに。


 瞳と瞳があった瞬間、完璧なタイミングで


 永遠に輝くキラキラのなかで――


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